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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第四章 北の大地、北の国。
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真の闇月。

 前回に続き、領主館でのお話。コトハがいろいろ振り返ったりします。

♪♪♪


「パパ、おじいちゃんをいじめるのダメだからね? なかなか自由に動いたり出来ないんだから、手伝ってあげないといけないんだから」


 ゼファーおじいちゃんが私のところにフワフワやってくる。そのお顔は、しょぼぼ~んってしてたの。そりゃあそうだよね、自分の専門分野? について蚊帳の外だったんだもんね。


『そうじゃそうじゃ! もっと言ってやれい、コトハよ。やあっぱりよく分かっておるわい、コトハはの。お、少し豊かになったようかの? ふくらみがこう……ふにゅっとしてきも』


 余計なことを言い出すおじいちゃんを、両手でぎゅって押しつぶしちゃった。ゼファーおじいちゃんは、賢者様ってみんなから尊敬されてるのにどうしてこう……すけべさんなんだろ。ふう。


 モゴモゴしてるから仕方なく手を話すと、咳払いしながら息が出来ないではないかって言ってる。カードになってるおじいちゃん、息してるの? むむむだ。


『げふんげふん。まあ良いわ。して、北の地の問題じゃったかの? もう一度整理してもらえるかの、わしが知っておることと現状のすり合わせをしておきたいからの』


 気持ちを切り替えたのか、キリッとした顔つきに変わって服装も、鹿革のロングコート、ベストに革のぴっちりしたズボン、革のロングブーツになってた。オール革づくしだね、蒸れないのかな?


 ゼファーおじいちゃんのためと、私ももっとよく知っておきたいから領主様のお話や、マイヤさんの話すことを真剣に聞き直した。私なりにそれを解釈すると、


 まず私たちがここに来るまで、ず~っと『色なし』の影響でロストール王国が困っていたっていうこと。『色なしの悪魔』ゾーンが悪さをする前から、次第に土地に力がなくなっていって、住む人達も無気力でやる気が感じられなくなっていったんだそう。この頃に、おじいちゃんがファーラルク様の下で巡察使になったんだって。それが今から十数年前。


 マイヤさんがゼファーおじいちゃんに見出されて力持ちの修行をしながら巡察使になった頃に、おんなじ弟子だったとっても『力』の強かったゾーンが巡察してる時に悪い考え? 教えに感化されて裏切ったんだって。まだ私にはあんまり判んないけど、『繋がる力』には正しい面と負の面があって、その負の面に落ち込んじゃうと悪い力持ちになっちゃうんだって。どこでも『力』をポンポン使っちゃダメだっていうのは、そんなとこからきてるのかもしれない。それがこっちの世界で五、六年前のこと。


 私がパパから聞いたところによると、ゼファーおじいちゃんがカードに移ってきたのもその頃みたい。もっとずっと前に今のタロットカードをある人から渡された(それについてはパパ、あんまり話したがらないんだよね……)時には、まだこんなに自由に絵が動いたり、意思がある感じではなかったんだって。


 ゼファーおじいちゃんは、とっても優秀だったゾーンが悪い『力』に落ちちゃったことを自分のことみたいに後悔して、逃げ出した後を追って心だけを『船運び』みたいに転移させて私たちの世界にやってきた。そこで何があったのかは、今度はおじいちゃんが言いたがらなかった。しばらくはパパの占いに協力しながら、幽世伝いでゾーンの行方を探っていたんだけど、三年くらい前にそのゾーンのせいで身動きできない状態になっちゃって、カード自体がパパの問いかけに応じなくなった。それは私もなんとなく知ってた。パパが落ち込んでて、引っ越しをしなくちゃならなくなった時期にあたる。


 ちょうどその時期にウラヌールに舞い戻ったゾーンが、領主様を闇の『力』で病気にさせて土地の生気を一気に薄れさせる事件が起きて。事の重大さから王国でも問題になって、それで代官が派遣されてきたけどその代官がどうやらゾーンと結託? しちゃったみたいで、悪さのしたい放題。ますますウラヌールの町は廃れていった。その頃にはもう北の山脈向こう側はとっくに打ち捨てられていて、すっかり忘れられた場所になってた。北の国であるシレールから人が来なくなっても、誰も気にする余裕もなくなってたみたいだしね。


 ここまで振り返ってみて改めて、『色なし』の怖さやそれをもっと広げようとするゾーンの仕業って、ほんとおにひどいことだったって分かるよね。それとそこに深く係わってるゼファーおじいちゃんの苦労や、巻き込まれる? ようにこっちにやってきて怒涛の勢いみたいな感じで今に至る私たち親子。


 う~ん、こうやってお話の内容を整理するだけでもも~大変! そもそも『色なし』ってなんなの? どうしてゾーンはそんな『力』に魅力を感じちゃったのか。そこが一番の始まりで問題なんじゃないかって思えてきた。


『やはりわしが彼奴めを逃してしまったのが、今日の問題を大きくしてしまった原因じゃな。深く恥じ入るばかりじゃ』


「いいえ、その後の調査でもなにひとつ、事態の解決に結びつくような情報も得られなかった私が悪いのです」


 あわわ、マイヤさんまでしょぼんってなっちゃったよ。ど、どうしよう。


「今はそんなこと言ってたってしょうがないと思う。とりあえず『色なし』の脅威は薄れてるし、こうやってフォーヘンド様だって元気になったじゃないか。それよりもこれからどうやってトンネルの管理をするか、北の地の復興ともしかしたらシレールだっけか? 北の国との関係も変わってくるかもしれない」


 ぽんって手を打って、そうパパが言うのへゼファーおじいちゃんが答える。


『その通りじゃな。その点からも、フミアキやコトハ。お主らの存在がいかに大きいか、そしてこれからに意味を持つものになってくるのかがよう思い知らされるの』


 パパや私のことをみんなで見てくるけど、そんなに大層な存在じゃないよ? 私もパパだって、ただここウラヌールで幸せに暮らせられればそれだけで良いんだ。でも……さすがにそんなわけにもいかなくなってるのは私にでも分かる。もうどっぷり浸かってるもんね、この短い間に。


『それにしても代官どもはいずこに消え失せたんじゃろうかのう。フミアキの言うようにトンネルを押さえられでもしておったら大変なことになっておったんじゃろうが、そうでもなし……』


「そうなるとあり得るのは、シレールって国に逃げ込んだ可能性かな」


 やっぱりそうなるよね。逆にそれしか考えらんない。


「シレールに行くわけにもいかない、よね?」


『今すぐ押しかけるわけにはいくまいて。わしがこの地を廻っておった際にも得体の知れぬ国であった。往来する民人はごく普通じゃが、内情がさっぱり掴めぬ国でな。しばらく行き来もないのであれば、ますます軽々に近寄れるものではないぞ?』


 そうなっちゃうともう打つ手なし? どうしたら良いんだろう。


『やはりここはコトハとフミアキ、お主らの『力』が必要になってくるの』


 へ? どういうこと、どぅゆうみん?


『フミアキ。お主のカードの『力』と、コトハの持つ『言葉を綾取る』力。これを用いてわしを本身に戻してほしいんじゃ』


「それってじいさん、あんたが人間に戻るってことか?」


『そうそう、わしはバケモンから人間になりた~いって違うじゃろ! もとより人間じゃわい、わし』


 そんな掛け合いをしながらも目だけは真剣そうに笑ってない。


『ただの。間に合わぬかもしれぬのじゃ、今期を逃すとその先は翌年になってしまうからの。いかがしたものか悩むところじゃ』


「……コトハの『力』の制御、修行がまだ足りないって事以外になにが?」


 なんで私の『力』が必要なんだろう、って言うのはまあいいや。いろいろこうやって係わってるんだ、それもあるからなんだと思う。それよりも間に合わないってなんだろう?


『もうしばらくすると、『真の闇月』の日がやってくるんじゃ。その日が来るまでにわしを戻すには時間が足りぬ。上手くすると間に合うかもしれんがの』


 そう言って黙り込んじゃったゼファーおじいちゃん。


 私やパパだけが知らないみたいで、他のみんなは納得してる顔だ。なんなんだろう、その『しんのやみづき』って。疑問ばっかりどんどん大きくなる。


 七の鐘が鳴った。日本では午後九時くらい、あんまり遅くなるのもっていうことでお開きに。とりあえず私は宿屋さんのお仕事と併せて、『力』の修行をもっともっとすることになった。


 少しでも役に立てるのなら、私は頑張るだけだ。頑張れば頑張るだけ、あの人にも近づける。そんな気がするから。


 『羽根飾り亭』に戻る道すがら、何気なく小陽を見ると、いつもより暗いかな? って思えた。もしかしてさっき言ってた『真の闇月』ってこのお月さまに関係してるんじゃ……

 いつもお読みいただきまして、心からの感謝を。


 これからもうしばらくは、コトハの修業と宿屋さんの日常が続くと思います。

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