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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第三章 宿屋さん、『羽飾り亭』。
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式後の夜。

 今回は、コトちゃんが式の後の振り返りを。

♪♪♪


 怖くって、恐ろしくって。その後に安心と、なんて言うんだろう、こう、胸の中がもやもやってしてあったかくなった感じがして。それからは楽しくって、びっくり仰天もあって。


 いろんなことがいっぺんに起きた一日だった。ふう。


 もう真夜中だというのに、空は変わらず薄明るい。小陽の明るさにはさすがに慣れたけど、昨日はなんとなく気になって、なかなか寝付けなかったんだ。


 私の横では、大親友のよっちゃんが気持ちよさそうに眠っている。午後遅くなってから始まった私たちのお家の叙任式、その後に開かれた林での大バーベキュー大会、私たち一家のお披露目と続いて、宿屋の中でのささやかなパーティー。


 ほんとお~っに濃ゆい一日だったあ!



 叙任式でお会いしたファーラルク様。な、なんと王子様ってどういいうこと!? どうゆうみん? だ。


 なんでそんな方が、こんな私たちの叙任式にお出でになったのか。それはやっぱりあの嫌らしい、気持ち悪いやつ、『色なしの悪魔』に関係していたんだ。


 私たちが住んでるこのウラヌールは、ロストール王国の西部地区の北側に位置する地方領なんだけど、同じような地方領が西部に二つ。中央は王国の直轄領だそうで、東にも二つ地方領がある。直轄領以外はその領域の広さや重要度から、治める領主の爵位も変わってくるんだって。


 王都に通じる南の街道沿い、王都との間にあるのはクバールっていう小さな地方領。そこから街道が東の方に曲がっていって、王都のある中央に向かっていく。王都は中央部の西にあって、東の方が直轄領含め広いんだそう。


 どうしてそうなってるのかって言うと、東の方にはいっぱい他の国があって王都を守る必要があってこうなってるんだって。私にはなんだかちんぷんかんぷんだけど、国防上? 必要なことなんだって。


 で、王国全体の治安を守るお仕事は二種類あって、一つは軍隊さん。これは他の国から攻めて来られないよう、東側や南の各所に駐屯してるんだって。もう一つが、ファーラルク第二王子が率いる巡察府。


 巡察府って組織は、王国の中でなにか悪いことが起こらないように見て回ったり、その阻止に動いたりする警察さんみたいな役割に近い感じ。その大元を束ねているのがファーラルク様。


 そのファーラルク様のところへ、王国全土で悪さを働いては人々を不安に陥れてる、『色なしの悪魔』を何度も退けている、ウラヌールの情報が入ったんだって。

 前々から組織の部署である地方領巡察府を使って情報の収集を行っていたら、なんとそのどれにも異世界から移住してきた家族が係わっているって言うから、大変な関心を示されたファーラルク様自らこうして出張ってきたところ、今回の私の誘拐事件に出くわしてしまったんだって。


 王国の王子様という立場と、王国内部の不正や悪事を取り締まるという巡察府長官という立場。そのどちらからも、危機を脱した私や私の家族に対して直接会って言葉を交わしたいと思ったファーラルク様は、今は私たちのこの『羽根飾り亭』にご逗留なさっている。


 ひょ、ひょえ~~! だよね。だって王子様だよ、王国の!? もうなにがなんだかだよ、ほんとに。ふう。


 でも、お話をさせていただいた感じでは、ファーラルク様はとっても気さくな方って印象だった。お年はパパやフォーヘンドさまとおんなじくらい。四十歳でお子さんもおられるんだって。


「いや、私の息子はこれがもう仕方のないほど放蕩者でね。今も何処でなにをしているやら。なまじ『力』が太いだけに扱いに困っている」


 そう仰って、天を仰いでおられたのを見ちゃった私は、あれ? どっかで似たような光景を見たような気がする。そう思ったの。でもそれが何処でだったのか、はたまた夢でも見てただけじゃないか判断がつかなかった。


 黒い黒いシルエット、強い意思に私に背を向けながらかけてくれた優しい言葉。なんとなくあの光景を思い出したけど、違うよね。あの方はこんなに明るいところにおられる人と繋がってる感じがしないもん。



 カル様……たぶんあの時あの場所に現れたところからすると、私の『力』、『繋がる力』に大きく影響を与えてるっていう、幽世に繋がる人なんだと思う。それなら、私がこれから『力』について学んでいけば自然と近づくことが出来るんじゃないか、そうすればまた会ってお礼も言えるんじゃない? それからそれから……って私なに考えてるのっ!? どうしてこんなに胸がばっくばくしてるの? おかしいよ、ただあの方のことを考えただけで、あの方のことを思っただけでこんなになるなんて。これってもしかして?


 頭をぶんぶん振っていたら、横で眠っていたよっちゃんがう~んって寝返りを打った。落ち着こう、落ち着こう。ふ~う。


 時刻は鐘の音がまだ鳴らないから、午前三時前。いつもならもうそろそろセントアちゃんが起こしに来る頃。宿屋さんの朝は早いからね。しかも昨日は林でバーベキュー大会をした後、私たちのお披露目と称してのどんちゃん騒ぎがあって、外はしっちゃかめっちゃかになっているはず。


 そう言えば、商工ギルドが正常に運営をし始めたんだったね。


 代官一派に牛耳られてたギルドは、今回の事態でなんら対処が出来なかったって領主様からの報告で、ちょうどタイミングよく来られていたファーラルク様の権限で(なにせ王国の王子様だもんね!)、代官職の撤廃と代理行政府の解体、商工ギルド長の罷免が決められた。


 ギルドは臨時でギルド長代理を、私たちにとっては馴染み深いと言っても良い、ゴブリン(良いよね、発音もおんなじだもんね)のサミュートさんに決めた。ほんとはカイラさんっていうベテランさんがいるんだそうだけど、この人、普段から神出鬼没で要職は任せられないんだって。どんな人なんだろう、まだ会ったことないや。


 この新生? 商工ギルドが汚名返上とばかりに企画したのが、バーベキュー大会とお披露目と称したお祭りイベントだったの。今まで重税をかけられてたお店や、販路を制限されてた商人さんなんかがいっぱい集まって、それはもうわいのわいのって賑やかだった! でもあの後片付けってどうなったんだろう。私たちは中に入っちゃったからわからない。


 いずれにしてももう起きる時間だね。私のベッドに一緒になって横になっているよっちゃんを起こさないように、横からすっと布団を抜け出ようとしたらなにかに掴まれた。


「コトちゃん、一人で行っちゃダメっ! 私も一緒に行くよ」


「よっちゃん、ごめんね、起こしちゃった? これからお仕事なんだけど、よっちゃんはまだ寝てて良いんだよ? お客さんなんだから」


 よっちゃんはそう言う私の両手をぶんぶん振りながら、こう言ってくれた。


「コトちゃん、違うよ、それは。私は領主様にご招待をされたけど、コトちゃんに会ってコトちゃんと少しでも一緒にいたかったから来たんだよ。だからコトちゃんのすること、お手伝いするの。邪魔かもしれないけ……」


 最後まで言わせないで、私はよっちゃんを抱きしめた。よっちゃんの方がほわんほわんだから、私が抱きすくめられてる? どっちだっていい。気持ちは伝わってるから。


「うん、うん! そだね、それならよっちゃんにも、いっぱいいっぱい手伝ってもらっちゃお♪ 大変だよお~、宿屋さんのお仕事って?」


「うん、任せといてね! コトちゃん♡」


 こうして私とよっちゃんはキャッキャウフフしながら起き出して、服を着替えた。セントアちゃんは、気を遣ってくれたのか起こしには来なかった。

 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 次回は、宿屋の朝と、♪ を取りに行く予定です。

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