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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第三章 宿屋さん、『羽飾り亭』。
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宿屋の朝食。

 夜分遅くに失礼を。


 やっと最新話出来ました。


 今日は起こしに来てくれたコトちゃんたちと一緒に、フミアキパパが様子を語ります。

◇◇◇


「ねえパパママ、この子ここで飼ってもいいでしょ? どおしてもどお~しても飼いたいの!」


 部屋に戻ってくるなり、コトハがそう言って胸元に抱きかかえてるものを見せてきた。


 それは、黒い毛色の一角ウサギの子供だった。


「どうしたの、その子? どこにいたの~♡」


 サクヤの目が、その子ウサギに釘付けになっていて、すぐに手を出してその子ウサギの毛をファサファサしてなでぐり回し始めた。一方の子ウサギは嫌がらず、されるがままになっている。


「林にひとりでいたんだけど、すっかり懐かれちゃって。一緒に来る? って訊いたら来るって言うから連れてきたの! ねえ、飼っても良い?」


 俺は、なでぐり回されて若干ぐだあってなってる子ウサギをコトハから受け取り、顔を見合わせた。


 こっちをじい~っと見つめる目は、なにか知的な印象を受ける。なにかコトハに近づく意味があるんだろうか。そんなことを考えていると、子ウサギが、


「プン?」


 って言って首を傾げる。可愛い。


 まあ、意味はきっとあるんだろう。なにせここは俺らのいた日本とは違うことだらけの異世界だもんな。関係なさそうなことが繋がってたりする。


「う~ん、そうだな。飼うっていうよりか、一緒に暮らすって感じかな? 自由に林にも行けるようにしてあげよう」


 俺らの部屋の台所そばにある勝手口に、通り抜け出来るように小さな戸口を作ってあげようかな。俺がそんなことを思っていると、子ウサギが小さくウィンクした。そうか、それは良かった。俺も小声で応える。


「誰から頼まれたかは分からないけど、コトハを頼むな?」


「クゥクゥ♪」


 俺と子ウサギがすっかり意気投合しているのを、コトハとサクヤが不思議そうな顔して見ていた。


「名前は付けてあげないのか?」


 俺はコトハに尋ねた。名付けが大切なのは、ウホイたちのことでよく解っている。コトハもそれが頭にあるようで、うんうん頭を振りながら考えた後に言った。


「じゃあ~、プンちゃんはどう?」


「ブゥブゥ」


 なんだか嫌そうだなあ。


「え、嫌なの? それじゃあ、プンちゃんは?」


「プンプン」


 怒ってるのか、この声は?


「そう、違うのかあ。じゃあじゃあ、クゥってのはどうかな、クゥちゃん」


「クゥ♪」


 決まりのようだな。クゥ、新しい仲間? 家族かな、これからよろしくな。



 名前の決まったクゥは、部屋の中に用意された水と食べ物の入った皿に向かって行った。俺らは俺らでやることがある。


「クゥはこのままにしておいて、朝食の支度をしないとな。今日はどうする? これまではプレオープンみたいなもんで、そんなに宿泊人数なかったから楽だったけど王族相手じゃどうしたら良いか……」


「そうねえ、ん~いっそのことビュッフェスタイルにして、お好きな料理をそれぞれに取り分けていただくのはどう? こっちではあんまりされていない形式だから逆にインパクトあるし♪」


 サクヤが俄然やる気を出している。確かにそれは良いかもしれない。いちいち好みを聞いていたらきりがない。


 厨房では、火の番をセントアと二匹の火亀がしていた。調理する食材に合わせて俺が寸胴やフライパンなんかを用意し、サクヤとコトハで準備した食材を手際よくサクヤが調理していく。大皿を用意して盛り付けられたものを食堂に運ぶ。


 食堂に、ビュッフェ用に準備したテーブルの上に皿を並べていく。取り皿と取り分け用のスプーン、カップ類なんかも用意っと。各テーブルなんかの準備も終わっているから、後はお客を起こしに行くだけだ。この仕事は、セントアが率先してやってくれている。実体がないせいか、セントアは肩身が狭い思いをしているみたいだ。気になんかすることないのになあ。


 ふわ~って二階に上がっていくのを見て、石焼き竈でパンを焼く。竈の中では、元気いっぱいにキュイが高温をキープしてくれていた。こっちで仕入れたパン用の粉は、日本で手に入る物よりは質が悪い。小麦は高価で、ライ麦や大麦を混ぜているのが多い。発酵も自然発酵に任せてる状態で、あんまり美味しくはない。かと言って急に日本にあるような白くてふわふわのパンばかりいきなり用意するのも気が引ける。そこはバランス良く焼いて、違和感なくしないといけない。


 パンの焼ける匂いやコーヒーの香りがしだした頃、お客が三々五々降りてくる。一番早くに降りてきたのは……ファーラルク第二王子だった。


 お付きの人からの静止を振り切り、ファーラルク様は目を輝かせながら食堂に入ってきた。


「おお、ついぞ嗅ぐことが久しくなかった香りがすると思って、喜び勇んで参ってしまった! フミアキよ、もう良いのかな?」


 なんかすんごいウキウキしてるぞ、王子様。こんなの王宮じゃあ珍しくもないだろうに。あ、そうか、この王子様は外回りの巡察府の長官、って言うことはあんまりゆっくり食事なんてしていられないのかもしれない。


「ファーラルク様、おはようございます。ええ、もう準備はできております。今朝はビュッフェスタイルですので、お好きな食べ物をお好きなだけ、取り皿にお取り下さい」


 横から介添えしようとするお付きの手を止めさせて、自らあれこれと選んでは皿に盛っていく。その様子はまるで、初めてのお菓子を目の前にした少年みたいだ。お付きの人たちも諦めたのか、見よう見まねで皿に取り分けていく。


 他の宿泊客も説明役のセントアの言うことに耳を傾け、同じようにしていく。少なくなってきた料理やスープを、セントアが厨房に伝えて追加分をコトハが持ってくる。俺はなにをしているかって? そりゃああれだ、お客様の話の相手をしたり、コーヒーを渡したりだ。これだって重要な役割だし、俺がしゃしゃり出たって厨房内のサクヤに敵うはずがないもんな。


 そういえば、マイヤさんとよっちゃんのお母さんがまだ降りてきていない。どうやら気を遣ってくれているようだ。


食事も済みいったんお客は部屋に戻るか、ラウンジでゆっくりしたりする。その間に俺たちは食事を済ませる。その後はチェックアウト、お見送りが通常だけど今日はいつもとは違う。なぜなら、泊まっているのがみんな昨日のお披露目に集まってくださった、ラーラルク様をはじめとした貴族様連中だからだ。わざわざ集まって来れた方たちから、宿泊料金をいただく訳にはいかない。


 そう思っていたら、ファーラルク様のお付の人がこそっとやってきて、


「こちらは今回の爵士叙任と今後の繋がりにと、主上からでございます。お収め下さい」


 と中にずっしりとお金の詰まった革袋を手渡してきた。俺が戸惑っているとそのお付の人がにっこりしながらこう付け加える。


「主上のみならず、我々からもお礼を。こんなに滋味豊かな食事をいただいたのは、ここ数年来なかったのです。これもフミアキ様とご家族のお働きによるもの。ウラヌールが羨ましゅうございます」


 ありがたくももったいないくらいの言葉をもらって、俺たちの叙任式と、お披露目に係る行事がすべて終了した。お帰りになるファーラルク様と一行、その他の方々をお見送りして、やっとほっと一息をつく。


「はあ~、やっと終わったあ! なんだかすんごい一日だったね、よっちゃん」


 明るくコトハがおどけて言ってみせたのを、俺やサクヤが知らないはずがない。それを判ってか、よっちゃんも努めて明るく応えてくれた。


「ホントだねえ! コトちゃん、おじさんおばさん、セントアちゃんも、みんなお疲れ様でした! あ、これからお掃除があるんですよね? それ頑張ったら後でコトちゃんと町に、ペンダント受け取りに行ってもいいですか?」


 そういえば、お揃いになるよう防具屋? に預けてきてたんだっけ。サクヤが満足げにおなかをなでながら、


「ええ、構わないわよお♪ 昨日は慌ただしかったから、今日はもっとゆっくりしてらっしゃいな。ね?」


 そう言ってあげる。そうだな、今日は特別用事はないはずだから、ゆっくりしたらいい。せっかくの再会なんだから、あんな嫌なことは忘れて良い思い出を残してほしいもんだ。心からそう願う。


 いつの間にか、コトハのすぐ脇にクゥが座っていた。どうやら一緒に出かけたがっているようだ。うん、俺の細い『力』でもいくらかは捉える事が出来る。

 

 たぶんこの黒い一角ウサギの子は、ゼファーじいさんから聞いた幽世の『力』を使う弟子――コトハを救ってくれた――に関係している。それだけに安心も出来るし、逆に不安にもなる。


 これからもコトハには、いろんな事が待ち受けているんだろう。俺たちでなんとか出来ないような事も。そんな時に、少しでも味方になってくれるんなら。そう思いながら、俺は自分で入れたコーヒーをぐっと飲み干した。

 お読みいただき、ありがとうございます。いかがだったでしょうか?


 二人のペンダント、取りに行くのは次回に持ち越しに。


 次回投稿はまた中二、三日後になると思います。よろしくどうぞ。

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