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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第二章 黒いマント。
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林の木漏れ日。

 ふう。今回は、コトちゃんがよっちゃんを宿屋まで案内しています。

♪♪♪


 よっちゃんのお母さんとマイヤさんは、ウラヌールで今流行のアクセサリーや小物の話で盛り上がっていた。

 

 ファスタくんによると、東側の門をくぐってすぐは、他の領や東方諸国からの交易品なんかのお店が多いんだって。


 そういえば私はまだこの町のある国、ロストールのことやまわりにどんな国があるのかとか、なんにも知らないんだった。でも日本にいる間だって、そんなに地理とか詳しくなかったけどね。


 本とか地図なんかがあったらいいなあ。


 そんなことを考えながら歩いていると、あま~い匂いがするお店の前に通りかかった。


 ん~~、どっかで嗅いだことのあるこの匂い。どこだっけ……あっ、判った!


「ねえファスタくん、このお店もしかして百花蜜ひゃっかみつ置いてるんじゃない?」


 ファスタくんは首を傾げながら、


「百花蜜は高級品だから、この店に置いてるかどうかは判らないなあ」


 そう言った。確かに、前に領主様のお屋敷でいただいた蜂蜜水、東の町から仕入れたって言ってたっけ。


「コトちゃん、この良い匂いがなにか知ってるの?」


 よっちゃんが可愛いお鼻で、くんかくんかしている。よっちゃんのお母さんも、なんだかうっとりしてるよ。


「もしかしたら、お土産になるかも。入ってみよ?」


 よっちゃんが言うのへ、みんなでお店の中に入っていくことに。


 お店はそんなに広くはなくて、正面に見えるカウンターと壁沿いに小さなテーブルが置かれていた。


 テーブルの足元には、おっきな壺が置いてあって蓋がされていた。テーブルの上には、小さな壺が並んでいて木のスプーンみたいなのが置いてあるのが見える。


 カウンターにも壺があったり、あとパンかな? 堅めのこっちのパンが薄く切られてトレイみたいな物の上に置かれていた。その上に、清潔そうな布が掛けられている。


「すみませ~ん、お店の人はいますかあ~?」


 私が声を上げると、カウンターの奥の部屋からガタガタ音がして、扉がバン! って勢いよく開けられてお店の人? が出てきた。元はふわふわだったはずの、色もなんだかぼやけてるけど間違いない。


「い、いらっしゃいませ……?」


「えと、こちらは蜂蜜のお店屋さんですか?」


 店員さんがこっちを向く。


 やっぱり! 私は間違ってなかったよ。でも私が知ってる人たちより疲れちゃってる? 毛がぺしゃんってしてて元気がない。


「そうです……あの、蜂蜜をお求めですか?」


 私は間違ってなかったという思いと、あの蜂蜜水の爽やかでいて香り高い味を思い出していた。


「はい! このお店で、百花蜜は取り扱ってますか?」


 お店の人がビクッとして、私を見た。


「……はい。でも今はもう手に入らないから、そんなに量は残ってないです」


 やっぱり高級品だから、あんまり手に入らないのかな。それともなにか他に理由が……ってまさかまたあいつ?


「あの、違ってたらごめんなさい。店員さんって、もしかして穴掘りグマさんですか?」


 店員さんは私をじい~っと見た後、かすれる声で応えた。


「知ってるんですか、ぼくらのこと?」


「私、北の山脈の向こう側に住んでいた穴掘りグマさんたちに助けられたんです。だからもしかしたらと思って……」


 店員さんはほうって息を吐いて、こう続けた。


「そうでしたか。確かにぼくは穴掘りグマです。でも東の集落出だから北の仲間とは交流が……」


 店員さんはそう言ったきり俯いてしまって、会話も続かなくなっちゃって。とりあえず今ある蜂蜜で、お土産に適した物を小さな壺に小分けにしてもらって、支払いをしてお店を後にした。


 私が一人考え事をしていたら、よっちゃんがそばに来てくれてぎゅっ♡ ってしてくれた。


 うん、今はまだ考えないどこう。私は一人で、何人もいる訳じゃない。スーパーマンでもなきゃ天使でもないから。


 でも気になるのはしかたないよね、今度また来てみようっと。



 この後しばらくお買い物や町の案内をしてもらいながら、領府を横目にして北大路の方に向かって行った。鐘が四の音を鳴らしてからもうだいぶ経っていたから、みんなおなかもぺっこぺこのはず。


「それじゃあ町を歩くのはまた後にして、『羽根飾り亭』に向かいましょう。支度もとうに済んでいるはずですしね」


 マイヤさんが合いの手を入れてくれた。お昼のことだよね、私が捕らえられて助け出されてから、あまり時間が経ってはいないからパパやママ、セントアちゃんにも大変な手間かけちゃったし。


 なんにもお手伝いしてなかったけど大丈夫かな。帰ったらすぐお仕事出来る服に着替えなきゃ!


 北大路を横切って、五条の西側に向かう。


 ちょっとだけ路地に入ると、うちの宿屋さんの敷地にある林が見えてくるんだ。その林は……んんっ?


 なんだか賑やかなんですけど? どうなってるの、どぅゆうみん?



 林には、キラキラと日差しが入り込んでいた。出てくる前は気にもしなかったけど、この林にこんなに明るい日差し……そう、木漏れ日って差し込んでいたっけ?


 それに賑やかに思えたのには理由が二つあって、一つはウラヌールに来てからこの私たちの住まいである、『羽根飾り亭』に着いてからまったく見かけなかった、動物さんがチョコチョコしてること!


 狸っぽいコロンとしたのや、狐? かなありお耳がおっきいけどコンコン鳴いてるのもいる。木の陰には鹿っぽいのもいたし(旅の間に狩ったのに似てる)、それにそれに、なんと! 一角ウサギさんがちらほら?


 これはすごいことだよ? だってだって、林に元気が戻ってきて動物さんたちが住みやすくなったってことだから。それに、ぐふふっ。うちの宿屋さんのお料理のレパートリーが増えるし、ジビエ料理だっけ? 有名になるぞお~! 毛皮とかは売れちゃうしねっ。


 もう一つはもっともっと違う意味で、とお~っても嬉しい賑やかさだった。


「うほ~い、やっと主役さん帰ってきたよ~! みんな~! 用意はいいホイ~?」


 この陽気で底抜けに明るい声! そして優しさにあふれてる顔! 別れてからそんなに経ってないのに、こんなに懐かしく思うなんて。


「ウホイさ~んっ!!」


 思わず駆け出して、ジャンピング飛びつきっ! ウホイさんはしっかりと、それでいて優しく抱きとめてくれて、毛むくじゃらの顔をくしゃくしゃにして笑っていた。


「コトハ! 元気元気でウホイも嬉しいホイ! ほれ、他にもいるんだぞ~い?」


 すっかりしゃべるのも上手くなったウホイさんに促されて周りを見てみると、そこにはおなかがうちのママよりもずう~っと大きくなってるウーハさんや、一緒に旅やトンネル掘りに付いてきてくれたウホッホ族の人たち、もしかしたらその家族かな? ウホッホ族の女の人やちっちゃい毛むくじゃらさんなんかもいたの!


 さらにさらに、


「コトちゃん、とってもたいへん、よくがんばったね! えらいこえらいこ」


 と言って、私の頭をなでなでしてくれる。会いたかった人たちの一人、コルドレさんだった!


 イルマリさんの隣には、ちょっとだけ大きくなったかな? フィルフィリちゃんがくりっくりのお目々で私やよっちゃんのことを見ていた。


 私が近寄るよりも早く、よっちゃんが駆け寄ってフィルフィリちゃんに抱きついていたよ。よっちゃん素早っ!


「ああ~ん、フィルフィリちゃんね、そうなのね!? もうたまらんち~~♡ コトちゃんのお手紙に書いてあって、とっても会いたかったのお! むふふ~んっ」


 あ、よっちゃんがこわれてるよ!? もうメロメロさんだ。あはは♪


 他にもコラダンさんや一緒にトンネル堀りをしたクマさんの何人かが来てくれていたけど、そのクマさんたちはこんなにいろんな人が揃ってるのを見てびっくりしていた。私だってびっくりだよ? なにがあるって言うの、こんなに知った顔ぶれが集まってるなんて。


 あ、私を慰めてくれるため? ううん、そうじゃない。もしそうなら私はいたたまれない気持ちになっていると思う。


 じゃあなんでだろう? 思い切って私は尋ねてみることにした。


「え~っと、なんでこんなにみなさん集まってくれてるの? 今日は確かによっちゃんが来たりで私にとっては特別なことだけど、それだけでこんな……」


「それはね、コトハ。今日が叙任式だからよ、アマクニ家のね」


 マイヤさんがその美しい顔を私に向けて、長いまつげの綺麗な大きな目でウィンクをした。

 本日も、『ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~』を御覧いただきありがとうございます。


 よっちゃんと『羽根飾り亭』についたところで、第二部第二章が終わります。


 次回からは第二部第三章。よっちゃんと出会った仲間の前で、アマクニ家の辞任式に。



 よろしければ、感想ご意見、評価などいただけましたら作者モチベーションが上がります♪


 ついでに、レビューなんかをいただけますと泣いて歓喜の雄叫びあげちゃいます(近所迷惑。。)♬

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