第二話
第二話
空洞の中は外から見た以上に暗い。前を歩くハクの姿はおろか、自分の足元さえ暗闇に包まれている。上下も左右もない宇宙空間に放り出されたかのような錯覚と格闘しながら、釈迦の垂らした糸に縋るように出口からの細い光を頼りに足を動かす。
「おい、珀磨!いるか?いるんだろうな!?」
不意にハクの震えた声が背後から響いた。どうやら気づかぬうちに追い越していたようだ。
「ここにいるぞ。」
「どこじゃ!どこにおる!?近う寄れ!」
「はいはい、危ないから動かないでくださいよ。」
とは言ったものの、何も見えないのは俺も同じだ。仕方がないので、ハクの急かす声を頼りに、手探りで来た道を引き返した。闇をかき分けるように進むと3、4メートル歩いたところで、手に柔らかいものが当たるのを感じた。これだ、と思いつかむと同時にその手に鋭い痛みが走った。
「どさくさに紛れてドコ触っとるんじゃ!!」
今までの震え声はどこに行ったのか、けたたましい怒号が耳を劈く。
「まあ、ここまで来たのは誉めてやろう。」
「はいはい。じゃあ、出口に向かいましょう。」
「ま、待て…、その…手をつないでくれぬか…?」
「…。」
―――大樹のトンネルを抜けると、目の前に水のカーテンが現れた。
「ふふふ、驚いただろう。こちら側では扶桑の樹から滝が流れ落ちているのだ。」
明るいところに出て元気を取り戻したハクは、俺の手を握ったまま、潤んだ瞳でドヤ顔をキメた。
「ここがわしの故郷じゃ!ようこそ桃源郷へ!」