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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第一章 町の実状。
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キュオとキュイ。

 こんばんは。


 二階ラウンジから食堂に場所を移してのお話です。

◇◇◇


 詳しく話を訊く前に食事にすることにした。時の鐘が六つの鐘を鳴らしてから、もうだいぶ経っていたからだ。


 食堂の方にみんなが移動して、マイヤさんがあの串焼き屋や他の店から料理を買ってきたのを並べていく。サクヤの姿が見えないと思ったら、厨房でなにやら調理しているようだ。火がなかったから料理を買ってきたんじゃなかったか?


 厨房を覗くとそこには、なにやら黒い物体を寸胴にバラバラっと入れながら、ふんふん鼻唄を歌っているサクヤの姿が。ちょっと怖いなあ。


「あ~サクヤ? なにしてるのかなあ?」


 サクヤは手を止めずにこっちを見て言った。


「あ、パパ。見てみて、こんなに火力出せるのよこの子! すごおく賢いし、お掃除好きだしありがたいわあ♪」


 作ってるものの説明じゃなく、火の話か。サクヤらしいなあと思いながら、竃の中を覗くとそこにはボフゥーッ! と勢いよく火を吐く亀がいた。


「お? これって火亀だっけか、買ってきたのか?」


 ぶんぶん首を振り、サクヤが別の場所を指差す。


「違うの、この宿屋さんの火亀さんたちなのよお! あっちの子が女の子で、こっちが男の子ね」


 指差す方向を見ると、浅めのたらいに水が張られていて、手頃な大きさの平らな石が顔を出している。その石の上には、竃で火を吐く亀よりもひとまわり小さな亀が、気持ち良さそうに寝そべっていた。


「キュイにキュオ! 元気になったんだね! ごめんね、ほんとにごめんね、急に私たちがいなくなっちゃってどんなに大変だったか、見れててもなにもしてあげられなくて、辛くって……」


 セントアが厨房の中に入ってくるやいなや、二匹の亀に向かって声をかける。亀の名前がなぜキュイにキュオなのかはすぐに判った。小さい方の亀がセントアに向かって、キュイッ♡ っと可愛らしく鳴いたからだ。


「この火亀は、ずっとこの宿屋にたった二匹だけで住んでたのか?」


 食べ物なんかはどうしてたんだろうか。まさか幽世からセントアがやって来ては、世話をしていた訳じゃないだろう。


「私がここに来た時には、なんにも食べてなかったみたいよ? 痩せた身体で一生懸命、厨房のお掃除をしていたの」


 サクヤがお水と、アメフラシさんが降らせたアメフラシを食べさせたら、ここまで元気になったそうだ。そのお礼にと、大きい方のキュオが調理を手伝いたがったらしい。なんてけなげな亀なんだ。俺はも~っれつに! 感動した。


「それでね、せっかくだからアメフラシさんからもらったアメフラシを、美味しく食べられるようにしようと思ったのよ♪」


 寸胴に入れていた黒いのは、内臓を取り除いたアメフラシだった。



♪ アメフッラシ、アッメフラシ!


 黒くて見た目は良くないけれど、


 寸胴ズドーンと水張って、


 黒いのバシャバシャ火で茹でて。


 そのまま一晩おやすみなさい。


 明日はタワシできれいきれい。


 ブツブツ切って、酢味噌和え。


 胡麻酢に和えても美味しいよ?


 もひとつおまけに油で炒めて、


 みりんと醤油で味付ける。


 もきゅもきゅ弾力、乙な味~♪



 こ、これは珍味か? 珍味なんだな! 俺は酒が好きだから、珍味には目がない。明日が楽しみでしょうがない。


 軽くウホッホ踊りをしていたら、なぜかアメフラシさんも踊りに加わってきた。もしや……。


「アメフラシさん、もしかしていける口?」


 俺がくいっくい! って酒をお猪口ちょこで呑む真似をすると、


「うほ~っ、わかるかい、フミアキさん! たまらんのう、わしが降らしたあれが食えるなどと思ってもいなかったほい♪」


 またまた酒飲み友だちができたぞ! 俺はアメフラシさんとウホッホして、セントアは火亀たちとキャッキャしている。なんだなんだとマイヤさんとコトハもやってきては、俺たちの浮かれように目を白黒させている。ファスタは……おや、いつもと違って大人しいな。一体どうしたんだ?



 火を落として食堂で、みんなでわいわい食事をする。ヤクンドさんのとこの串焼きに、今まで見たこともない色合いの魚の煮付けや、黒パンに豆料理かな? 良い匂いがするスープもあった。


「あ! 笑いリンゴだ、なんかにへら~ってしてる!」


 すっかりコトハのお気に入りになったリンゴもあって、食卓の上も賑やかだ。セントアと火亀のキュオとキュイも食卓に揃っている。食べられなくても一緒にいることでセントアも嬉しそうだし、まずは腹ごなし。しかしこの場に至っても、ファスタの顔色は優れない。


「どうしたファスタ? 食わないと大きくなれないぞ」


 俺が髪をわしゃわしゃしながら言っても、反応がイマイチで面白くない。


「おとう……フミアキさん、先ほどのセントアさんの話にあった偉い人ってやっぱり」


「ああ、それでか。そうだな、ほぼ間違いないと思う。ただ、今はまだ動かない方がいい。もう少し策を練ってからにしないと、針がバレるからな」


 おれが小声でそう言うとファスタも解かったのか、はい、そうですねと答えた。さて、どうするかね。後顧の憂いをなくすには、根っこからほじくり出さないとまた生えてきちゃうからな。

 はい、フミアキさんなんか考えてますね。さてどうするんでしょうかね?


 どうぞよろしく応援お願いします♪

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