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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第二章 黒いマント。
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領主様からの伝言。

 こんばんは。


 領主様から、アマクニ家にお使いが来ました。代表でフミアキ氏が対応していきます。

◇◇◇


 今日のコトハは、朝から落ち着きがない。いや、ここ数日前からだな。仕方ないっちゃ仕方ないか。


 

 『羽根飾り亭』での初めての朝が終わり、ドタバタしながらもなんとか片付けや掃除を一通り終えた頃、領主様からの使いがやって来た。


「おはようございます。朝のお忙しい頃合いにお伺いしてしまい、大変申し訳ございません」


 こう言って丁寧に、そして優雅に頭を下げたのは、領主様の屋敷で俺たちの世話をしてくれた、メイドのサリィヤさんだった。


 サリィヤさんは屋敷で着ていたメイド服ではなく、外向き用の膝下まであるスカート、編み込みのブーツに上着には、薄手のショールみたいな物を羽織っている。


「サリィヤさん、おはようございます。どうぞ中に」


 立ち話もなんだから、ラウンジに案内して座ってもらうことにする。


「素敵なラウンジですね、優しい光が……このシャンデリア、もしかして」


 吹き抜けの天井から吊されているシャンデリアから、柔らかい黄色味を帯びた光が、ラウンジ全体を明るく照らしている。


 昨日の夜、コトハの『力』と音石に共鳴したシャンデリアは、そのまま光を失わずにいた。ゼファーじいさんが言うのには、元々『繋がる力』の触媒のような役割を果たしているクリスタルが、コトハの持つ音石と同じ性質に染められたんだろうとのことだった。


 そんなことを読み取ったのか、サリィヤさんが静かに口を開く。


「実は、お屋敷でも似た現象が起きているのです」


 マイヤさんとアメフラシさんに朝食で出したのと同じ、カモミールに似たハーブを使ったフレッシュティーを、やや危なっかしい足取りでコトハが持ってきた。


 お盆をテーブルの端に静かに置いて、サリィヤさんの前にティーカップを差し出す。そこにティーポットから注ぎ入れるんだが、見ているこっちがドキドキする。


 ラウンジの入り口に目を向けると、セントアとサクヤが心配そうに顔だけ覗かせている。


「コトハ様。とても良くお出来ですよ、大丈夫」


 その手つきをつぶさに観察していたサリィヤさんから、合格点をもらったコトハが緊張が解けたのか、はあ~っと息を吐いた。


「良かったあ~♪ 本職のサリィヤさんになんて言われるか、もう心臓がばっくばくしっぱなしだったの!」


 くすっと笑って、口元にカップを上品に持っていく。


「とっても美味しゅうございますよ、コトハ様♪」


 あ、コトハがデレたのがわかる。そりゃ本物の給仕をしてる人から、あんな笑顔をもらえたら俺だってデレる自信がある。


 なんだか入り口付近からの視線が痛いから、俺は話を進めることにした。


「さっきの現象? についてや、お越しの用向きをお話しいただいても?」


 サリィヤさんが、ピッと姿勢を正した。


「申し訳ありません。そうですね、まず今のお屋敷のことですが……」


 サリィヤさんが話してくれたのは、領主様の部屋でコトハがゾーンと『闇の使い手』と対峙した後、部屋中を満たしたあの光が屋敷全体に行き渡ったということだった。


 その光の波は屋敷から溢れ出して、すぐそばにあった小さな森や池の辺りまで広がり、生き生きとした色を付けて、静まり返っていた屋敷全体が、賑やかさを取り戻したらしい。


 更には、フォーヘンド様の容態も劇的に改善され、食事も量が増えてたった一日で、元気に屋敷中を歩き回る事が出来るようになったのは、これからこの町で商売をしていく上で喜ばしいことだ。


「もう一つ大事な伝言がございます。ファスタ様がご主人様に進言され、今回の転移先の不手際から始まった、一連のアマクニ様一家が係わられた事態に対し、謝罪と感謝の意味を込めてなにか報いることが出来ないかと」


 ここでいったん区切り、俺たちを見回しながらサリィヤさんは、領主様からの言葉を伝えた。


「ご主人様はこう仰っております。まず代官による執政を排する事が出来そうで、不正の温床を解消することが可能になりましたことを喜ばれ、こちらの宿屋の徴税を免除することとお決めになりました。二つ目は、北部地域との往来を、隧道を通すことにより可能にした功績に対する褒美として、アマクニ家を爵士家として封じられるそうです」


 そうかそうか、税金免除はありがたいな。でもそんなに甘えるのもなんだから、三年くらいで十分……ってなになに!? うちをしゃくしに? なんだ、しゃくしって。定規のことか?


 なんて冗談はさておき、爵士家ってつまり、名誉ある家ってことだよな? それはいくらなんでもオーバーじゃないかと思う。


「いやいや、それはちょっといただけないな。トンネルを掘ったのは穴掘りグマたちだし、肉体労働を買って出てくれたのはウホッホ族の男衆なんだ。彼らを褒めるのが筋だと思う」


 俺たちを助けてくれ、励ましてくれた彼らを差し置いて、うちらだけいい目を見るのなんてまちがっている。


 サリィヤさんがなんだか、俺がこう言うのをはなから知っていたみたいな顔をして、話を続けた。


「はい。ご主人様はゼファー様とお話になり、おそらくフミアキ様はお断りになられるだろうと」


 俺はポーチを腰から外して、中からじいさんを出した。


「なあ、ゼファーのじいさん。なんで教えてくれなかったんだ?」


「マスターよ、そなたわしから告げても、聞く耳を持たぬではないか」


 まあ、確かに先に聞こうが後に聞こうが、俺の意見は変わらないけどな。


 コトハがなにか言いたそうにしている。そうだ、コトハが一番の功労者なんだから、そっちに話をすり替えれば……。


「あ、あのサリィヤさん、領主様にお伝えいただけますか?」


 サリィヤさんが小首を傾げる。


「はい、まだ続きがあるのですがなんでしょうか?」


「えっとですね、爵士の件、お受けします」


 ちょ、ちょっと待った、コトハなにを言うかと思えばそ……


「その代わり、って言うのも変なんですが、二つお願いを聞いてもらえないかなって」


 今度はにっこりと、最初からコトハがなにか言うのを待っていたみたいに、


「ええ、ご主人様からコトハ様の言葉は、一言一句聞き漏らさず持ち帰るように言われておりますから、なんなりと」


 コトハはそう言われて、大きく頷くと領主様へのお願いを、サリィヤさんに伝えた。



 そして数日が過ぎ、今日を迎えることになってコトハが、落ち着きなくそわそわしているという訳だ。


 どういう訳かって? それはだな……、


 お待たせしておりました!


 あれ、確か続きはお友達のよっちゃんの話だったはず……?


 まあこういうこともあるかと。けふん。


 次話でたぶん、おそらく、きっと……

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