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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第二章 黒いマント。
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黒いマント。

 今回は先に、捕まったコトちゃんが助けられる状況を、後には助けに入った謎の人物側からの視点に切り替わります。

♪♪♪


 なにも出来ずに震えて縮こまるだけの私は、そんな私を無理やりこの場所に閉じ込めた男四人に囲まれていた。

 

 気持ちの悪いにやけ顔と、ずっと磨いていないんじゃないかってくらい臭い口を私に近づけてきて、永遠に思えるくらいの時間、顔を舐められた。胸を、身体をその汚らしい手でまさぐられ、着ている服をむしり取られたところで意識を手放そうとした。


 悔しくて、情けなくて、どんなに『力』を求めても繋がる感じがやってこないのに絶望して、私が諦めようとしたのも間違ってないと思う。


 だって無理もないでしょ? 私はまだ十二歳だよ? つい数ヶ月前に小学校を卒業したばかりのガキンチョだ。それでも判る。このまま気を失ったら、私はもう私じゃなくなってしまう。よっちゃんに会えなくなるだけでなく、もう生きていられなくなってしまうんだ。


 かろうじて意識を繋ぎ留めて、連中を睨み返そうとしたその時。二つのことがほとんどおんなじタイミングで起こった。



 すう~っと入口の扉に背を向けている連中に気づかれないように、ゼファーおじいちゃんが近づいてきながら、私にしか聞こえない『力』の声でこう伝えてきた。


『コトハ、心に描くのだ。光の場、通るみち、暗闇の深みを』


 ゼファーおじいちゃんの強く、それでいてとってもあったかい言葉を心で聞いた私は、頭のなかにその三つのイメージを瞬時に膨らませた。おじいちゃんの、今度はあのカードの身でどうやって出したのかわからない大きな、そしてとても『力』の乗った声がそのイメージに被さるように聞こえた。



黄水晶シトリンよ場を形作り


始原の光にて径開みちひら


幽世の『力』を此方こなた



 私の周りに爆発したように光があふれ、天井を突き破るように一本の真っ黒な、本当の黒い稲妻が突き刺さった。


 驚きおののいた連中が、たたらを踏むその先の。私の目の前に突き刺さった、黒い黒い稲妻が薄れた場所に、一人の男の人? が立っていた。


 その男の人は私に背を向け、連中に対峙するように軽く足を開いていた。足元まで覆う、さっきの黒い黒い稲妻とおんなじ色のマントを、首元の留め金を外す音をさせて視線を移すことなく私の方に放ってくる。


「小さき娘、安心するがいい。これからも師とともに俺が守ろうぞ」


 そう言ってくれた。小さいとか言われて、その声はけして優しいものではなかったけど、なぜだか私の心の中にストンと落ちてきた。ああ、私は救われたんだ。もう安心していいんだ。


 その時、入り口の方からマイヤさんと騎士隊の人たち、ロンロさんや知った顔、そしてラダー隊長も駆けつけてくれたのが分かった。みんな私を凝視するようなことはしないでくれている。優しさが心にあふれてくるよ。


「これで役者が揃ったようだな。さて、どうする、そこなサンピン共。逃げ道はなさそうだぞ、残念だが。せっかくだから踊りでも披露してみるか? 俺には見てやる義理はないがな」


 連中を挑発するように言ったその言葉には、静かだけどとても強い怒りが含まれているのが感じられた。私のことを思って怒ってくれてるのかなあ。そんなことを思いながら私が、今度は安堵から意識を手放そうとした向こう側で、マイヤさんが驚きの声を上げていた。


「っ! もしやカル様で……」


「姉上……しっ」


 もうそれ以上私は意識を保つことが出来なくて、深いところに、でも安心できる匂い……このマントからかな、良い匂い。私を助けてくれた顔もわからない男の人の匂いに包まれながら落ちていった。



✡✡✡



「さあサンピン共よ、お姫様は俺らの側で安心して眠りについたぞ。無粋な真似をして起こしたくはないからな、大人しく縛につくがいいぞ?」


 そう穏便に言ったつもりだったんだが、なにをとち狂ったんだか四人とも俺に襲いかかってきやがった。まったくこれだから現世うつしよは世知辛くていけない。俺は、腰に差した二振りの刀を抜き放ちながら前に踏み出した。


 連中のうち三人が、錆びた短剣を構えて無我夢中に突き出してくる。もう少し武器に愛情注いでやれよな、それじゃあどんなに腕があっても当たる気がしない。まあ当たってやるつもりはこれっぽっちもないけどな。


 一番前にいるやつの短剣をはじいて蹴り飛ばし、すぐ後ろにいたひょろっとした髭面にぶつけてやる。勢いが削がれちまった俺は、その場で横様になりながら一人の脛を払う。骨を断たれて崩れるやつは無視して、後一人残ったやつに向き直る。倒れながら左足を大きく踏み出した俺は、低い姿勢のまま刀を左右に伸ばす。鳥が求愛する際に羽をめいっぱい広げる感じにだ。もちろん目の前にいるこの酒樽みたいな男に求愛してるわけじゃないが。


 こいつはまあまあ使える方だ、『力』の息吹きを感じる。おそらく身体強化系か、構える素振りを見せずにぶっとい腕で掴みかかろうと進んでくる。


「悪いな、男に抱きつかれて喜ぶ心は持ち合わせてないんでな。諦めてくれ」


 俺は声に『力』を込めて前に押し出した。


『いと暗き闇』


 眼前に光を一切通さない真の闇が現われ、酒樽男を包み込む。くぐもった悲鳴が聞こえたがそのままにしておく。出してやる頃には大人しくなっているだろう。正気を保てていればだが。


 いささかあっけない気もしたが、無駄な殺生をしないで済んだのだから良しとする。先の二人は騎士隊の面々が捕えているし、後のは……まあ任せて問題ないか。俺は後ろでマントにくるまって気持ちよさそうに眠っている娘に近づいた。


「でええいっ! 寄るでない、このうつけが!」


 後頭部になにかが当たった。それにこの声には、思い当たる節があるどころじゃない。


「んがっ、師匠ではないですか。痛いなあ、もう少し優しくしてもバチは当たらないんじゃないですかね?」


 師匠である手の平に収まるほどの大きさのカードに対し、大げさなくらいに平身低頭してみる。


「まったくお主は食えぬやつじゃの、ちい~っとも変わっておらぬ。少しは成長しておるかと思っていたのが馬鹿らしくなるわい」


「師匠こそお変わりなく、と言うと怒りますよね。師匠の本身はご無事です、ご安心ください」


 器用にカードの中でため息をつきながら、師匠が背を見せる。


「うむ、お主には迷惑をかけておる。感謝しておるが、この娘はまだお主には荷が勝ちすぎるでの。しばらくは今まで通り、控えてくれまいか?」


 師匠が珍しく俺に頭を下げる。


 確かにこの娘は特異な存在だ。しかし師匠がこの俺に頼んでくるとは……


 今までも見守ってはいた。時折り見せる『繋がり』の強さは、普通の力持ちのそれを遥かに上回っているのは確かだ。師について学んだわけでもないのに、深く幽世に繋がりを見せるのも俺からしたら興味深いところでもある。だからこそ師匠は俺に?


「わかりました。後はお任せいたします。どうか師匠には無理をなさらぬよう」


 そう言って俺は入り口の方に向かい、心配そうに様子を窺って黙っていた女性に声をかける。


「姉上、ご健勝の様子でなによりです。どうか師匠とあの娘のこと、よろしくお願いいたします」


 思うところがあるのか、マイヤ姉はぐっと力を込めて俺を見る。


「私ごときにそのようになさらず。こたびの一件は私の思慮のなさによるもの。もう二度とかような目にはあわさぬよう、誓いを立てる所存です」


「同じ師に学んだ者同士、年長を敬う気持ちを表することをお許し下さい。姉上にはご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしく面倒をみてあげていただきますよう。時が至れば馳せ参じますゆえそれまでは」


 マイヤ姉はひとつ大きく頷くと、娘の方に急ぎ歩み寄って俺のマントごと抱きかかえた。それを見届けた俺は、来た径を戻るべく『力』を使った。


『開け、闇夜の宝石』


 一瞬の間、小陽が光を強くしたが気づく者は俺と師以外にはいなかった。

 はい、みなさんの仰る通りです。


 コトちゃんを危ない目にあわせてしまい申し訳ありません!


 これでも、ギリギリでなんとか躱したんですよ?


 次回からはいつもの調子に戻る予定です。


 どうぞよろしくお付き合いの程を。


 感謝!

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