メイスンの西風亭。
マイヤさんの馴染みのお店。コトちゃんがあの歌を再び歌います♪
♪♪♪
目の前には、いろんなお料理が次から次へと運ばれてきて、私もよっちゃんも見たことのないものがあったりしてびいっくり! 色とりどりなんだよね、すごいなあ酒場って。
そう言えばここって、なんてお名前の酒場なんだろう?
「ねえマイヤさん、このお店、なんてお名前の酒場なんですか?」
「ああそうね、言ってなかったわね。ここは『メイスンの西風亭』、恵みをもたらす女神の名前の、町の憩いの場よ」
マイヤさんから聞いたお店の名前は、初めてなのになんだかとっても懐かしいなあって思えた。メイスンの西風、メイスンっていうのが女神様のお名前なのかな。どんな女神様なんだろう、やっぱり歌が好きなのかな?
「ここは変わらぬな。場の空気は昔と同じじゃ。しかもあのきかん坊であったゴーディが店主、さすると女将はどうしたのじゃ?」
ゼファーおじいちゃんがくるくると回りながらそう言ったんだけど、さっきのとお~っても失礼な発言のこと、私忘れてないからね? 私だってもすこししたらすごいんだからっ! なんてはずいこと思っていたら、さっきピアノを弾かれていたゴーディさんがやってきて答えてくれたの。
「賢者様、お久しゅうございました。ええ、母は元気ですよ、今は私の子供の面倒を買って出てくれています。どうも人前に出るよりも、妻と丁々発止やりあってる方が楽しいようで」
ニッコリと笑った顔が、ゼファーおじいちゃんが言うちっちゃい頃の面影を残してるようで、とても愉しげでかっこいい。
「それにしても先程の、あの光輝く様には仰天しましたよ。まるで目の前に、本物の女神様がいらっしゃるようで。初めてお会いしましたが、どういった……」
あう、またやっちゃったよ、抑えようとしてたんだけどなあ。なんだか来たばっかしの頃より、「力」が強くなってる気がする。だからかな、ファーラルク様も私のこと気にされていたり、ゼファーおじいちゃんがこっちに戻りたい? って言ってたり。
あ、それになんだかいやあ~なことも言ってなかったっけ、抑えてるなんかが「力」を蓄えてるって。確か前にあのゾーンとやり合った時にも変なこと言ってた気がする。なんだったかなあ。
私が一人考えに沈んでると、マイヤさんがフォローに入ってくれていた。
「コトハは力持ちとしてはまだ未熟者で、いろいろ失敗するのよ。だから許してあげてね」
「いやあ、許してなんて元から悪く思ってないから大丈夫だよ、マイヤ。出来ればもっとお近づきになりた……」
顔をグイグイ寄せてくるんで、私は怖くなってよっちゃんにしがみついて、隠れるように縮こまる。
「こらっ! お前はなにやってんだい、まったく! こんなに可愛いお嬢ちゃんを怯えさせるなんて。私ゃ許さないよっ!?」
奥からよく通る声がして、目の前でマイヤさんに取り押さえられてるゴーディーさんが、ぶるぶると震えだした。
「ち、違うよ母さん! そんなつもりはなかったんだよ。ほんとだよ、信じてくれよお」
あらら、ゴーディーさんがやってきた女性に謝り出しちゃったよ。
その女性は私たちに近寄るなり、ゴーディーさんとおんなじように顔を近づけて言ったの。
「ごめんなさいねえ、お嬢ちゃん方。うちのバカ息子が嫌な思いさせちまって。どうか許してやっておくれでないかい?」
その勢いとおっきな声に圧倒された私は、うんうんと首を縦に振りながら、
「いえ、だ、大丈夫です、悪くなんて思ってません!」
って返したんだけど、すこおしだけ声が震えてたのバレバレかな。それでもそんな私を見ながら、ものすごおく人好きのする愛嬌たっぷりの笑顔で、こう言ってくれた。
「そうかいそうかい、そりゃあ良かった! 私はシャルネ、そこのマイヤの母親みたいなもんさね。お嬢ちゃんたちはマイヤの知り合いかい? それに、良い男だねえあんた。顔も良いが懐が深そうだ。やっぱりあれかい、旅から旅って口かい?」
訳知り顔な感じ? でファーラルク様をじっと見つめると、シャルネさんはふうって息を吐いた。
「私ゃあね、マイヤによく言うんですよ。いい男でもいないのかい? ってね。でもこの子ったらちい~っとも連れて来るどころか、付き合ってる素振りさえありゃしない。もったいないと思わないかい、こんなに美しくって男をそそる体つきで、しかも歌声に色を乗っけて歌えるのにねえ」
今度はマイヤさんがやり玉に挙げられてるよ、ごめんなさい。
「え、えとシャルネさん? シャルネさんもピアノ、弾かれるんですか?」
「んん~? ピアノ? あ、ああこいつかい。そうさね、まあごゴーディの三人分くらいは弾けるかねえ!」
じゅうぶんゴーディさんだって上手なのに、もっと上手いってことはすんごい演奏家さん? 雰囲気はえ~と、肝っ玉母さんって感じなのにね。
「そうだ! ねえことちゃん、お手紙にあったウホッホのうた、歌ってほしいなあ。♪ や色が出るのに気をつけて楽しくね? お願いっ!」
お、おふっ? よっちゃんからリクエストされちゃったよお。どうしようかとマイヤさんとシャルネさんを見ると、なんだかいたずらを思いついたみたいな顔を二人ともしていた! ふう、いっちょやってみよっかあ♪
「じゃあ、初めは私が歌うのを聞いてもらって、それに調子を合わせてもらえたら良いかな?」
なぜだか即席のライブをする事になっちゃったけど、よっちゃんのたってのお願いだもん、是が非でも頑張らないと。それにこれはある意味、私の訓練? みたいなもんかもしれないし。極端に感情を入れすぎず、色をつけないでそれでいてみんなを楽しくさせるんだ。やってみる価値はある。
すう~、はあ~って息をして気持ちを整える。胸のシトリンには少しお休みしてもらって、身体でリズムを取る。
と~んと~んとん。と~んと~んとん。
とんとんとん。とんとんとん。
♪ ウホッホのうた
おれたちは (ウホッ!)
たのしけりゃ(ホホイ!)
それでいい (ウホッ!)
それがいい (ホホ~イ!)
おれたちは (ウホッ!)
おもしろきゃ(ホホイ!)
それでいい (ウホッ!)
それがいい (ホホ~イ!)
おれたちは (ウホッ!)
うたえれば (ホホイ!)
それでいい (ウホッ!)
それがいい (ホホ~イ!)
一度軽く踊りながら歌うと、面白そうにシャルネさんがピアノを、ゴーディさんの隣に割り込むと連弾? 二人して陽気に私の歌に合わせて弾き出したの!
最初は合わせるように。それから次第に私と二人の弾く音が重なり合って、辺りに響き合う。
いつの間にか、私の周りにはよっちゃんをはじめにマイヤさん、ファスタくんがとお~っても楽しげに笑いながらウホッホしていた♪
もうこうなると止まらないよね、私は『力』を使わずに楽しいことだけ考えて歌を繰り返した。
周囲の輪はどんどん広がっていって、な、なんと! ファーラルク様にお付きの人たちや、お店にいたお客さんや表に流れ出た音につられて、いっぱいの人が集まってきて歌い、踊っていたの!
ああ、こんなに楽しいって思えたの久しぶり……ううん、昨日の一件以来。時間にして大した事ないって言われるかもしれないけど、私にとってはすんごくおっきな忘れたい出来事。あ、でも忘れたくない事もあったよね。黒い黒い騎士様。私を助けてくれた、私にとっての王子様。
一緒に歌って踊ってほしいな。お顔もチラッとしか見てないし、ほとんど覚えてないけど、笑ったらどんなお顔なんだろ。そんなことを思いながら、本当の意味でこの町でやっていこう、この町を守りたい。そう思ったんだ。なぜだかファーラルク様の私を見る目が、とっても印象に残った。
お読みいただき、ありがとうございます!
みんな楽しんでくれたかな。
「もし、作者殿? わしのこと、忘れてはおらなんだかいの? わし踊ってないみたいなんじゃが……」
あ。出すの忘れた……
「どうせどうせ、わしは◯っぱいじじいじゃよ。ふんっ!」
あはは(汗)。