南大路の変化。
遅くなりましたが、最新話です。話はあまり進んでいませんが。
コトちゃんがファーラルク様を見送りに、南大路に向かいます。
♪♪♪
盛大に歌って踊った時間はあっという間に過ぎていく。
みんながみいんな、ウホッホウホッホ言いながら肩を叩き合い、笑いあって踊りまくっていた。
ウホッホのうただけじゃなくって、シャルネさんが弾くピアノでマイヤさんが歌ったり、二拍子で楽しくリズムのある演奏、なんだっけ、そういうの。そんな感じの曲でみんなで踊ったり♪
ファーラルク様やお付の人まで、お店の中のお客さんだけでなく集まってきたたくさんの人たちと一緒になって、分け隔てなく輪になっていた。
歌や曲、踊りでこんなに盛り上がれるんだね。そこには色も、特別な『力』も必要ない。『繋がる力』はその先にあって、普段の喜びや楽しさがまず第一。言葉にするとなんだかよく解かんないけど、そういうことかなあって思った。いつもいつも撒き散らすもんじゃなくって、普通の延長線上に感じるもの。
「いやあ楽しませてもらったよ、こんなになにも考えず、歌い踊り笑ったのはいつぶりだろうか。コトハに皆さん、お礼を言うよ。本当にありがとう」
ファーラルク様が私たちに頭を下げる。よっちゃんも喜んでくれてるみたいだし、良かったあ。
「いいえ、私も歌っててとっても楽しかったです! シャルネさんやゴーディさんのピアノもすごくて、元気もらえましたし。こ~んなに広い所で歌ったのも初めてだったから、すご~くワクワクしました!」
ファーラルク様がなんだかとってもあったかで、優しい笑顔で私のことを見てる。なんでかな、私が首を傾げてるとファーラルク様がこう仰ったの。
「コトハ。君には本当に感謝しているんだよ。賢者殿の封印を解き、ゾーンを抑え、あまつさえここウラヌールに賑わいと彩りを再びもたらしてくれたのだから。これからもまだ辛く、大変な目に遭うかもしれないが、君なら大丈夫だ。支える者もこうして大勢いるのだからね」
ファーラルク様の言葉が、じんわりじんわりと心に染みていくようで。
「はい、ありがとうございます! 私、この町がとっても好きです。まだ来てそんなに経ってないけど、いろんな事があって。色んな人達と仲良くなれて。もっともっとたくさん頑張って、町がもっと賑やかで明るくなるようにお手伝いしていこうと思います!」
「ああ、ぜひそうしてほしい。私はまた巡察に赴かねばならないからね。よくよく『力』の負の面には取り込まれないように」
そう仰りながら、私の頭を優しくなでてくれた。離れながらぽつりと、まああいつも見守っているはずだから……ってひとりごちていた。あいつって誰だろう。
お料理をたくさんごちそうになり、歌ったり踊ったりして気持ちもリフレッシュ出来た私は、よっちゃんやマイヤさんたちと一緒にファーラルク様のお見送りに、南大路に向かうことになった。
マイヤさんが心配げに私を見やり、よっちゃんが横にピッタリくっついていてくれるのが心強い。
「見送りなどしてもらわなくてもいいのだが……」
「そうもいくまいて。しかし、よく堪えておるの、コトハよ。大事ないか?」
ファーラルク様とゼファーおじいちゃんがそう言ってくれるのに、私は頭を振る。
「大丈夫、ってほどには言えないけど、もうそんなに気にしないどこうって思えたから……だって悪い人たちは捕まったんだし、騎士隊の方たちがああやって見回りもされてらっしゃるんだから、安心して出歩けるようになるんじゃないかなって思ったら、ね?」
そう、よおく見回してみると、あちらこちらにウラヌールの守護騎士隊の人が巡回しているのが目に入ってくる。他の大路よりも南の方が多いのかな。昨日まではあんまり見かけなかったから、と言ってもそれまで私も町中にそんなには来ていなかったからかもしれないけど、こんなには騎士隊の巡回って見なかったような気がする。
「お! コトハちゃんじゃないか、どうした、なにかあったかい?」
聞き覚えのある声がして、そっちの方を見るとご近所さんって言っていいのかな? ロンロさんが他の人と一緒に巡回をしているところだった。
「ロンロさん、こんにちは! あ、昨日はお世話になりました。すみませんでした、ご迷惑おかけしちゃって」
「なんもなんもだよ~。それよりもコトハちゃんこそ大変だったねえ。もう落ち着いたのかな?」
「はい、万全じゃあないかもだけど、あんまり気にしすぎても仕方ないですし。今日はいろんな所を回ってきたんです」
ロンロさんの相方さん? は私たちに気をつかってくれたのか、少し離れて辺りを警戒されている。
「そうかあ。そりゃあ良かった! 大事に至らなかったみたいだし、連中も一網打尽……代官はうまいこと雲隠れしちゃったけど、もう悪事に手を出すことは出来ないだろうしね。僕らもこうして巡回を強化するよう、隊長から言われててさ。ん、こちらの方はどなた様で? あまり見かけないお顔だけど」
ロンロさんがファーラルク様のことを指して言うのへ、
「こちらの方はね、昨日の叙任式にも来てくださったの。そして今日一緒にお出かけにお付き合いしてくれた……」
「も、もしかして、ふぁ、ファーラルク王子殿下であらせられますか? これは失礼いたしました!」
そう言ってロンロさん、その場で平伏しようと膝をついた。それを見てファーラルク様が止められて、気軽にお声をかけられた。
「今日は私はそういった者ではなく、あくまでもコトハと師匠を同じにする弟子同士。そんなにかしこまらないでくれよ」
「はっ、『導き手』ゼファー様のお弟子さんでありますね、承知いたしました」
そう言って、少し遠慮がちに姿勢を正してからロンロさんが私に顔を向けて小声で聞いてくる。
「なあ、コトハちゃん。コトハちゃんってさ、なにげに偉い人と仲良くないかい? ファスタ様とはお友達だし、ゼファー様がお師匠、フォーヘンド様とは普通に話しちゃうし。こんどは王子様と一緒にお出かけだなんてね」
あはは、そう言われれば確かになんだかすごいことになっちゃってるね。こっちに来てから周りがそんな人たちばっかりだからあんまり気にならなくなってる自分が怖い。
南大路の大店が並んでる中で、ひときわ大きな『船運び』屋さんの入っている建物。そこに着いた私たちは、ファーラルク様とお付きの人たちとお別れする時間に。
『船運び』の係である犬人さんが、『力』の籠もったクリスタルを用意している。どういった原理で遠い所まで人や物を運べるのか、私にはさっぱり判らないけどすごい技術だよね。明日はよっちゃんがここから日本に帰っちゃうんだね。寂しいけど仕方がないし、それに手紙のやり取りや行き来もそんなに難しくなさそう。お金はかかるけど、私もちゃんと働いてお小遣いっていうかアルバイト代? もらえるはずだからいっぱい貯めてくんだ。
ファーラルク様が私の方に向き直り、『船運び』される前に優しく声をかけてくれる。
「それではコトハ、当分会うことはないかもしれないが元気で頑張るんだよ。マイヤや賢者殿の言うことをよく聞いて、正しい力持ちになるようにね。フミアキ殿や奥方の手伝いもな。またいずれ会うこともあるだろうから、しばしの別れだ」
「はい、ありがとうございます。ファーラルク様もどうぞお元気で。またお会い出来るの、楽しみにしてます!」
私とよっちゃんに手を振り、マイヤさんの胸元でもぞもぞしているゼファーおじいちゃんにはにがにがしながら頭を下げ、マイヤさんには軽く頷く。
こうして王国の第二王子で巡察府の長官、ファーラルク殿下は『船運び』でいずこかへと向かわれた。
「じゃあ用事も済んだことだから、『羽根飾り亭』まで送ってくよ!」
ファスタくんが私とよっちゃんに声をかける。マイヤさんは今日もうちに泊まっていくそうだから一緒だね。
初めてこの町を案内してもらった時からすると、なんだか風も心地いい気がする。これって、シャルネさんとゴーディさんの酒場、『メイスンの西風亭』の女神様のおかげかも。そんなことを思いつつ、私たちは北大路に向かって歩き出した。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
コトちゃん、嫌な思いをした南大路に向かいましたが平気なようです。裏でみんながいろいろ動いてくれているからかもしれませんね。




