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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第一部 第一章 運のないパパ。
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パパの隠し事。

 なかなか進めません(^^ゞ。

 

 あ、それでも今回からファンタジー要素がちらほら。かなり長くなりそうなので、区切らせてもらいました。


 今回は、コトちゃん~パパ~コトちゃんになっています。よろしくお読み下さい♪

♪♪♪


 私は、いつもはかなりぞんざいな扱いをしていて、相当悲しませてる?ランドセルを、今日ばかりはと胸の前に回して、大事に抱えてお家へと急いだ。横では、私とおんなじようにしたよっちゃんのランドセルが、ぽよんぽよんと嬉しそうに?弾んでいるのが見えた。


 ……。


 う、うらやましいなんて思ってないんだからねっ!


 でもでも、よっちゃんはおんなじ年の私が言うのもなんだけど、背は高いし、すごおく可愛いし、その……スタイルが良いの!

 やわらかそうであったかそうで、横にいるだけで私までドキドキ幸せになっちゃうくらい。詩作クラブの四年生男子が、毎回きちんと出席してくるのもよおくわかる。うん。


 でも、君たちにはまだまだ早いぞおっ! ん?


 まあそんなことをつらつらと思いながら、よっちゃんとバイバイする。少し離れてから、よっちゃんが振り返った。


「コトちゃん、思いついたことが上手くいくと良いね!」


 右手の親指を立てて、可愛くぐいってする。しかもウィンクつきだ。もお、たまらんち~~♪ 駆け寄って行って、むぎゅうってしたくなるよ、よっちゃん。


 ありがとね、絶対がんばって結果を出すよ!



 お家の玄関脇のインターホンを押すと、ママがすぐ出てドアを開けてくれた。


 お掃除中だったのか、手にハンディモップを握りしめている。持ち手がにゃんこの手になってて、裏にはぷにぷにした肉球がしっかり付いている、とおってもラブリーでママにお似合いだ。


 ママは、ランドセルを前にしてる私を見て小首を傾げた。


「コトちゃん、首が後ろ向いてるわよ、いたくなあい?」


「ママっ! 私ってどんな身体してると思ってるの?こわいよ、かなりそれ!」


 なんてことを言い出すの、ママ……。


「そう、なら良かったあ。心配したらお腹すいちゃったから、一緒におやつにしましょ? 手を洗ってらっしゃいな♪」


 ママ。そんなに腹ペコキャラさんだったっけ? まあ可愛いので許しちゃおう。

 あ、私まだ玄関開けたまま、中にも入ってなかったよ、びっくりだ。後ろ手にドアを閉めて、鍵をかける。洗面台は上がってすぐの左手だから、手洗いうがいを入念にする。


 私の部屋は、入ってすぐの右側にドアがあって、四畳半のフローリングになっている。正面の窓からは、隣の棟のおんなじ窓が見える。まあ団地だもんね、仕方がないね。


 お部屋の感じ? ん~普通かなあ。特にお気に入りのぬいとかはいないし、絶対抱き枕派! って訳でもないからあんまり可愛いお部屋ではないかな。

 あ、例の本部屋に置くのはちょっと……って本や(どんな内容かは恥ずかしいから言えない。って違う違う、小さい頃書いた詩や小説まがいののたくった字の束なんかだよ!)、どうしても手元に置いておきたい本なんかは自分のお部屋の本棚の中にある。

 うん、そうは言っても、ほとんど本が住んでいるお部屋だね。私の占有スペースは、ベッドか勉強机のあたりしかない。


 もし今地震があって、ぐらぐらしたら確実に本がばさあっってあちこちから落ちてくるだろう。本棚は、パパがしっかりと耐震金具? で壁に打ち付けてくれてるから安心だけどね。


 机の上にランドセルを置いて、中からお宝を慎重に取り出す。

 はあ~っ、何度見ても嬉しいもんだよ、自分で書いた言葉たちがこうやって活字になって、本になるなんて! ものすごおくうきうきして、まるで本物の作家さんになったように思えちゃう。まあたまた自重しなくっちゃ。


 大切な詩集を持って、居間に向かうといい香りがしてくる。私はあまり詳しくないけど、パパとママは美味しいコーヒーを淹れられるんだ。

 うちは家族揃って、大のコーヒー党なのだ。私ももちろん大好き。この年でなにを言うのって思われるかもしれないけど、小さい頃から豆を挽いたときのあの香りがとおっても好きだし、お湯を注いで蒸らした後、下のサーバーにゆっくりと溜まっていくあの濃い茶色、う~ん琥珀色! も味わい深い色だと思うんだ。

 味はね、確かに最初は苦くて渋くて酸っぱい! って子供の嫌いな味覚のオンパレードだったけど、すこおしずつ、美味しく感じるようになっていったんだよね。


 でも美味しく感じるようになるまでに、挫折しちゃう人もいっぱいいるんだろうなあ。

 人生の大切な楽しみ方の一つを失うなんて、もったいないなあ。


 なんて勝手にしったかぶっては、ひとりごつ。

 ママが、生温かい目で私を見てた。


 一緒にコーヒーを飲みながら、私の持ってきた詩集を丁寧に読んではふんふんするママ。どうかな、内容はかなり満足いく形に仕上がってると思うけど。


「今回の詩集も良かったわあ。特にコトちゃんの詩は、本当に味があるわね。噛めば噛むほどじわわあってしてくる、ホタテの貝柱の干物みたいだよお」


 ご丁寧にも、言い終わった後にじゅる♪ って口元を手で拭く。どんだけ腹ペコキャラなの、ママ? 

 その後、ドガガガガ~ンやズババ~ンって節をつけながら例の四年生の詩? を楽しそうに声に出して読んでいる。

 とおっても楽しそうだからいいや。私もホタテの貝柱の干物、大好きだし。あれ? なんか違う気がする。むむ。


 おやつを食べて(貝柱じゃないからねっ)、ずっと考えていた思いつきをしっかり伝えられるように、頭の中で練っているとパパが帰ってきた。


 そりゃあママがパパのことを大好きで、普通ならママが行くのが当たり前なんだけど、今回ばかりはそうもいかないんだ。ママごめんね。


「おかえりなさ~いっ、パパ!」


「お、おう、ただいま」


 ん~、歯切れが悪いとこみると、お仕事の方でだいぶ気をつかった様子、お疲れ様。カバンとコートを受け取ってあげると、じ~ってこっちを見てる。な、なに?


「どしたの、パパ?」


「う、うん、あ~、なんでもないよおだ」


 やだ、パパなんて顔してるの? 子供みたい。ププッ!


 パパが洗面台に入って行くので、私は二人の部屋に行き、カバンを置いてコートをハンガーに掛けてラックに吊す。

 

 部屋の中はあんまりじろじろ見ないようにする。やっぱり親子とはいえ、そこはわきまえてるつもりだよ。その、保健体育でも詳しく教えられてるし(図解はなんかね……恥ずかしいよね)、たくさんの本からもいっぱい学んでるから、知識としてはまあ、いろいろ?

 

 それよりも、肝心の目当てのものがないか見渡す。



 書棚と机の間に目が自然と吸い寄せられた。そこには、淡く黄色い光を発する布が架かっていた。



 ここにはないの


 なんにもないの


 みつからないよ


 だってないもの



 私には、布がそう言っているような気がした。



◇◇◇



 分工場で、従業員さんたちに質問攻めっていうか詰問? 尋問? されまくり冷や汗を流しながら、何とか乗り切って家に帰ってきた。ふう。

 葉山さんにお願いしてきた、職安が優先的にパート従業員の再就職を斡旋してくれるという約束に、少しだけ気が晴れた。

 

 あんまり心配かけないよう、笑顔を顔に貼り付けながらインターホンを押す。きっと上手くいってないんだろうなあ。


 玄関を開けてくれたのは、意外なことにコトだった。返事を返すと、なんだか大人びた表情というか、俺を労わるみたいな感じで、ごく自然な動きでカバンを受け取りながらコートを脱がしてくれた。

 なんだかドキッ! ってしたぞ、不覚にも。

 

 きっとそんなのが顔に出てしまったんだろう。ププッて笑われてしまった。なんだかなあ。


 手を洗いうがいを済ませて居間に向かうと、俺と咲耶の部屋から、ちょうどコトが出てくるところだった。


 さっきとはまた違う、なにか思いつめたような、心が決まったような表情をしているのが気になる。すごおくやばい気がする。


 部屋でまさか、子供が見ちゃいけない大人♪ のあれやこれを見つけたか? いやいや、パッと見ただけではわからないように工夫していたはずだ。なにせ年頃の娘だし、そしてコトはこっちがびっくりするくらい頭が回る。だからいろいろ気を遣わなきゃならない。いろいろとね。

 い、いかがわしいものとか隠してるって意味じゃないぞ。ほんとだぞ。


 ……苦しい言い訳だなあ。って誰に言い訳してるんだ、俺?


 そんなに広くはない居間。ちまちまっとしたソファセット。ベンチソファの方に、二人してくっついて座っている。

 咲耶はあいかわらずふるんっ? って顔だ。どんな顔だ。たぶんなにか食べ物のことを考えているに違いない。夕飯のおかずのことか?

 それに比べてコトは……あ、これはまずい。さっきのまんまだ。切れ長で細い目をじぃ~~っとこっちに向けている。



 ……やっぱりあれだな、コトは目端が利くだけじゃなくて記憶力も良いからなあ。覚えてたのかなあ。


 出来ることなら、すべて捨てておくんだった。


 それが出来ないから、自分の中の少ない『力』を使って、視界に入らないようみちを消しといたんだ。まさか解けてはいないはずだ。

 

 無かったことには出来ない、誰にも言えない秘密。


 

「むむ? こ、これは!俺の無類の本好きとしての、そしてノージャンル・ノージェンダー乱読家としての血がざわざわしているぞっ? わかった、これは小ロット専門で冊子・本製作を請け負う印刷会社の熟練の職員の手による精緻で丁寧な仕事ぶりがぶわわ~っとその存在感をいい意味ですごおく主張している詩集ではないか! いやあ、これはこれはいい仕事、してはりまんなあ~」


「パパ……大丈夫?」


「お、おう。大好物……げふんげふん、大丈夫」


 誤魔化すのに必死な俺は、その詩集をそっと手にした。コトの俺を見る目が痛いこと痛いこと。


「詩作クラブの新作だなあ? 前回のはとっても新鮮で、父さん何十年かぶりにものすごおく、創作意欲を掻き立てられたんだぞお。今回のも期待大だなあ。コトのは後でじっ~くり読まさせてもらうとして、まず今のお薦めはどれかなあ?」


 いきなり読み始めずに、敢えてコトに選んでもらおうとして差し出すと、ママが横合いから手を出してきてパラパラッとめくってこれっ♪ って手渡してきた。ふんふんハミングしてるぞ、おい。なんの詩を読ませる気だ? いったい。こっちの思惑も知らないで。


 仕方がないから読んだよ。それが、むむ。演技なしでマジすごかった。

 ある種、常識を覆す画期的な詩?だ。だってさ、なんで恋の詩なのにズババ~ンなんだ? 好きになったイメージが、ボワボワ~ン! って……面白すぎるよ、四年生!

 あなたにときめいちゃったよ ドギャ~ン!

 こいまっしぐら ドガガガガ~ン


 ああ、こんな状況なのに腹よじれる。なんだか悔しくなった。


 他の子のもどれも良かった。今のクラブ長?の子のは一言一言明確に区切られていて、読みにくい反面、妙に心に残る詩だった。

 コトと大の仲良しのよっちゃんのは、とても女の子らしい、柔らかな文体で瑞々しさに溢れている。


 うちのコトのはどうなのかって?


 愚問だな。コトちゃんマジ天使、ちょ~~ラブリー♪ に決まってるじゃあないか。


 書かれている詩のすべてが、一見すると平易で読みづらいひらがなのみで表現されている。そのひらがなの持つまあるみと、優しい言葉の連なりが音となって独特の世界観を生み出している。幼女から少女へと変貌していくさまが、そのひらがなの持つ力で……。

 つまりはだ、今作もグッジョブってことだ。

 

 それは間違いない。普通にいい詩だ。ただ『詩』として読んだだけならな。


 でもこれは予想外だ。想定外もいいとこだ。いや、本当にそうか? 判っていたことじゃないのか? もしかしたらって思うことはなかったか。わざと見ないように、知らないふりをしていたんじゃないのか。


 ああ、そうだ。認めよう。


 俺の持ってる『力』に通じるものが、コトの中に芽生え始めているってことを。


 

♪♪♪



 ママが夕食の支度をしに、台所に立った。

 

 パパを見ると、なにがしか吹っ切れたように、諦めたみたいな表情を浮かべて私を見つめていた。だから私は、普段パパとするような冗談交じりの、馴れ合いの感じではない真剣なお話をするべく襟を正した。


「パパ。お仕事のことだけど」


「ああ、なんだい?」


「工場の社長さんのせいで、会社が無くなるのは本当なんだよね?」


「残念だけど、それは本当のことだ。だから社宅扱いになってるこの団地も出なくちゃならないのも本当だ。ママや、コトにも迷惑かけることになってしまって、すごおく申し訳ない気持ちだ」


 うん、これはやっぱりどうしようもない事実なんだね。パパのしょぼ~んとした態度に胸が詰まる。


「パパはさ、私が小さい頃からいっぱいいろんなお仕事をしてきたよね?」


「ああ。なぜだかどの仕事も、これからどんどん良くなっていくって時に必ずといっていいほど、その仕事の会社が無くなってしまうんだ」


「そういう時に、パパがしていたことが?」


「……ああ、占い師だ」


 やっぱり、そうだったね。ここまでは間違ってない。


「でも今回の場合は、そうして私たちの生活を支えることが、なぜかはわからないけど出来ないんだね?」


 パパが大きく目を見開いたまま、しばらくそのまま時間が過ぎていった。


「コト。布が見えたんだね?」


 短くパパがそう聞いてきたから、私も短く、うん。とだけ頷いた。


「詳しい話は飯の後でな。本部屋がいいだろう」


「わかったよ、パパ」

 お読みいただき、感謝です!

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