【閑話】お誘い。
コトちゃんからのお手紙をもらったよっちゃん。
手紙に書かれた内容に驚き、そして……
こないだ連絡があってから『船運び』屋さんに行ってコトちゃんからの、あっつ~い思いのこもった――量もあっつ~いものだった♪ ――お手紙を受け取ったの。
とってもとっても待ちわびたお手紙。そこには、コトちゃんらしいちまっとした文字でびっしりと、驚きの内容が書かれていたの。
そのお手紙には、到着場所がなぜだか変わってしまい、なんにもないススキが原の廃屋に飛ばされてしまったこと、その廃屋に残されていた荷車に積み込めるだけの荷物を積み込んで、二ヶ月以上にもなる野宿の旅を続けたことや、途中で知り合った人とは違う種族との出会いや交流の末、ようやく町に着いたことが書かれていた。
それだけでもう私はびっくりしすぎて、コトちゃんたちの苦労に涙したんだけど、話はそれだけじゃなかったんだよね。
何度かにわたっての、『色なしの悪魔』って呼ばれているゾーンって悪者との対決や、湖を生き生きとさせたり、駄目になってしまった甘笹の森を、歌や踊りで回復させようとしたり。でもこれはあんまり上手くいかなかったんだよね。だから目の前にそびえ立っている山脈にトンネルを造って(!?)、町側の方にある別の森にその森を聖地にしている熊さんたちを移住させてあげたり。
もう私の頭の中いっぱいいっぱいだよ、コトちゃん!
コトちゃんのお手紙には、辛いとか苦しいとか言う言葉は一切書かれていななかった。
おじさんやおばさんとの旅の様子を、楽しげに、前向きに捉えてるんだなあってよく分かる書き方だったの。なによりも、旅の仲間だった大猿のウホッホ族さんや、トンネル掘りで活躍した穴掘りグマさんとの付き合いがものすごく励みになったみたいで、これからも仲良くしていきたいと書かれていた。
どんな人たちなんだろう。人って言っていいのかな? コトちゃんはなんの違和感もなくおんなじように接しているみたいだから、私もそうしよう。
最後に書かれていたのは、ご挨拶に向かったウラヌール地方の領主様のお屋敷での大事件についてだった。
ご病気の領主様を取り囲む『闇の使い手』。コトちゃんを悪い側に引き入れようとするゾーン(またまた出てきたよ!)。このとんでもない危ない状況を、コトちゃんは自分の持っている『言葉を綾取る』力を使って切り抜ける。
私の心臓はもうバックバクしっぱなしで、先を読むのが怖くなったくらいだったの。
だって、普通に小学生してたあのコトちゃんが。本が好きで、暇があったらどこでも本を開いていたあのコトちゃんが。あ、でもそれ以外は基本的にあちこち飛び回っていて、歌ったり踊ったりするのも大好きだったし。なにより間違ったことやいじめ、悪いことが大嫌いで大人の人にも意見したりしてたから、なんとなく理解は出来る。後先考えないで、突っ走っちゃうとこもあるしね。
とりあえずはどうにかなったんだから、コトちゃんもこうやってお手紙出せたんだもん、安心した……っていうか気が抜けちゃったよお。
お返しのお手紙、なに書こうかなって考えていたら、『船運び』屋さんのパルノさんから電話をもらった。
「ヨシアちゃん、おひさしぶり~! でもないか。こないだ渡された手紙は、きちんと届いてるから安心してねっ」
パルノさんは栗毛色の、コッカースパニエルの犬人さん。ハキハキした喋り方でしっかり屋の店員さんの方。そのパルノさんからの連絡とあって、私はまたなにか困ったことがあったんじゃなかってドキドキしながら話を聞いた。
「あのね、ほんとはこういったやり取りはしないんだけどね、どうしてもフォーヘンド様直々のご依頼だから、特例ってことで許してね?」
こないだ連絡くれたのは、ああいった事があったから特例なのは分かるんだけど、今度はなんだろう。え、フォーヘンド様って確か……コトちゃんのいるウラヌールの領主様じゃなかったっけ? そんな方から私に特例での依頼って、なんだか怖いよお。
「もう手紙で知ってると思うけど、今回の一連の事態をアマクニさん一家の大活躍でほぼほぼ解決しちゃった上に、今まで行き来しづらかったウラヌール北部との間にトンネルまで造ってくれた功績にね、なにかご褒美をってファスタ様が進言なさったんだって」
ま、まあそうなるよね、だって領主様の危機も救ったんだし、トンネル掘ったのは穴掘りグマさんたちだけど、そうお願いして実現させたのは確かにコトちゃんたち家族の大手柄なんだろうしね。でも、ファスタ様って誰? お手紙の中にそんな人出てきたかなあ……。
「それでね、フォーヘンド様から褒美はなにがいいか尋ねられたアマクニさんのコトハちゃんだっけ? 彼女がお願いしたのがヨシアちゃんに関係してることだから、私から伝えてくれってハヤームさんから言われたんだよ!」
ええっ? なになに、なんだろ? 私が関係してるってどんなこと伝えられるの? 私なにかいけないことでもしちゃってたんだろうか。
「で本題なんだけどね、コトハちゃんからのお願いで、今回の事態の解決の大きなきっかけになったヨシアちゃんを、フォーヘンド・ダル・ウラヌール地方領伯爵閣下命でウラヌールにご招待したいんだって。良かったね、ヨシアちゃん! お友達に会いにいけるよっ」
電話を切ってからもしばらくは、私は動けないでいた。
コトちゃんに会いにいけるの? 会いに行っていいんだよね? 夢じゃないよね、今の電話のお話。
「ママっ! 大変だよ、大変! 私、コトちゃんに会いに行くことになったよ、どうしよ、支度しなきゃ! ああ~、ウラヌールって外国みたいなものだからお洋服どうしよう? ねえ伯爵閣下って偉いんだよね? そんな方からのご招待なんてどうしたらいいんだろ、ママって貴族の人とお話したことある?」
慌てて台所にいるママに、今あった電話のことを伝えようとしたんだけど、きちんと伝わってないみたいだった。
ああんもう、そうだ、ドレス! コトちゃんから貸してもらった小説にあった舞踏会で着るようなドレスが必要かも。そんなドレスがうちにあるわけじゃないよね、どうしよう。私はしばらくの間、頭を抱えてうんうん悩むことになってしまった。
コトちゃん、私ってどうしたらいいの? お願い教えてよお~!
いつも『ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~』をご覧のみなさん、木漏れ日亭でございます。
毎回拙い文章、展開の遅さ、盛り上がりに欠ける内容にも拘らず、多くの方にお読みいただいていますこと、心から感謝しております。
次章以降もどうぞよろしくお付き合いくださいませ!




