振り返ると。
最新話、更新です。
第二部のプロローグはもう少しお待ち下さい。って後付けするのがおかしいんですけどね……。
今回はシトリンのペンダントを受け取った後に、ファーラルク様からお昼のお誘いを受けてのお話です。語りてはコトちゃんです。
♪♪♪
防具屋さんからの帰り道、ファーラルク様からお昼ご飯を一緒に食べようって誘われた。
よっちゃんと私は恐縮しちゃって、どうしたらいいかわからなかったんだけど、マイヤさんが助け船を出してくれた。
「二人ともせっかくの機会だから、ぜひご一緒させていただきましょう。ただあまり堅苦しくなく、秘密が保たれる場所がよろしいかと」
軽くファーラルク様に会釈をして、それからファスタくんの方に向き直る。
「ファスタ様、どちらか良いお店をご存じありませんか?」
そう問われたファスタくんは、う~んと頭をふりふりしてマイヤさんに応える。
「すみません、あまり飲食店は詳しくないんです。コトちゃんやヨシアさんだけなら、気を張らないで誘えるお店が何店か思いつくんですが……」
さすがにこの国の王子様をお連れするんじゃあ気が引けるのか、ファスタくんも困っている。
私とよっちゃんがそれこそどうしたらいいかわからなくてわたわたしていると、マイヤさんの腰に吊されているポーチからモゴモゴ声が聞こえたの。
っていうか、もうこういった登場の仕方をするのはあの人しかいないよね。ふう。
マイヤさんがポーチの口を開けるやいなや、すぱーんっ! っておなじみの飛び出し方をする、1枚のカード。
「ゼファーおじいちゃん、付いてきてくれてたの?」
私の方を見てゼファーおじいちゃんが、にがにがって感じに笑いながらこう応えた。
「来ないわけなかろう、昨日の今日じゃぞ? わしがおらなんだらコトハがどれだけ寂しいことかと思いきや、かように閉じ込めおってからに! 師匠の扱いがいやましてひどくはないかの、マイヤよ?」
あらら、後半は恨み節? マイヤさんにあたってるよ。やれやれだ。
「いくらわしが薄っぺらいからといって、いつも袋に入れられておっては適わんわい。昨日のように、せめて胸元にこう、もぞっとな?」
なんていやらしい動きをして、マイヤさんに近寄ろうとしていたら、ファーラルク様が息を呑んだ。
「これはこれは、お師匠様ではありませんか! 伝え聞いた通り、札の中にお住まいとは。お別れいたしましてからはや十余年。お元気そうでなによりです」
「おお、久方ぶりじゃのう、殿下。しばらく見ぬうちに……薄くなったの。変わらず苦労ばかりしておるからであろう?」
ファーラルク様の周りををふわふわと回りながら、ゼファーおじいちゃんがなんだかとおっても! 失礼なことを言っている。
でもファーラルク様はあんまり気にしない様子で、肩をすくめながら返された。
「ええ、お師匠様が行かれましてから後いろいろありましたので……詳しくは後ほど。皆で参れる店は、マイヤ、そなた知っておらぬか?」
今ここであんまり話せる内容じゃないみたい。問われたマイヤさんが、少し考えた後でお伝えしたのは、
「そうですね、東大路からわずかに外れますが私の知った店がございます。この時間であればおそらく貸し切りも可能かと」
「おおう、あの店じゃな? 懐かしいのう、今も変わらずか?」
ゼファーおじいちゃんも知ってるお店なのかな、マイヤさんはここウラヌールの巡察使さんだし、おじいちゃんはその前の担当だったから知ってるのも当然かも知れないね。
「はい、店主は代替わりいたしましたが変わらず盛況で、私もたまに参っては昔のように歌わせてもっらております」
「そうかそうか。代替わりするほど月日が過ぎたということじゃな。殿下の老け具合もさもありなん……」
ちょっとちょっと、そっから離れてあげた方がいいんじゃないかなあ。ファーラルク様の表情がしょぼぼ~んってなってらっしゃるよ。お可哀そうに、って思っちゃったらよけいかな。わたしとよっちゃんは互いに困ったちゃんな顔で見合ってしまった。
そこからはマイヤさんがみんなを導きながら、そのお店の方まで案内することになったんだけど、私はこれまでで気になったことがたくさんあったので、遅れないようにしながらいろいろ振り返って考えてみた。
ファーラルク様はこのロストール王国の第二王子様。王国の中で治安や秩序を保つために各地を巡って、情報を集めたり、その地域の代表の人にアドバイスをしてあげたりする巡察府の長官が主なお仕事。他には、なにか大変なことが起きたりしたらそれの解決のために、動き回ったり戦ったりすることもある。とても大切で大変なお仕事を取りまとめてらっしゃる。それなのに気さくな雰囲気と、優しい眼差しがとても素敵な方だ。
そのファーラルク様がお師匠様って言ったのが、今は私のパパの物になってる占いのカード、タロットカードの中の隠者さんになってるゼファーおじいちゃん。おじいちゃんはあのいやらしいゾーンの元師匠で、カードの中に来るまでは巡察使として、このウラヌール地方を担当してたんだったよね。マイヤさんの師匠でもあり『力』が太くって、幽世のこともとおっても詳しい。でどうやら黒の騎士様(あ、私が勝手にそう名付けちゃったの、カル様のことね)とも繋がりがある様子。
マイヤさんは元は歌い手さんで、ゼファーおじいちゃんに認められて巡察使になったんだよね。当然おじいちゃんのことをお師匠様って慕っている。普段のやり取りは漫才みたいだけどね。そして、そのマイヤさんのことをあの騎士様はお姉様って言って、とっても懐かしい様子だった。
ファスタくんは……あんまり関係なさそうだね、悪いけど。でもここウラヌールの領主様のご子息だから知ってることも多そう。
幽世のこと、『色なしの悪魔』、出会った人との繋がり、そして私の『力』である『言葉を綾取る』ことと、始原の色って言ってた黄色い光。
むう、なんだか頭ん中がぐるんぐるんしてくる。あ、それだけじゃなくてこの町であった事件、私たちが受けた徴税官からの嫌がらせや代官一派による私の誘拐事件。これも微妙に関係してくるんだよね。
こうやって整理してみると、なんだかミステリー小説っぽくない? 私は自分で言うのもなんなんだけど、本好きで乱読家。次から次へと謎が謎を呼ぶ急展開、こっちに来てから落ち着いて考えたことなかったけど、かなり私たち家族って特殊な状況? にいるんじゃないかって思えてくるのは間違ってないはず。
ふう。これからどうなってくんだろ?
パパもママも私も、みんなこの町で仲良く暮らしながら、いろんなお客さんと知り合ったりしながら町の人たちや、お友達になったウホイさんやフィルフィリちゃん、今ではうちの家族になったセントアちゃんとかと楽しく暮らしていきたい。それだけが望みなんだけどな。
よっちゃんとお別れするのは明日。向こうは今日が土曜日で、明日帰んないと月曜からの中学校に間に合わない。だからほんとなら私事で時間を潰させたくない。ごめんね、よっちゃん。わたしが作ったシトリンのせいで面倒事に巻き込んじゃって。
マイヤさんの歩みが止まった。目の前には、ファンタジー小説なんかでよく出てくるおっきな酒場がで~んとその姿を見せていた。けっこう年季の入った外壁に堅そうな木材で出来てるスウィングドアー。
中からはピアノかな、静かな音色が大通りからは少し離れたこの路地に、流れ出ていた。とおっても優しい、色にしたら暖色系かな? 入る前から、ああここでも繋がりがまた増えるんだって思えた。
ここまでおよみいただき、ありがとうございます。
今までご意見、ご感想をいただいた中で、どうしても第一部の旅のシーンが長くてファンタジーっぽくないとか、作品の設定が伝わりきれてないといった印象をお持ちの方が多いのかなあと。
違和感のない範囲で、横糸と縦糸を織り交ぜながら伝わるようにしていきたいと思っています。よろしくお付き合いくださいませ。
その上で、毎回のお願いです。
ご意見、ご感想、その他なんでも。みなさんのお手を煩わせることになりますが、どうか当作品、作者 木漏れ日亭にお寄せくださいませ。よろしくお願いいたします。




