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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第四章 北の大地、北の国。
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増えていたお客さん。

 宿屋に戻り、お客さんから話を聞くことにしたフミアキ。

◇◇◇


「ただいまあ~、遅くなっちゃった!」


 俺とコトハ、マイヤさんの三人とゼファーじいさんが、宿屋である『羽根飾り亭』の玄関を開けて中に入る。カランコロンと鳴る扉に付けた鈴の音を聞いて、フワフワとセントアがやってくる。


「お帰りなさい、パパ、コトちゃん! マイヤさんもお疲れ様でした!」


 明るい色を放ちながら、満面の笑顔を向けてくるのにこちらも笑いかける。この笑顔は根っからの人柄を表していて、見た目がまんま幽霊なのにお客さんの誰一人として、嫌がったり気持ち悪がる事がない。それだけに不憫でもある。


「おう、ただいま。変わったことはなかったかい?」


 玄関を入って正面からは、夕食を済ませて戻ってきたお客さんだろうか、ラウンジでくつろぐ声が聞こえてくる。それにしても賑やかだけど、こんなにお客さんいたかな。野太い笑い声が複数人分する気が……


「うん、これといったことはなかったかな? あっ、さっきソダンさんがお帰りになったんだけど、同じような旅の方たちを連れてきてくれたの! おかげで今満室状態だよ、すごいよね♪」

 

 それでか、この賑やかさは。正式に開業してから、満室は初めてだ。こんなに嬉しいことはないんで、俺が感涙に浸っていると横っ腹をツンツンされた。


「ねえ、パパ。今チャンスかもよ? トンネルの北側の様子を、生の声で聞けるのは」


 コトハがさも当たり前のような顔をして、俺にラウンジに行くよう促した。


「お、おう。そうだな、行ってくるよ。コトハ、お前はどうする?」


「う~ん、私はいいや。私はママのとこに手伝いに行くよ、朝食の仕込みもあるだろうしね」


 確かに満室状態なら、明日の朝はてんやわんやになるかもしれない。風呂の準備や、お湯運びなんかもあるからやることは多い。それでも今は情報収集の方が重要だ。


「分かった。じゃあコトハはサクヤの手伝いを。セントアは風呂の様子と、客室へのご用聞きを頼む」


「はいっ!」


 二人同時に元気よく返事をする。二人がそれぞれの仕事に向かったので、ラウンジに行こうと足を向けようとした矢先、ふくらはぎにコツンとなにかが当たった。見ると、今までどこにいたのかクゥが俺を見上げていた。


「クゥ、今までどこにいたんだ? 確か俺たちと一緒に領府に向かったはず、そういやあ向こうでも見なかったような……」


 クゥは素知らぬ顔で俺を見ながら、ラウンジに先に行こうとしている。


「なんだ、お前もラウンジに行きたいのか、コトハは厨房だぞ?」


「プン、プーッ!」


 違う違う、こっちの方が大事だとでも言いたげだ。俺は肩をすくめながら、はいはいごもっともでとかなんとか言いながら後に続いた。どっちが主人なんだか。ふう。



 ラウンジには、お客さんのソダンさんと同じような身なりの旅人風の男性ばかり、五、六人が談笑していた。季節は日本で言うところの晩春にあたり、人いきれのせいか少しだけ蒸している。でも埼玉に比べればどうってことはない。むしろ朝晩のやや寒く感じるところなんか、北海道に近い。


「うおうっ!? なんと黒一角ウサギ! これは貴重な獲物……え、この宿屋のご主人か? なになにこのウサギは宿屋の家族だと。ざ、残念、仕留められたら緑鉱貨で五枚は下らぬものを……」


 クゥがプンスカしている。緑鉱貨って聞いたことのない貨幣だ、高額だから目にしたり聞いたことがないのかもしれない。


「挨拶が遅れました、はい、私が当『羽根飾り亭』の主です。お泊まりいただきありがとうございます」


「すまんな、ご主人。勝手に連れてきてしまって大丈夫だったか? 女将さんも身重の様子、負担にならねば良いんだが」


 俺たちがいない間に押しかけたようで気まずかったんだろう、中の一人が頭を下げる。他の連中も同じようにするところを見ると、客筋は良さそうだ。


「大丈夫ですとも、ご心配には及びません。それよりも、少しばかりご一緒しても構いませんか?」


 みんなが首肯するので、俺とクゥは輪の中に入った。


 一同が持ち寄った酒と、なにやらよく最近目にする酒の肴が、大皿に入ってテーブルの上に置かれていた。


「しかしこのつまみは美味いですね。コリコリッとした噛み応えと、甘酸っぱいタレがなんとも」


 サクヤが用意したのだろう、アメフラシの酢の物だ。なにせ大量に集めたアメフラシだ、いくらでも出せる。アメフラシ様々だ。あ、こっちのはウホッホ族の力持ちのアメフラシのことだ。ややこしいが、今頃どこで雨を降らせてるんだろうか、いや、アメフラシをかな? むむむ。


 この後、連中は酒とつまみで、俺はサクヤが取り分けてくれた夕食を食べながら(お客さんを目の前にしながらでなんだかなあだ)、北の情勢について話をした。


 余談だが、みんな今俺が食べているおかずが、明日の朝食に出てくると知って目の色を変えていた。おいおいソダンさん、よだれが出てるぞ。


 一通り話が済むと、いつの間にかクゥの姿が見えなくなっていた。どこに行ったのかはもう気にしないことにした。あいつはたぶん簡単には捕まらないだろうからな。

 遅くなりました。しかも短めですみません。リアルが忙しくとかなんとか……


 なるべく時を置かずに次話執筆投稿出来ればと。よろしくお付き合いくださいませ。

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