幽世に惹かれること。
こんばんは。またまた遅くになってしまいました。
シトリンのペンダントを受け取りに、コトちゃんがお連れを引き連れて行きます。
♪♪♪
「もし良かったらなんだが、一緒させてもらえないだろうか? 迷惑はかけないつもりだ」
な、なんと、ファーラルク王子様が私たちと一緒にお出かけしたいと仰ったの!
私とよっちゃんが♪ の音石を預けた東大路に向かおうとしていると、王子様のお付きの方から呼び止められたの。嫌じゃないんだよ? 嫌じゃないけど……ね。やっぱり王子様って、私なんかがそうそう簡単に相手出来るお方じゃない。私もよっちゃんもあたふたしちゃった。どうしたらいいの?
パパやママに相談しようと思ったら、クゥちゃんがぴょんぴょこファーラルク様の方に近寄って行って、
「プンプン!」
って鳴いた。
「おお? これは珍しい。黒の一角とは、希少種ではないか。んん? なにか言いたそうだね、どれ」
そう言ってクゥちゃんを抱っこされたファーラルク様は、顔を近づけてなにか話しかけてらっしゃった。そして私にクゥちゃんを渡しながら、大切にするように仰った。
「元々一角ウサギ自体とても珍しくてね。大きいのになるとその角が、『力』を蓄えるクリスタルの代わりになるくらいなんだよ。その上黒毛となると、王宮でも滅多に飼われたことがないんだよ」
私に向かって、とおっても優しいお顔でお話される。そんなに珍しいの、クゥちゃんって?
首を小さく傾げて私を見る。どうでもいいや、可愛いからね♪
「はい、ありがとうございます! 大切にします。あ、ではではご一緒に、そのう、行かせていただかせてもらもらむぐ」
あ~ん、変なふうに噛んじゃったよお。はずいし、しょぼぼ~んだ。
よっちゃんに慰められながら、私たちは歩いてお店に向かった。よっちゃんとクゥちゃん、ファーラルク様とお付きの方が三名。それとマイヤさんも。途中でファスタくんが合流したんだけど、ファーラルク様を見てびいっくり仰天! してた。そりゃそうだよねえ、ぞろぞろ一緒に歩いてのんびりお話してる方が王子様さんだもんね。ふう。
ウホイさんやウーハさん、フィルフィリちゃんたちはパパママと一緒にお出かけするって言ってた。なんだかすこおしだけ、羨ましい。だって気を使わなくていいんだもん。楽しんできてほしいな、人間じゃなくっても、犬人さんやゴブリンさんが普通にいるんだから、きっとみんな変な目で見られたりしないと思うしね。
そう言えば、昨日はあんなことがあったからあんまり気にしてなかったんだけど、なんだか少し町の様子が違ってきてない? 私たちがフォーヘンド様のお屋敷であのゾーンと対峙してから一週間、雰囲気が明るくなってきてる感じがするのは間違いじゃないと思う。
私たちの宿屋さん、『羽根飾り亭』は町の北側で元々そんなに賑やかじゃない側にあって、色なしのせいもあって特に静まり返ってたんだ。それがこうやってゆっくり歩いていると、お店の活気とか往来の人の数とか、明らかに賑やかになってる!
これってやっぱり、フォーヘンド様がお元気になったからじゃない? すごいね、町とこんなに繋がってるなんて。素敵なことだよね♪
ファスタくんに尋ねてみようとしたら、よっちゃんと仲良さそうにお話していた。ん~、邪魔しないでおこうっと。
領府を北側から東へ。領府に出入りする人や、いろんな人種の人たちも増えてるね。そうなると南側もおんなじかな、まだ行きたいって思えないけどね。
今日はおリュンさんのリンゴ屋さんには行かないことにした。だってねえ、さすがにこんな高貴な方一行を連れ回しちゃうのは気が引けちゃうからね。だから直接、東の外門そばの防具屋さんに向かう。
「あれ? ファスタ様、なんだか昨日と少し様子が違うんですけど、なにかあったんでしょうか?」
よっちゃんがファスタくんに尋ねているけど、確かに変だ。
防具屋さん自体は、東側の綺麗に装飾された外門近くにあって、小さな吊り看板が架けられていた。そのお店の前に、昨日はまったくなかった人だかりが出来てるの。なにかあったのかな?
お店に近づいていくとその理由が判っちゃった。あちゃ~、これは……どうしよ。
「はいはい順番ですからねえ、お待ち下さいね! 大丈夫、商品はなくなりませんから。お守りはお一人様二点まで、特別価格の三千ルート、三千ルートだよ!」
私がお店の商品である鎖帷子にかけたお印の『力』。淡く黄色に光るあの鎖帷子の周りには、その光を浴びたせいでか、おんなじ黄色に光るお守り各種。
「レッセンドリのやつ、ちゃっかり商売にしやがって! コトちゃん、僕からきつく言い聞かせてやるからね! おい、レッセン……」
「わあ~っ、ちょ、ちょっと待って! いいの、いいんだよ、別に。だってお店屋さんやってくのに役立ってるんだから、これはこれでお印付けさせてもらった甲斐もあるってもんだよ!」
慌ててファスタくんを止める。そうこうしているうちに、レッセンドリさんが私たちに気づいて大きく手を振った。お願いだから目立つことしないでください、お客さんこっち見てるからあっ!
どうにかこうにかよっちゃんと私は、お揃いのチェーンがついた♪ のシトリンのペンダントを受け取って待ってくれていたみんなの前に帰ってきた。
それぞれ首からかけて胸元にしまい込む前、ファーラルク様が息をほうって吐いた後に仰った言葉は、私の心に深く残るものになった。
「コトハ。宿屋のシャンデリアにも驚いたが、あの鎖帷子といい、その首飾りにしてもそうだが、始原の色を使うのは控えた方が良い。クゥだったか、黒ウサギに好かれる点から見てもそなたの『力』は太く強い。そのぶん代償も当然大きく、より幽世に惹かれてしまうことになる。私の倅もそのせいで……まあそれはいい。とにかく、気をつけることだ。私も出来る限り力になろう」
私の『力』は、つまりかなり危険だっていうこと。
そして、ファーラルク様の息子さん。幽世との繋がり。
帰りの道は、さっきまでの賑やかさも人いきれも感じなかった。
今回もお読みいただきまして、ありがとうございます。
やっぱりコトちゃんの『力』、王族から見てもかなり危険なようです。次回、よっちゃんたちが帰ってしまいます。
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