真っ黒のウサギさん。
おはようございます。
少し空いてしまいました。
朝早く起きてのお仕事の時に、コトちゃんたちが見つけたのは?
♪♪♪
私とよっちゃんが支度を終えて厨房に行くと、もう火入れは終わっていたの。セントアちゃん、ごめんね。
「セントアちゃん! セントアちゃん?」
「キュイ、キュ~イッ!」
セントアちゃんはどうやらここにはいないみたいで、キュイが石焼竈から顔を出して応えてくれる。キュオは竈の火の番をしている。
私たちは井戸から水を汲んできて、寸胴に入れて竈の上に置いてお湯を沸かす。後は沸かしすぎないように、キュオが火の調整をしてくれる。とおっても便利さんだ。
厨房を出て、箒を持って二階から一階へ廊下のゴミを集めていく。集めたゴミはまとめて後でちりとりで回収していく。やっぱり板張りの廊下には、どうしても外からの泥や埃が積もりやすい。毎日欠かさずやること。そうセントアちゃんに教えてもらったんだ。
ラウンジに行くと、ほっとするシャンデリアの明かりに和む。あ、セントアちゃんがその光を浴びて目を閉じてふわふわしてるよ。
「セントアちゃん、ここにいたのね♪」
よっちゃんが優しく声をかける。セントアちゃんは静かに目を開けながら、
「ふわあ~っ、よっちゃんおはよ! ことちゃんもね」
って可愛らしいあくびをした。あはは!
「ここってほんと、のほ~んってするね。この明かり、とっても好きだな。昨日だってファーラルク王子様なんか、ず~っとここでパパとお酒飲んでゆっくりしてたんだよ? お付きの人たちまでのんびりしっちゃてたんだから!」
ふふっ、目に浮かぶようだね♪ それだけここは居心地がいいってことだ。嬉しいなあ。
昨日表の林でのどんちゃん騒ぎが一段落した後、『羽根飾り亭』の中でささやかなパーティーが開かれたんだ。
集まったのは、私たち家族(当然セントアちゃんもね!)と、よっちゃん親子。
そしてフォーヘンド様にファスタくん、ファーラルク王子様とお付きの代表の人。それからマイヤさんに守護騎士隊からはラダー隊長さんとロンロさん。ロンロさんはお家も近いから、直々遊びに来てくれるって。
それから商工ギルドのギルド長代理のサミュートさん。
みんなが私の無事と、私たち家族のことを祝ってくれた。
良かった、この場所にこうしていることができて。で、私は心に誓ったんだ。もう二度とあんな風に、みんなに迷惑をかけないって。
林は綺麗に片付けられていて、夜行性? の生き物の目がランランと光っている。あんまり近づかないようにしないとね。
「すっかり綺麗に片されてるねえ」
「うん、そうだね。サミュートさんたちに悪かったかな?」
「いいんじゃないのかな、企画したのはあちらの人たち……ってコトちゃん、あそこ見て、あそこ!」
ん? よっちゃんが指差す方を見ると、小陽のおかげで薄明るい林の入り口あたりに真っ黒の固まり? なんか気持ち悪いのいるっ! と思っておそるおそる様子を窺ってると目が合った。
それはどうやら、この林に最近よく現れるようになった、私たちにはなじみ深い高級食材の、一角ウサギさんみたいなの。
なんでみたいななんて言うのかって? それは、真っ黒だから。
今までウホイさんたちと狩った、野性の一角ウサギさんは白いふわもこ。たまあ~に違う毛色のもいたけど、こんなに真っ黒の子は見たことない。
額からは、一角ウサギさんの特徴である角がしっかり生えてて、大きさもおんなじくらいでもこってしてる。
じい~っと私を見て、微動だにしない。私もなんだか動けずに見ていると、
「クゥクゥ♪」
って鳴いた!?
そしたらぴょんぴょん跳ねながら、私の足元に来たの!
よっちゃんと二人、顔を見合わせながらしゃがみ込む。
黒い一角ウサギさんは、鼻をひくひくしながら私たちの周りを回って前に来ると、
「プゥプゥ♡」
って甘え声を出しながら、私にすり寄ってきた。
か、かわゆす~♡
なになに、なんなのこの子お! ちょお~可愛いんだけど!?
「よっちゃん、ど~しよ? 私、懐かれたみたい?」
よっちゃんに尋ねると、うんうん頷きながらよっちゃんが言った。
「コトちゃん、これもなにかの縁だよ。もし嫌がらなければ、飼っちゃいなよ! 私からもおじさんおばさんに頼んであげるから」
私はすりすりしてくるこの子を抱き上げて、顔の前に持ってきて訊いてみた。
「ねえ、あなたはどうしたい? パパママは? お友だちは? 私と一緒に来ちゃったら寂しくない?」
「プゥプゥ♪」
「お家は? 帰った方が良いんじゃない?」
「ブーブー!」
この鳴き声って、ブーイング? 確かウサギさんってあんまり鳴かないんじゃあ……
まあ、良いよね、もう。これだけ自己主張出来る子なら、なにかあれば林に帰れると思う。
そのまま黒い一角ウサギさんを抱っこしながら、家族の部屋へと向かうことにした。パパママに、飼ってもいいか聞かないとね。
向かいながらこの黒い子を見てたら、なんだかあの黒い黒い人を思い出した。全然違うのにね、黒いとこだけしか似てないのにね。
変だね、私って。
お読みいただきありがとうございます。
朝支度の続きと、♪ のシトリンを受け取りに行くのは次話に持ち越しです。




