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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第一章 町の実状。
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宿屋の中にいるのは誰?

 お待たせいたしました。


 コトちゃんがこの宿屋さんと繋がります。

♪♪♪


 2階には、私とファスタくんとアメフラシさんとで上がっていった。


 食堂手前の階段を上がる壁には、油絵とかフラスコ画みたいな風景画が飾られていたりして、思わず三人でほお~っとか、へえ~っとか言って楽しみながら上がっていく。


 風景はどれも、ウラヌールの自然の豊かさや厳しさを表現しているもので、きっと泊まった人たちの心に残るんじゃないかなあって思える、そんな作品ばかりだったの。

 そんな絵の中に一つだけ少し、ほんとにすこおしだけあれ? と思ったのがあった。なんとなあく懐かしいっていうか、知っているっていうか。不思議な感じ。


 わたしがうんうんしている間に階段が終わり、上がりきったところにはちいさな談話? スペースがあって、一人がけのソファーが丸いテーブルを挟むように置かれていた。その談話スペースから、吹き抜けになっているラウンジが見えた。目の前には、シャラシャラとなんかの宝石と金属の擦れ合う音がする。

 やわらかい光を放つシャンデリア。けばけばしくなくて、落ち着きがあってほっこりする。


 一階とおんなじで真ん中から両側に羽根を伸ばすように、廊下が左右に続いていて、客室の扉が並んでいた。おトイレは下にしかないみたい。一番手前のお部屋を開けてみると……。


 うん、やっぱりペンションだ。この宿屋さんは。


 行ったことはないけど、パパが好きで集めてた、キャンピングカーの雑誌に載ってた宿泊施設とよく似てる。まんまペンションじゃないけど、ところどころにそんな雰囲気が散りばめられてて。


 床は木の板張りで、壁はところどころ漆喰かな? が剥がれていた。ベッドやテーブルなんかは木製で、照明はロウソク置き場があったりランタンが使われたり。

 確かに昔風の宿屋の趣があるけど、間取りとか内装とかはやっぱりペンションっぽい。


 これはあれかな、前に経営してた亡くなったっていう家族さんが、ひょっとしたら私たちとおんなじ異世界からの移住者だったりとか。私はファスタくんに確認してみた。


「ねえファスタくん。亡くなられた前の持ち主のご家族って、ひょっとしたら私たちとおんなじ移住者だったりとか?」


 ファスタくんは少し考え込んでから、こう答えた。


「ごめんねコトちゃん。前の家族に不幸があって、北大路の宿屋の一つが閉鎖されたことは聞いてたんだけど、出身がどこかまでは……」


 そうかあ~、けっこう大事なことなんだけど、わかんないんじゃ仕方ないね。


「アメフラシさんは、なにかご存じないですか?」


「うほっ? わしか、そうじゃなあ……」


 あちこちで雨を降らしに旅してるアメフラシさんなら、なにか知ってそうかな?


「よくは知らなんだのう」


 ずこっ。


「ただの、この宿屋を含む一帯が、なにやら様子が変だと鼻が知らしてくれているほい」


 鼻をひくつかせながら言うアメフラシさんの言葉に、ファスタくんが思いついた! とばかりに手を打った。


「それなら、コトちゃんの『力』でなにか判るんじゃないかな?」


 え、私に振る? なんだかなあ、そりゃあ他に方法なさげだから、なにかしないととは思うけどね? ちょっとイラッとくる。


「まあ、私たち家族の住む場所の事だから、人任せには出来ないね」


 そう言って私は、少し二人から距離をとった。アメフラシさんは、私が何をし出すのか興味津々のようだ。


 どうしようかって考えるよりも、身体が自然と動いた。


 二階の今いる談話スペースで、私は胸元から♪ の音石ほうせきを取り出してギュッと握りしめる。


 握りしめた手の中から、柔らかいあったかあ~い黄色の光が溢れ出してくる。その光に反応するかのように、目の前に吊るされているシャンデリアの宝石が光はじめ、金属の飾りにぶつかる音が次第に大きくなっていく。その音が最高潮に達した瞬間、私は声に色音を載せて歌いだした。



♪ おんなじそらを


とおいとおいはてのさきに


おんなじそらをみあげては


あいたいなっておもってる


いつかかならずとびだして


あえることだけしんじてる



とおくとおくはなれたほし


おおきいぼうえんきょうで


あえるかなってめをこらす


ここだよっててをふったら


きみとなかよくなれるかな



 自分で作った詩の一つで、見えないくらい遠い世界を繋ぐのは、逢いたいなって気持ちだと思って書いたものだった。思わず口をついて出てきた詩に音が乗ってシャンデリアに反響する。


 もっといい歌、もっとこの場に合った歌、歌いたかったなあなんて心のすみっこで思うけど、いまさらだよね。この問いかけでなにか起きるかなあ。


 そう思っていると、シャンデリアの下からパパとゼファーおじいさん? の驚いた声が聞こえてきた。どうやらびっくりさせちゃったようだ。ごめんなさい。


 反響を静かに続けていたシャンデリアから、ゆっくり淡い黄色い光が答えるようにあふれてくる。この光は、私の♪ とおんなじ光みたい。ということは、繋がりや絆が出来たってこと?


 あふれ出した黄色の光が建物全体に広がっていくのがわかる。あったかあ~い光で、なんだか懐かしい感じもする。さっきの壁にかかっていた絵に感じたのとおんなじみたいだった。



 すう~っと吹き抜けと反対側、階段の手前に人の形をした影? ううん、実体はないけど存在感はあるから、たぶんそういうことだと思う。


「あの、もしかしてこの宿屋さんの人ですか?」


 私が問いかけると、そのゆらゆらあ~っとした人影は、こっくりと頷いた。良かった、言葉が伝わってる。


「初めまして、私はコトハ。アマクニ コトハって言います。今度こちらの宿屋さんを、家族で営んでいくことになりました。どうぞよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げてきちんと挨拶する私を、なぜだかとお~っても驚いた顔をして見つめるファスタくんと、アメフラシさん。どうしたんだろ? 初めて会った人と挨拶するのは当たり前だよねえ。私間違ってる?


 私が挨拶した人影さんはしばらくふるふるしていたけど、すこおし形がしっかりしたものになり、私の方に視線? を向けたのがわかった。


『……、……える、……しのこ……、き、える? わたしのこ、え』


 その人影さんはなんとか私とお話しようとしてくれている。とっても大変な『力』を使っているみたいで、その一生懸命さが伝わってくる。どうしたら良い? 私に何か手伝えることない?


 そう心で思っていたら、アメフラシさんのおっきな手が私の肩の上に乗っけられた。アメフラシさんの顔を見上げると、白っぽい毛むくじゃらのお顔をくしゃってして安心させるように私に言う。


「嬢ちゃん、わしが『力』も少しは助けになるかも知れんぞ? どうしたらよいか教えてくれるかい?」


 とっても優しい笑顔で私にそう言ってくれた。あれ、ほいってつかなかったね。不思議。


「そうだね、ありがと。ん~っと、もっと言葉で繋がり合いたいから、私の後に続いて言葉に出して言ってもらえる?」


 ほんとは今の私はドッキドキで不安だらけだ。間違ってたらどうしよう、変なことしちゃったらどうしよう。ただの普通の女の子が、こんな不思議な異世界で不思議な『力』を使ってるんだもん、当然だよね。でもやらなきゃいけない。その気持だけで前を向くしかないんだ。


 アメフラシさんが頷くのを見て私は、ふう~って息を吐いた。



ことばにおとを


ことばにいろを


なみになり


かたちになる



 私の後にアメフラシさんがそう言葉に力を込めて声に出してくれた。私の手の中にある♪ が、一層その光、熱を強くした。


 目の前の人影さんが、さっきよりももっとしっかりと見えるようになっていく。


 人影さんの姿は、どうやら私とおんなじくらいの少女のように見えた。

 いつもお読みいただき、気にかけてくださりありがとうございます!


 コトちゃんけっこうああ見えて、不安や戸惑い感じながら『力』の行使をしています。伝わりますでしょうか。


 次回は登場した人物とのお話になります。



 んん? 確か第一部の主要メンバーは出揃ったって前々回? くらいに言ってなかったかって?


 ジャンピング土下座っ!


 どうやらまだいたみたいです。もしかしたらもちょっと増えたりして。。たはは。

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