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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第三章 宿屋さん、『羽飾り亭』。
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賑わいの裏側で。

『羽根飾り亭』に戻ってきたコトちゃんたち。フミアキさんがあることに気がついて事態が進みます。

◇◇◇


「ただいまあ~っ、ファーラルク様帰られたよ、パパママによろしくって言ってたよ♪」


 呼び鈴をカランコロンと鳴らせて、扉を開けて上がってくるなりコトハがそう言ってくる。セントアがふわふわっと向かい、声をかけている。


「コトちゃんお帰りっ! よっちゃんもどうだった、ウラヌールの町? なんもないけど、良いとこだと思うんだあ」


「セントアちゃん、ただいま♪ 見てみて、シトロン、お揃いになったんんだよ!」


「ただいまあ、うん、楽しかったよ! すごいの、『メイスンの西風亭』ってお店でね、コトちゃんとマイヤさんが歌ってくれて。お店の人のピアノも上手でね、もうそこらじゅうで大盛り上がりだったんだよ♪」


 三人でキャピキャピ、♪ やら! やらが飛び交っている。でもこんな時に最近では、コトハが言葉を音石にしたり、空気の色を変えてしまっったりしていたのが出てこないな。なにかあったんだろうか?


 俺が一緒に出かけてくれたマイヤさんに顔を向けると、にっこりと安心するように笑いかけてくれる。


「ヨシアと一緒に出かけたことで気も落ち着いたのか、無駄に『力』を使ってしまうこともありませんでしたよ」


 そう言ってコトハを見やる。そういえば、落ち着いてきたら『繋がる力』の修行をさせたいってことだったけど、そろそろ始めるのかもしれない。


 このところ町が明るさを取り戻しつつあるとフォーヘンド様が言っていたが、どうにもコトハや俺たち家族が、事件に巻き込まれることが多すぎる。しっかりと学び、身を守る術を身に着けられたらこれに越したことはない。


 奥の私室から、サクヤとウーハさんが互いに手を取りながら出てきて、大きくなったお腹を重そうにしている。


「お帰りなさい、二人とも。ファスタくん、マイヤさん、お付き合いしてくれてありがとうございます」


 そう言いながら、キョロキョロ辺りを探すようにしている。


「クゥちゃんは? 確か一緒に行ったんじゃなかったかしら?」


 そう言われればそうだった。珍しい黒の一角ウサギだ、捕まえて売りに出されたりしてもおかしくない。心配になってきたぞ。


「ファーラルク様と一緒だった間はそばにいたんだけど……」


 みんなで探そうと話し始めた矢先、建物横の林からヒョコッとクゥが現れた。我意に介せず、悠々とした態度でみんなの前まで来ると、


「クンクン♪」


 と可愛く鳴いた。


「クゥちゃん、一人でどっか行っちゃダメだよ? みんな心配するからね」


「プゥン?」


「分かったらはいは?」


 コトハが右手をまっすぐ上に伸ばしながら、クゥに教え聞かせている。クゥは野生なんだから、ちと無理があると思うけどなあ。


 こくん? と首を傾げてから、あああれね。みたいに右手を(前足か、クゥの場合)上げた。そうしながら、声でも答える。


「プイプイ!」


 まあ、可愛いからいいか。と思いつつも、なんだか気になる。


 クゥのモフモフの毛をわしゃわしゃしながら、コトハがサクヤに話しかける。


「ママたちはお昼どうしてたの? ウーハさんたちとどっか出かけたりしたんだよね?」


「ええ、ウーハとイルマリ、フィルフィリちゃんと一緒に北大路辺りをぶらぶらしたの♪」


 種族は違っても、女同士積もる話もあっただろう。良い息抜きになったのなら留守番した甲斐もあるってもんだ。留守番組は俺とウホイ、コルドレにラダー隊長だった。サクヤたちの護衛には、ラダー隊長が指名した騎士数名が当たってくれた。代官が見つからない今、なにがあるか分からないから慎重を期するに越したことはない。しかしサクヤの口から、意味深な言葉が出てきた。


「それにしてもここ数日で、北側も賑やかになってきたわね。お店も活気づいてきたし、こんなに人がいたかしらっていうくらい」


 うちにお泊まりに来てくれるお客様も増えるかも! と両手を合わせて祈っている。


「そんなに違うのか、活気が? 多くなった人の格好なんかはどうだった?」


「うん? そうねえ、旅行者……旅人って言うのかしら、こちらではね。けっこうな荷物を抱えて北門に向かう人や、私たちみたいな家族連れもいたわね。他には商人さんも多く見かけたわよ、領府近くで市場が開かれたんだけど、すごい人だかりでびっくりしちゃったのよねえ♪」


 ウーハさんやイルマリさんも相槌を打つ。フィルフィリちゃんもおんなじように頷いている。おしゃまさんで可愛い。っていやいや、これは重大問題だぞ、町にとってというよりウラヌール領全体にとってだ。


「ファスタ! 今の話、聞いてたか?」


「はい、聞いてました! 領としては賑やかになるのは嬉しいことですけど、あまりにも急激すぎますね。元から陽気な領民ばかりだけど、それだけじゃなく北門に家族連れで向かっているっていうのがどうにも……っ! 山脈を抜けるトンネルが出来たことと、関係は大いにありそうですね」


 おおう、ファスタはやっぱり出来るやつだ。俺は思わずコトハがクゥにしてるように、なでつけた銀髪をわしゃわしゃしてやる。そしてフォーヘンド様に急ぎ話し合いが出来るように伝えてもらうよう頼んだ。悪いな、領主の息子なのに使いっぱ頼んじゃってな。まあファスタのことだから、喜んで行ってくれるだろう。はっきり分かってしまってる俺が怖い。


 やめてください、犬じゃないんですから! とかなんとか言いながら、尻尾をブンブン振るようにしてファスタが飛び出していった。やっぱりね~って行かしてから、ふと思ったんだがファスタは一人で動き回って大丈夫なんだろうか? 昨日もコトハを助けに行ってすんなり捕まっていたみたいだが、あいつ、あんまり荒事には向いてない気がする。


 慌ててファスタを呼び戻そうとする俺を、マイヤさんが心配ないといった感じに首を横に振る。


「フミアキさん、心配ありませんよ。ファスタ様には、私の仲間が隠れて付いていますから」


「そうか、他にも巡察使がいるんだな? マイヤさん以外にこのウラヌールにも」


 周りを見ながらマイヤさんが、


「はい……知った顔ばかりですからお話しても大丈夫でしょう。その通りです、私たち巡察使は表だって動く者とは別に、陰でで動く者もいます。それが何人かは言えないのですが」


 そう言いながら、なぜかコトハの視線を避けている気がするのは俺の気のせいか?


「それならファスタは安心だとして、ラダー隊長。私が聞くのは筋違いかと思うんですが、これから急いで北門から峠道、山脈のトンネル周辺に人員の配置をお願いするのは可能でしょうか? 出来れば、トンネルを抜けて向こう側に行く人数が少ないうちに足止めをしておいてもらいたいんですが」


「それは何故でしょうかな、フミアキ殿? 人の往来が増えるのは悪いことではないと思うのだが」


 ラダー隊長が怪訝そうにそう言ってくる。そりゃあ通常ならまったく問題ない。通常ならな。でも今はそうは言ってられない状況だと俺は思う。


 今までここに来るまでの出来事や、ゼファーじいさんにまつわる話。フォーヘンド様やファーラルク様から聞いた断片的な内容から察するに、ロストール王国内が沈み込んでいる最中に、小さいながらも『色なし』の影響を退けた地方領ウラヌール。町の雰囲気が明るくなり、人々の顔にも笑顔が戻ってき始めている。しかも今まで険しい山道や峠道しかなく、往来するのが難しく厳しかったせいで打ち捨てられた山脈北側の土地と、トンネルが出来たことによって容易に繋がったんだ。これに目をつけない話はない。上手くすると一攫千金、土地の切り取り放題になってしまう恐れがある。それに俺が心配するもう一つの理由の方が大きい。


「ラダー隊長。確か、代官一派の多くは取り締まれたはずですが、肝心の代官はいまだに捕まっていないんですよね?」


「ああそうだが、それとこれとは別の話ではないのか? いささか判りかねるのだが……」


『ええい、変わらず頭が固いの、ラダーよ! つまりはこうじゃ。町の賑わいに乗じて代官は北側に逃げ込み、そこでいち早く何ら規制されるものもない状態で、広大な北の大地を我が物と出来るのだぞ? しかも山脈によって隔てられていた北側にはなにがあるか、おぬし知らぬ訳はあるまい?』


 マイヤさんの胸元から飛び出したゼファーじいさんが、ラダー隊長に言い募っていた。言ってることは正しいし、なにやらそれ以上に気になることを言ってる気もする。気もするが、それよりもじいさんあんた、ここんところ羽目を外しすぎてやしないか? 羨ましくて言ってるんじゃないぞ、けして。


「そういうことか! これはのっぴきならん事態だな。よし、わしの権限で急ぎ隊を編成して向かうとしよう。しかし今から隊を編成してとなると、少々時間がかかってしまうな……」


 確かに今は一分一秒が惜しい。気づくのにだいぶ時間が経っているから、もう遅いかもしれない。それでもあれだけコトハの救出に迅速に動けたんだ、なんとかなるかもしれないじゃないか? そう思った俺は、次に発された言葉に思いっきりびっくりさせられた。


「えと、さしでがましいかもしれないけど、ラダー隊長さん、ウホイさんたちにお願いしたらどうですか? ウホイさんたちウホッホ族さんは足も早いし、とっても力強くって頼りになります。コルドレさんたち穴掘りグマさんは、どこでも簡単に土を掘ってえ~っと、なんだっけ、どるい? 土の壁みたいな……」


「土塁だな? 確かに簡単なもので良い、一時往来を抑えられれば。しかもおぬしらは北側に住まいがあるのだったな? これは渡りに船というやつじゃな! わしからもお願いしたい。どうじゃ、力を貸してはもらえないだろうか?」


 コトハの顔を見、ラダー隊長の言葉に悩むウホイとコルドレ。しかしその時間は短いものだった。改めてコトハを見やり、代表してウホイが口を開く。


「コトハ、ウホイはむずかしいこと、あんまりわからない。でも、コトハたちはみんなよくしてくれる。おれたちの家、守るためもある。いこう、隊長! いそぐ!」


 コルドレも頷いている。こうなったら早いもんだ、ラダー隊長が号令をかけ騎士隊を集める。全員じゃなくて、近場にいる者だけであり伝令が一人領府に走る。騎士隊は馬に乗って急行することになるが、それに遅れを取るようなウホイやコルドレたちじゃない。走りながらこちらに一緒に来ていた男連中を集めて後を追う。慌ててゼファーじいさんが、ラダー隊長に連れて行くように言っている。


『わしがおぬしらと彼らの繋ぎ役となろう。それにわしにとっても因縁深い土地柄じゃ、行かぬ手はないからの』


「おお、それもそうじゃな! 薄っぺらくやや心許ないが致し方あるまい。ではわしの胸当てに入れ、馬揺れするからの、口は閉じておくのじゃぞ!」


 ラダー隊長が胸襟を少し開く。しかしゼファーじいさんはカードをふるふるさせてこう言った。


『いやそれには及ばぬぞ、ラダー。気持ちはありがたいがわしは大丈夫じゃ。『力』を使うことにはなるが、飛んでいくのに差し障りはないからの』


 フォッフォと高笑いしているが、じいさん、語るに落ちたな。マイヤさんが静かに音も立てずに近寄り、ゼファーじいさんの裏側からむんずと掴むと、


「最初からそうなさって下さいっ! もう私の胸は貸しませんからっ!」


 ビタ~ンっ! 地面に叩きつけられたカードから、じいさんのつぶれたような声が聞こえたが、気にしないでおこう。

 お読みいただいた皆様、いつもありがとうございます。


 最近更新間隔がやや空いてしまっています。申し訳ありません。出来るだけ書く時間を取りたいのですがなかなかそうもいかず。どうかご容赦くださいませ。


 次回は章最後の話になる予定です。ん? 部最後かな? 章のタイトル通りに話が進んでいない気もしますので、もう少し章を続けようか悩みどころです。

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