決意。
コトハちゃん、決意表明。
♪♪♪
お話の後は、みんなでゆっくり夕ご飯を食べた。その後にもまた少し話をしたけどね。
セントアちゃんは身体が幽世にあるから、こっちではおなかが空かないんだって。じゃあ向こうの身体は、おなか空かないのかな?
セントアちゃんは、ずっと宿屋さんの方――『羽根飾り亭』だったよね――に気持ちがあるから、よくは分からないみたい。後でゼファーおじいちゃんに尋ねたら、幽世はこっちと違って閉ざされた場所だから、普通にはおなかは空かないんだって。
普通にはっての、なんか引っかかるけどまあいいかな?
セントアちゃんの座るテーブルの上には、ヤクンドさんの串焼き屋さんにいたのとおんなじ、火亀さんがちんまりと丸くなっていたの! しかも二匹もいるんだよ?
ヤクンドさんのとことおんなじくらいの大きさの子と、もう二回りくらい小さな子と。小さな子の方は手の平に乗っかるくらいで、キュイッ♡ って可愛く鳴くの! 女の子でキュイちゃん。もお~たまらんち~♪
おっきい方がキュオくん。キュイちゃんととっても仲良しさん。あれかな、やっぱりカップルなのかな? うらやましいなあ、なんてね。
この『羽根飾り亭』から人がいなくなった後も、床に溜まっていたわずかな水と、たまに出てくる虫さんを捕まえて二匹で分け合いながら、いつ誰が戻ってきてもいいようにお掃除をし続けてきたらしい。
二年以上前から毎日毎日、ご主人様たちの帰りを待ってたなんて思ったら、私はものすごお~く、ほんとおにものすごお~く頭にきた。誰にって? もちろんそんな目にあわせた徴税官と、その上役? の人たちにだよ!
冗談じゃない。散々嫌がらせをして、あげくに命を奪い、懸命に生きるものを辛い目にあわせて、自分たちはのうのうとしてるなんて。
町でマイヤさんに襲いかかろうとしたあいつらを思い出した。次に遭ったらただじゃおかないんだからねっ!
私がふんふん鼻息を荒くしている間に、すっかり食事も終わり後片付けをすることになったけど、後片付けは私たち家族三人でした。少しでも早く慣れないとっていう気持ちと、みんなに甘えてばっかりで申し訳ないなって思ったから。
セントアちゃんが厨房の中を案内してくれる。やっぱりここも、すんごい機能的なんだね。
「ねえ、セントアちゃん。あのね……セントアちゃんのお父さんって、もしかしたら私たちと同じように、違う世界から来た人なのかな? ごめんね、辛いと思うけど教えてほしいな」
言ってから失敗したと思ったけど、もう戻せない。セントアちゃんにとって、まだ癒えない傷をえぐってしまったとしても、確かめておきたい。
「っ! うん……いいよコトハちゃんなら。必要なことなんだろうから」
そう言って、悲しげに顔をくしゃってした。
「少し違うかな。私のパパは、コトハちゃんたちの国に行ったことがあって、教えてくれなかったけどいろいろあったんだって。そこで知り合った人たちに助けられて、この町にたどり着いてこの宿屋を始めたんだって。元々は違う国の町に住んでたんだって言ってたよ」
そうだったんだ。てっきり私は、セントアちゃんのお父さんは日本人で、こっちに移住した人だと思ってた。大変な苦労をして、この町にやってきて今度は……
「セントア、俺じゃあ君のパパの代わりにはならないだろうが、必ず奴らをギャフンと言わせてみせる。そして身体を戻す方法を絶対見つけるからな」
そうパパが力強く言い切ってくれた。キュイちゃんにキュオくんも合わせるように、キュイッ! キュオッ! って鳴いた。
夕ご飯の後片付けも終わり、火亀さんたちの寝床を石焼き竃のそばに作ってあげたの。キュイちゃんがいたタライにもう少し大きめの平らな石を置いて、その横には清潔な布を敷いて寝やすいようにしておいた。
ファスタくんは、終始浮かない表情でお屋敷に帰っていった。念のためにマイヤさんとアメフラシさんが同行していく。
後で二人ともこちらに来て泊まっていくことになっている。
私たちはセントアちゃんにあれこれ教えてもらいながら、リネン室? にあったシーツ類から比較的新しそうで、きれいな物を掃除を済ませたお部屋に運んだ。
「ベッドメイク、覚えてるかなあ……」
と言いながら、パパが布団にシーツをピンッ! って張る。
「コトハちゃんパパさん、すごいね、やったことあるみたい!」
セントアちゃんがびい~っくりしている。確か学生の頃、アルバイト先でやったことあるって言ってたっけ。ほんとパパは器用さんだね。
私も見よう見まねでやってみるけど、あんまりきれいには敷けなかったの。ママはおなかがおっきいから、ふうふう言いながらで大変そう。これは私が二人分頑張らないとね。
なんとか客室の準備が出来て一安心。後は私たちの住まいの方ね。セントアちゃんはこれまでどうしてたんだろう?
「セントアちゃんはどうやって寝るの? もし良かったら、私と一緒にどうかな?」
セントアちゃんは、しばらくふわふわしながら考えていたけど、
「うん、コトハちゃんがよければ、一緒にいたいな。今なら少しはこっちにいた頃みたいに、触れはしないけど感じられるから嬉しいな♪」
やたっ! 私も嬉しい。お部屋はパパママのと完全に分けられていて、少し寂しいなあって思ってたからね。
しばらくして、マイヤさんとアメフラシさんが帰ってきた。
「本当に泊まらさせてもらっていいのかな、わし。宿屋の当てもないからありがたいんじゃがなあ」
アメフラシさんが言うのへ、
「こちらこそ助けていただいた上に、いろいろしてもらったから水くさいこと言わないでくださいよ」
そうパパが言った。それに、下ごしらえしてるアメフラシの珍味もあるしね。とっても嬉しそうで良かった。
それぞれがお部屋に分かれていく。私とセントアちゃんも一緒のお部屋に入る。だいぶ前に夜七の鐘がなったから、けっこう遅い時間になっちゃってるね。いろんなことが今日一日だけでもあったから、身体の芯から疲れてる。
「ごめんね、すごお~く疲れてて眠いからお話できな……」
私はあっという間に深い眠りについた。すぐ横に、セントアちゃんの優しい気配を感じながら。
「……ちゃん。」
「コトハちゃん!」
うわ~いっ? 飛び起きた私は、キョロキョロ辺りを見回した。まだ大きな陽は上がってないみたいで、そんなに寝た感じがしない。セントアちゃんに文句を言おうとしたら、逆に叱られちゃった。
「コトハちゃん、宿屋にお客様がいらっしゃるからには、きちんと仕事しないとダメだよ? 誰よりも早起きでやることいっぱいだからねっ!」
おおうっ! 今日からこの『羽根飾り亭』の……プレ? オープンなんだね。なんだかなし崩し的だけど、よし、やりましょうか、朝から元気にね!
「うん、おはよう! いろいろ教えてね、私、セントアちゃんに負けないくらいに頑張るよ!」
私は急いで仕事が出来る服装に着替えて、セントアちゃんを追いかけて自室の扉を、バンって勢いよく開け放った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ようやく『羽根飾り亭』のプチオープンです。正式オープンではありませんが、永らくお待たせしました!
と言いつつ、次回は閑話を挟み込ませようかなと……すみません(汗)。