表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第三章 宿屋さん、『羽飾り亭』。
85/104

真っ黒のウサギさん。

 おはようございます。


 少し空いてしまいました。


 朝早く起きてのお仕事の時に、コトちゃんたちが見つけたのは?

♪♪♪


 私とよっちゃんが支度を終えて厨房に行くと、もう火入れは終わっていたの。セントアちゃん、ごめんね。


「セントアちゃん! セントアちゃん?」


「キュイ、キュ~イッ!」


 セントアちゃんはどうやらここにはいないみたいで、キュイが石焼竈から顔を出して応えてくれる。キュオは竈の火の番をしている。


 私たちは井戸から水を汲んできて、寸胴に入れて竈の上に置いてお湯を沸かす。後は沸かしすぎないように、キュオが火の調整をしてくれる。とおっても便利さんだ。


 厨房を出て、ほうきを持って二階から一階へ廊下のゴミを集めていく。集めたゴミはまとめて後でちりとりで回収していく。やっぱり板張りの廊下には、どうしても外からの泥や埃が積もりやすい。毎日欠かさずやること。そうセントアちゃんに教えてもらったんだ。


 ラウンジに行くと、ほっとするシャンデリアの明かりに和む。あ、セントアちゃんがその光を浴びて目を閉じてふわふわしてるよ。


「セントアちゃん、ここにいたのね♪」


 よっちゃんが優しく声をかける。セントアちゃんは静かに目を開けながら、


「ふわあ~っ、よっちゃんおはよ! ことちゃんもね」


 って可愛らしいあくびをした。あはは!


「ここってほんと、のほ~んってするね。この明かり、とっても好きだな。昨日だってファーラルク王子様なんか、ず~っとここでパパとお酒飲んでゆっくりしてたんだよ? お付きの人たちまでのんびりしっちゃてたんだから!」


 ふふっ、目に浮かぶようだね♪ それだけここは居心地がいいってことだ。嬉しいなあ。


 昨日表の林でのどんちゃん騒ぎが一段落した後、『羽根飾り亭』の中でささやかなパーティーが開かれたんだ。


 集まったのは、私たち家族(当然セントアちゃんもね!)と、よっちゃん親子。

 そしてフォーヘンド様にファスタくん、ファーラルク王子様とお付きの代表の人。それからマイヤさんに守護騎士隊からはラダー隊長さんとロンロさん。ロンロさんはお家も近いから、直々遊びに来てくれるって。

 それから商工ギルドのギルド長代理のサミュートさん。


 みんなが私の無事と、私たち家族のことを祝ってくれた。


 良かった、この場所にこうしていることができて。で、私は心に誓ったんだ。もう二度とあんな風に、みんなに迷惑をかけないって。



 林は綺麗に片付けられていて、夜行性? の生き物の目がランランと光っている。あんまり近づかないようにしないとね。


「すっかり綺麗に片されてるねえ」


「うん、そうだね。サミュートさんたちに悪かったかな?」


「いいんじゃないのかな、企画したのはあちらの人たち……ってコトちゃん、あそこ見て、あそこ!」


 ん? よっちゃんが指差す方を見ると、小陽のおかげで薄明るい林の入り口あたりに真っ黒の固まり? なんか気持ち悪いのいるっ! と思っておそるおそる様子を窺ってると目が合った。


 それはどうやら、この林に最近よく現れるようになった、私たちにはなじみ深い高級食材の、一角ウサギさんみたいなの。


 なんでみたいななんて言うのかって? それは、真っ黒だから。


 今までウホイさんたちと狩った、野性の一角ウサギさんは白いふわもこ。たまあ~に違う毛色のもいたけど、こんなに真っ黒の子は見たことない。


 額からは、一角ウサギさんの特徴である角がしっかり生えてて、大きさもおんなじくらいでもこってしてる。


 じい~っと私を見て、微動だにしない。私もなんだか動けずに見ていると、


「クゥクゥ♪」


 って鳴いた!?


 そしたらぴょんぴょん跳ねながら、私の足元に来たの!


 よっちゃんと二人、顔を見合わせながらしゃがみ込む。


 黒い一角ウサギさんは、鼻をひくひくしながら私たちの周りを回って前に来ると、


「プゥプゥ♡」


 って甘え声を出しながら、私にすり寄ってきた。


 か、かわゆす~♡


 なになに、なんなのこの子お! ちょお~可愛いんだけど!?


「よっちゃん、ど~しよ? 私、懐かれたみたい?」


 よっちゃんに尋ねると、うんうん頷きながらよっちゃんが言った。


「コトちゃん、これもなにかの縁だよ。もし嫌がらなければ、飼っちゃいなよ! 私からもおじさんおばさんに頼んであげるから」


 私はすりすりしてくるこの子を抱き上げて、顔の前に持ってきて訊いてみた。


「ねえ、あなたはどうしたい? パパママは? お友だちは? 私と一緒に来ちゃったら寂しくない?」


「プゥプゥ♪」


「お家は? 帰った方が良いんじゃない?」


「ブーブー!」


 この鳴き声って、ブーイング? 確かウサギさんってあんまり鳴かないんじゃあ……


 まあ、良いよね、もう。これだけ自己主張出来る子なら、なにかあれば林に帰れると思う。


 そのまま黒い一角ウサギさんを抱っこしながら、家族の部屋へと向かうことにした。パパママに、飼ってもいいか聞かないとね。


 向かいながらこの黒い子を見てたら、なんだかあの黒い黒い人を思い出した。全然違うのにね、黒いとこだけしか似てないのにね。


 変だね、私って。

 お読みいただきありがとうございます。


 朝支度の続きと、♪ のシトリンを受け取りに行くのは次話に持ち越しです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ