第一話
第一話
白玉が手伝ってくれたおかげで、落ち葉は案外早く片付いた。(自称)仙女が神社で掃き掃除とはどこか戯画的な面白さがある。そんなことを考えながら、二人分の箒を片付け、早速本題に入った。
「で、今からどこに行くんですか?えーと、白玉さん?」
「なぁに、それほど遠くはない。それと、わしのことはハクと呼んでくれ。」
「俺は珀磨って言います。よろしく。」
「うむ、こちらこそよろしく頼むぞ。」
軽いあいさつを済ませつつ、境内の裏へと向かうハクの背を追う。
「この先じゃ。」
ハクが歩みを止めたのは神社のすぐ裏、背の高い草木が生い茂る林だった。小さい頃から「この先に入ってはいけない」と耳にタコができるほど聞かされていたので、林の奥に何があるのかは俺でさえ知らない。
「ほいっと。」
年寄くさい掛け声と共に彼女が手で空を払うとモーセの奇跡のように草が左右に分かれ、大人一人が通れるくらいの道が作られた。開けた視界の先には、恋道神社の御神木の何倍もの太さをもつ大樹が厳かに佇んでいた。ハクに従い草の道を進み大樹に近づくと、大樹の根本に先ほどはなかったはずの大きなトンネル状の空洞が口を開いている。かなりの奥行があるようで、深淵の暗闇の奥に出口らしき光が辛うじて見える。
「この樹は扶桑の樹と言ってな、何千年も昔から今の姿のまま、ここに根を張っているそうじゃ。」
「何千年も!?うちの神社の裏にこんなものがあるなんて知らなかった…。」
祖父はこの樹のことを知っていたのだろうか。ハクはなぜ俺でさえ来たことのないこの場所に詳しいのか。ハクと祖父は互いのことを知っているのだろうか。様々な疑問が頭を駆け巡る。
「ハクは…」
「何をぼさっとしておる、早く行くぞ。…で、何か言ったか?」
「いや…何も。」
喉まで出かけた疑問を飲み込み、彼女のあとに続いて空洞に足を踏み入れる。ここで全て聞いてしまうより、彼女について行き答えを探す方が面白そうだからだ。