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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第二章 黒いマント。
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幸せリンゴ。

 コトちゃんが、マイヤさん付き添いでよっちゃんに逢いに領主館に。コトちゃん、少しだけ吹っ切れたようです。

♪♪♪


 逢った途端、ふわふわの身体にむぎゅう~~!! ってされちゃった♡


「コトちゃん、コトちゃん、コトちゃんっ!!」


 私は抱きしめられながら、ぶるんぶるんぬいみたいに振り回された。


「ちょ、よっちゃん、落ち着いて、落ち着いてえ?」


 落ち着くまでしばらくされるがままだった私を、あったかあ~い目で見守るファスタくん。うんうんしてないで助けてよお。


「コトちゃんがいなくて、私、不安で心配でもうどうしようもなくて……」


 振り回すのを止めて、今度は私を持ち上げたまんま頬をすりすりしながら、わんわん泣き出しちゃった。どんだけ力持ちさんなの? あ、こっちの力持ちじゃなくてね。


「ごめんね、心配かけちゃって。ほんっとにごめん、そしてありがとね、よっちゃんがいなかったら私」


 よっちゃんが私の顔を両手で挟むようにして、ぶんぶん首を振る。


「コトちゃんっ、私とコトちゃんの仲だよ? 当たり前じゃない、そんなこと!」


 よっちゃんのつぶらで茶色の目に私が映っている。私の目にも、よっちゃんが映ってるはず。よっちゃんの甘い乙女の香りと、ぷっくりとしたさくらんぼみたいな唇にくらくらした私は、思わずチュッてしちゃいましたっ!


「こ、コトちゃん……んもう!」


 私たちがイチャイチャしている後ろで、けほんこほんと咳払いが聞こえた。


「っ! ファスタ様、す、すみません、私ったらこんな恥ずかしいところをお見せしちゃって」


 おんやあ? ファスタくんを見て、よっちゃんがわたわたしてるぞ? 顔もリンゴみたいになってる。えへへ、もしかして……


「よっちゃん、もしかしてファスタくんのこ」


「わあ~わあ~っ!」


 慌てて私の口を両手で押さえる。


 んふふ、なんて分かりやすいの、よっちゃん♡ 可愛いなあ、ほんとに。


「ファスタくん、こんにちは。いたんだね、ごめんごめん」


 私がてへぺろすると、ファスタくんははあ~~って息を吐いた。


「コトちゃん、それはないんじゃないかい? 僕だっていっしょ……」


 しゃべってるのを遮って、ファスタくんの手を両手でぎゅっとして、


「わかってるよ、ごめんね。ファスタくんにはほんとお~っに感謝してる。私のために動き回ってくれただけじゃなくて、よっちゃんも守ってくれて。ありがとうね!」


 って伝えると、いつもの感じで尻尾を振るみたいな……様子じゃなくて、なんだかぎこちない笑顔を返してきた。どうしたのかなあ?


「いいんだ、そう言ってくれるだけで嬉しいよ。恥ずかしい話、僕も捕まってしまったからね」


 そうなんだった。私を探してよっちゃんと二人して、危ない目に遭ってよっちゃんを逃がすために囮になってくれたり。単によっちゃんとお母さんを、お屋敷に保護してくれただけじゃなかったよ。


 そう考えると、ファスタくんってけっこう男前さん?


 握っていた手を離して、改めて頭を下げた私に、


「もういいからね、僕も助けてもらった人に言われたことで、もっと頑張らないといけないなって分かったから」


「え、ファスタくんは誰に助けられたの? もしかして黒ずくめのマントの人?」


 私がこの領主様のお屋敷に行くのに、付き添ってくれたマイヤさんがぴくんって反応した。


「う、うん、そんな感じの人だったかな……? よく覚えてないよ」


「ねえ、教えて、その人のこと! なんでもいいの、いくつくらいの人? どんな感じの方で、それからそれから」


 マイヤさんが首を横に振る。


「コトハ、言ったでしょう? 今はまだ教えられないって。これからが大事なのよ、あなたとあなたを取り巻く未来も。だから、ね?」


 むう。チャンス! と思ったのになあ。残念。


 そんな私を、ファスタくんが少し悲しげ? な顔で見つめてきてるのが気になった。


「まあ、とにかくこうやってコトちゃんとヨシアさんが再び会えたんだから、楽しんでもらえるように僕が町を案内してあげるよ!」


 そう言ってファスタくんが明るい笑顔を見せた。さっきのは私の勘違い? ならいいけど。



 ファスタくんは私に気を遣ってくれたみたいで、南大路周辺じゃなく東大路の方を案内してくれた。


「ウラヌールはね、南は王都から延びる街道の一番北側に位置するから、役所や大店が集まってるんだ。西側は海に近いから海産物の取引所や、海の幸を出す食堂なんかが多いね。北は後で紹介するとして、これから案内する東にはね……」


 主によっちゃんとよっちゃんのお母さんに説明しながら、通りを東に向かう。よっちゃんは私とべったり、よっちゃんのお母さんは初めこそ緊張されていたけど、言葉が通じるのが判ってからはマイヤさんによく話しかけたり、ファスタくんのことを微笑ましく見ていたりしてた。


 そうそう、私も東側はまだ来たことがなくて、いろいろ興味がわくお店とかもあったんだ。


 たとえば、リンゴのお店ね!


 そう、あの笑いリンゴを売っているお店で、ファスタくんの領主館に納入しているお店が東大路の外門近くにあって、そこまで足を伸ばしたんだ。


 店先に、い~っぱいの笑顔が♪ 見てるだけでこっちもにこちゃん笑顔になっちゃうよね!


「コトちゃんっ! このリンゴ、笑ってるよ!?」


 うんうん、分かるよ、そのリアクション。私もおんなじだったもん!


「この笑ってるのが蜜があって甘くて美味しいんだよ! 笑いリンゴって言うんだって」


「そうなんだあ! 可愛いし、なんだか食べちゃうのもったいなくなるね」


「そうなんだよねえ、おこリンゴやなきリンゴは切っても美味しくないし。笑いリンゴ、笑顔なだけになんだか可哀想?」


 そんなことを店先で話してたら、奥からお店の人がすっ飛んできて、


「ちょっとあんたたち! 店の前で縁起でもないことをお言いでないよ! ただでさえ笑いリンゴの収穫量が落ち込んでるんだ、これでも頑張って並べられるだけ並べてるんだからね」


 あわわ、お店の人に申し訳ないことしちゃったよお、どうしよう。


「おリュンさん、この二人はそんなつもりではなかったんだ、許してほしい」


 ファスタくんがすいって出てきて、取りなしてくれる。


「ありゃ、ファスタ様じゃないかい! お連れさんなのかい? こりゃあ失礼なことを……」


「こちらこそ、お店の前で申し訳ありません」


 おリュンさんはいいよって言ってくれたけど、私がなにかお詫びに出来ることがないか、考え込んじゃったのを見てマイヤさんが、


「そう言えば農家の方から聞いたことがあるんですが、声をかけて慈しんで育てた野菜は味が良いと。そうなんでしょうか?」


 こう尋ねた。


「うん? あ~そういやあ聞いたことがあるね、まるで子育てしてるみたいだってね」


 マイヤさんがうんうん頷いて、私の方を見た。


「コトハ、ちょっと試してみてほしいの。音石を使わずに、言葉を綾取ってなにかお役に立てないかを」


 私の『力』でなんとかしてみなさいっていうこと? そんな、意識してこんなに人がいる前で出来るんだろうか、もし失敗して迷惑かけちゃったら……


「へえ~、お嬢ちゃんは力持ちなのかい? こりゃあありがたいこったねえ! ぜひお願いだよ、なあに元々おこリンゴやなきリンゴは砂糖漬けにするくらいしかないんだ、思い切ってやっておくれ!」


 うう~、そうまで言われたらやらない訳にはいかないよ。


 周りを見回すと、私たち一行だけじゃなく野次馬さんたちまで! あう~、緊張するよお。


「あの、そのう、もし上手くいかなくても許してね?」


 野次馬さんたちもみんなも、うんうんしてる。


 こうなったら腹を決めてやらなきゃねっ! よし、私の言葉でお店のリンゴたちが美味しく、おこリンゴやなきリンゴも嫌がられずに食べてもらえるように……


 私は音石を胸のポケットから取り出して、よっちゃんに渡した。大事そうに私の音石と、よっちゃんにあげたのを一緒にして両手で持っていてくれる。


 さあ私に出来ることをしよう。



♪ しあわせなリンゴ



おひさまのひかりで


げんきにそだった


いっぱいやさしさで


げんきにみのった



わらったかお


おこったかお


ないたかおも


みんなおんなじなかま



あまいみつに


すっぱいあじ


むしくいでも


みんなおんなじなかま



しあわせあじのリンゴになあれ


しあわせがおのリンゴになあれ



 私は歌いながら踊っていた。自然と身体が動いて、声に色が乗っかったのが判った。


「ええっ? どうなってんだい、リンゴが、リンゴの顔がみんな、ほやあ~♪ ってなってるよ!?」


 笑顔で美味しそうだったリンゴも、おこリンゴでぷんっ! ってしていたリンゴも、悲しげに泣いていたなきリンゴも、みんなみいんなほっこりしたような、幸せだあ~って顔をしていたよ!


「どれ、どんな味になっているのか、食べてみないとねえ♪」


 おリュンさんはそう言って、なきリンゴだった実をカプって食べた後、同じようにおこリンゴだったのを食べた。


「ちょっとあんた。え~と名前……コトハちゃんって言ったっけかい?」


 ぐいぐい顔を近づけてきて、目をらんらんってしてるよお。ちょっと怖い。


「あんた、いいよ、いい! ほらっ、かじってごらん、このリンゴ!」


 目の前にぼんって突き出された、ほやあ~♪ 顔のリンゴを私もかじってみた。


 よっちゃんにも、ファスタくんにも、マイヤさんにも食べてみてもらったら、みんなおんなじ顔をしていた。たぶん私もおんなじはず。


 美味しい♪


 それも普通に美味しいんじゃなくて、お料理に向きそうな味。ん~、ママなら具体的にこんなお料理! って思いつくんじゃないかな?


「コトハちゃん、このリンゴ売ってもいいかい? 売り上げの四割でいいよ、いや、三割でいいからさ、どうだい?」


「え~と売れます? 売れるんなら元々おリュンさんのお店のリンゴだから、私お金はいりません」


「っ! ほんとにかい? あんた見た目通りに天使様みたいだねえ! お家はどこだい?」


 なんだかすんごい喜ばれてる? ファスタくんが自慢げに、私のお家の宿屋さんのことを伝えている。


「そうかいそうかい! 宿屋の娘かい、こりゃあいいやあ! どうだいコトハちゃん、これからうちと取引しないかい? ぜひお願いするよ、考えておいておくれ」


 そう言うやいなや、おリュンさんは周りにいた野次馬さんたちに声をかけた。


「さあさお立ち会い、お立ち会い! 今見ていた通り、こちらにおわす力持ちのお嬢さん、コトハちゃんが『力』を込めて、幸せ味のリンゴにしてくれたよ! そのまま食べてよし、料理のタレによし、しぼって美味しいリンゴ水にしてもよし。今日はお試しで一個五十ルートでどうだい? さあさ買った買った!」



 幸せリンゴは、ものの十分と経たずに売り切れちゃった。

 こんばんは。

 

 いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。


 ♪ なしでも『力』が使えたコトちゃん。新しい人とも仲良しになれました。


 次回も東側のお店巡りになると思います。でもどんなお店がいいかなあ。

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