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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第三章 宿屋さん、『羽飾り亭』。
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叙任式。

 遅くなりましたが、第二部 第三章、始まりです。


 叙任式を受けるフミアキさんですが、なにやらいわくありげな人物が登場します。

◇◇◇


 どうやらサプライズは大成功みたいだな。コトハが久しぶりに会えた彼らと抱き合ったり、はしゃぎ回っている。連れ出してくれた、ファスタとマイヤさんに感謝だ。


 コトハは努めて平静に、なにも無かったように振る舞ってはいるけど、そんなのは親なら一発で見抜けるもんだ。


 相当無理してる。


 それはそうだ。まだ今朝のことだ、マイヤさんに抱きかかえられて帰ってきたあのコトハの姿を見て、大変な目に遭ったのが痛いほど判った。


 サクヤとマイヤさんによると、精神的なショックは大きいものの、肉体的には、その……なにもなかったそうだ。ほっとすると同時に、今度は猛烈な怒りを覚えた。


 実行犯は捕まり尋問を受けているそうだから、詳細がある程度は判明するだろう。しかし黒幕にまでは辿り着かないと思う。黒幕はおそらく商工ギルドにいた、あの目つきの悪い派手な貴族だろう。あれが代官なら、姑息な手段で逃れるのが目に見えるようだ。


 上手くおびき寄せられなかったら、またぞろなにか仕掛けてくるのを待つしかない。直接手を下しているという確たる証拠も現状はないし。


 やきもきしながらも、この叙任を利用して敵の動きを封じ込められるか、それとも……



 領府から叙任式のお触れが出されてからは、とんでもなく時間が早く過ぎていった。


 事前からいつでも来られるよう、用意周到に準備されていたため、ウホッホ族や穴掘りグマの面々が集めるのは簡単だったそうだ。


 ゼファーのじいさんはあまり言いたがらなかったが、ファスタから聞いた話によると前々からコトハを護るために(あの色なしからか?)、付かず離れず見守っている存在があるのだという。


 コトハが担ぎ込まれた際に、身体を覆っていたあの黒いマント。俺のような細い『力』しかなくても判る、恐ろしいほどの濃密な『闇の力』。あれも関係あるんだろうか? どうも出かける時のコトハの様子も気になったし。タイミングよく助けに入ったっていうし、どんなやつなんだろう。



 叙任式の会場はうちの林だ。


 これもびっくりだが、ここに初めて着いた時には鬱蒼とした暗い林で、動物の姿がまったく見えないものだったんだ。


 それがコトハの『綾取る力』の影響から、明るく陽の入るものに変わって、毎日のように動物たちがやってくるようになった。

 ちょっと見では分からないかもしれないが、どうも普通の動物――鹿やウサギなんかだ――以外にもいろいろ住み着いてるみたいだ。ゆっくりと確かめる暇がなかったが、今度よおく調べて見る必要があるかもしれない。


「ご領主様! 式の準備、終わったギャですギョ!」


 商工ギルドのサミュートさんがおっきな声で言うのへ、フォーヘンド様が応えた。


「おお、サミュートギルド長代理、仕事が早いですね。感謝申し上げる。ラダー隊長、警備の方はどうか?」


「はっ! 滞りなく。領内だけではなく近隣の領にも招待状は届いておりますからな、抜かりはございませんとも! があっはははは……げほごほ」


 ウラヌール地方領の守護騎士隊の隊長、ラダーさんだ。見た目も声も豪快な初老の騎士殿だが、なんとも憎めないお人だ。

 どうやらサミュートさんは、新しいギルド長が決まるまで代理に任じられたようだ。あの横柄なギルド長は、そのまま薄い印象のまま退場なすったようだ。ご苦労様だ。


 しかしなあ。なぜに爵士くらいの叙任に近隣の他領から招待客まで呼ぶんだ?


 俺の知ってる限りじゃ、爵士ってのは正式には貴族扱いじゃなくてその下。名誉みたいなもんで一代限りのもんだった。時代や国によって違いもあるみたいだが、そんなにたいした地位ではない。

 もしかしたらこっちにはこっちの、違う爵位の考え方があるのかもしれない。


 いずれにしても庶民からすると町の名士扱いになるわけだから、その意味で俺らにはありがたい。新参者で右も左も分からない俺たちが、この町で受け入れてもらうには肩書があった方が都合がいい。


 そうこうしているうちに、軽い食事を済ませ着替えの済んだコトハが会場に現れた。


 さっきまで出かけるのに適したラフな格好だったのが、今はマイヤさんとサクヤで選んだんだろう、持ってきた服の中でも比較的大人っぽい、少し胸元の開いた純白のワンピースを、こっちで買った革の飾りベルトで腰元をキュッと絞り込んだ装いになっていた。


 首にはサクヤの持っているネックレスの内で、コトハの年齢にも合いそうなものを選んだようだが、俺にはなんの宝石なんだかさっぱりだ。少しピンクがかった小さな石が可愛らしくて、純白のワンピースに相まってなおその印象を柔らかく、優しいものにしている。


 まあ、つまりだな、コトハまぢ天使っ♪ って話だ。けして単に親ばかで言ってるんじゃないぞ、だって周りに居並ぶお偉いさん(いかにも貴族然とした)方が、ほおっとかはあんっとか感嘆の息を吐いているのがその証拠だ。


 サクヤは領主館で着ていた、青いゆったりめのビスコース生地のマキシ丈ワンピースに真珠のネックレス。こちらはこちらで、集まっている奥方連中からため息ともつかない声が漏れ聞こえているから旦那として鼻が高い。むふふんって感じだな。


 俺は……まあ一応この式の主役なわけだから、正装に当たる物ということで黒のダブルジャケットと同じ黒のスラックスに白いワイシャツ、白のネクタイ。シャツの袖はシングルカフスで、あまり目立ちすぎない物を選んだ。靴はこげ茶色の革靴にした。とどのつまり、結婚式に着ていくやつだ。これなら許されるだろう、そう思っていたらコトハやサクヤと同じようにびっくりされた。


 遠巻きに固まっていたお貴族連中からはどうやら、装飾の無いただの平民服だとか、晴れやかな式に黒を選ぶのはどうなのかなんて否定的な声が聞こえてくる。

 おそらく近隣の他領から来ている招待客だろう。


 ん~、これはフォーヘンド様に恥をかかしてしまうかもと冷や汗が出始めたところ、


「失礼する。式の前に不躾ではあるが挨拶を」


 そう言って声をかけてくる人がいた。


 年は俺とそう変わらないだろう。やや白髪交じりの緑色の短髪、下がり気味の太い眉に強い意志の表れた目つき。わずかに俺より背が高く、引き締まった体つきが羨ましい。


 服装は正装という感じではなく、旅装に短い紋章付きのマントを羽織っている。


 どうやら相当高位の人物らしく、周りが静かに明らかにこちらを注視する雰囲気に。俺は自分から挨拶することにしたが、なにぶん所作が判らない。仕方なく無難に頭を下げることにした。


「どなたか存じ上げませんが、痛みいります。私は異界より参り、この程身に余る栄誉を賜ることになりました、アマクニ家の当主、フミアキ・アマクニと申します。不作法をお許し下さい」


「いや、頭を下げるのは不作法ではない。むしろ敵意のない信頼の証、好ましいとも言えよう」


 そう言った男性は、俺の肩に触れ頭を起こすよう促した。


 頭を上げるとその男性は、軽く目礼をして名乗った。


「私はロストール王国巡察府長官をしている、ファーラルクだ。以後お見知りおき願おう」


 ふんふん、ファーラルクさんね。特徴的な緑髪に強い眼差し。覚えやすい方だ。ってえっ? 巡察府長官ってもしや、ゼファーじいさんのこと……


「フォーヘンドから聞いたよ。後でゆっくり話そう。賢者殿にもよろしく」


 そう去り際に小声でそう言いながら、俺の腰元に括り付けられているポーチを、ジャケットの上からポンと叩いた。


 またじいさん絡みだよ。どんだけ出てくるんだ、この繋がり。



 フォーヘンド様が林の手前、通りに面した側に造られた壇上に上がる。


 ハンニバルさんがよく通る声で前触れをした後に、フォーヘンド様が声を発した。


「ウラヌールに住まうロストールの民よ。本日ここに正式に、爵士に叙任せんとする者がいる。その者はこちらに」


 俺は促されて壇上に上がった。なんのリハーサルもない中、緊張しないはずがない。あちこちに目を泳がせていると、通りの反対側の雑貨屋の陰からこちらを覗き睨む姿が見えた。


 間違いない、あれは商工ギルドでこちらを見ていたあの貴族だ。


 俺が固まっていると、フォーヘンド様がそれに気付き軽く頷く。肝を据えろと言っている気がした。


 俺は自然と片膝で跪き、頭を垂れた。そこに領主様? と思われる人が佩刀を抜く音がして、肩口に押し当てられるのを感じた。


「汝フミアキ・アマクニは、ここウラヌールにおいて爵士に任ぜられ、ロストール王国の廷臣として王国の繁栄と、王国の民のため尽くすことを誓うか?」


 声がフォーヘンド様のではないのに気がついたが、顔を上げる訳にもいかず、そのまま応えることにした。


「はい、この身に代えましても。身の置き所を下さった王国を、温かく迎え入れて下さったウラヌール、その住民の皆さん、知り合ったかけがえのない仲間たちを、そして終の住処となるこの宿屋と、家族を守って参りたいと存じます」


 そう言い切ってから、これでよかったのか無性に不安に思っていると、領主様ではない目の前の人影が急に揺れ出した。


「良いな、大変良い。国や住む地、民だけではなく仲間とは、大猿やクマのことであろう? 更には自らをこの宿屋と家族に捧げるとは。いかにも聞き及んでいた通りの人柄様だ」


 そう言いながら、声が面白がって笑っているのが判った。


 垂れていた頭を上げると、やはりさっきの意味ありげな顔がそこにあった。


「ファーラルク……さん?」


 フォーヘンド様が、苦笑いしながらこう言った。


「フミアキ殿、あなたはとんでもない方に気に入られたのですよ」


 ああ聞きたくない、耳塞いじゃおうかな。ダメだろうなあ。


「こちらのお方は、されているお仕事は巡察府長官だが、ご身分はロストール王国第二王子であられるのですよ」

 お読みいただき、ありがとうございます!


 次話はそんなに間を空けずに投稿出来る予定です。


 よろしければ、この作品に対するご意見、ご感想などをお寄せ下さいませ。作者、いただきますお声を活かして、作品をより楽しんでいただけるようして参りますので。

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