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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第一章 町の実状。
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現世と幽世。

 今回は、ラウンジに残ったフミアキの回になります。

◇◇◇


 サクヤとコトハを送り出して、俺は一人ラウンジに残った。


 一人で残ったのは今までのことを、少し整理して考えたかったからっていうのもある。なんせこの二カ月弱、いろいろありすぎだ。やっと生活の拠点に辿り着いたところだし、ちょうどいいっちゃあいい。


 腰に吊してある濡羽色のポーチを、テーブルの上に置く。少し赤らんでる気がする。

 さすがに今は、このポーチに人格が備わっているってことを疑ってはいない。相変わらずコトハのように会話は出来ないが、色合いや雰囲気でなんとなく、なにを言いたいのか察することは可能だ。


 今何を考えているか? う~ん、二人きりになったからもっと触っていいのよ? とか。ポーチだけど。


 少し長めになてなでしてから、口を開けてカードを取り出す。ポーチはさっきよりも深く色めいて見える。良かったな♪


 カードの中から、すぱあ~んっ! とゼファーじいさんが飛び出して、目の前にくる。描かれているじいさんは、隠者らしいローブ姿で、手にはいつものランタンをささげていた。


「フミアキ! なぜにわしをすぐ出さなんだ? なんぞ危険なことはなかったかの」


 カードごと、辺りを見渡している。


「ここは……色が薄いのう。もしや、ゾーンの奴めがおるのか!」


「いやいや、落ち着けじいさん。ここは俺たちの家、宿屋のラウンジだよ。ゾーンはいない」


 辺りを見回しながら一応納得したようだが、どうにもこの建物の様子が気になるみたいだ。


「じいさんにいろいろ確認したいこともあってな、二人きりになったんだけどその、この建物のなにが気になってるんだ?」


 ゼファーじいさんは、すんすんと匂いを嗅ぐような仕草をしながら――嗅げるのか? 匂い――、俺に語った。


「そうじゃな、コトハにはまだ詳しくは語れぬが、フミアキ……マスターにならば良いだろう。心して聞いてほしい」


 お、おう。


「まずこのロストール王国はの、他の国々よりも『繋がる力』の影響が強いということじゃ。南の外れ、メリス王国では力持ちがほとんどおらず、おっても『力』の行使には相当強い意思で望まねばならぬ。西の海を渡り別の島々に行くと、『繋がる力』そのものが無うなっている場所もあるくらいでの。故にロストール王国は別名、『繋がりの王国』や『始まりの国』とも呼ばれておる」


 ほう。地域によって『力』の影響力にばらつきが出るのか。それにこの国のある大地は、どうやら島になってるみたいだな。他の国があるってことは、けっこう大きな島なんだろうか。それとも大陸なのか。


「昔からロストールでは、この『繋がる力』を用いて様々な試みが研究されておっての。日々に役立つ『力』や、『船運び』のような大掛かりなものまで、実用できるようになったのが現国王、ファルラーエン・ダラ・ロストール陛下の先々代の御代からじゃから、ここ百年ほどのことなのじゃ」


 『繋がる力』。日本的に言うところの魔法、魔力のことだがそんなに古いもんじゃなかったんだな。まだまだ研究の余地がある。だからコトハの『力』についても驚かれてたんだな。しかし、この宿屋について訊いてたはずなんだがなあ。まだかなあ。


「む。焦れてきておるの? これだから若いもんは……まあ良い。この『力』の研究の中で、この現世うつしよ幽世かくりょが繋がっておることが判っての。『力』による影響力の強い幽世では、こちらの世では想像だに出来ぬ事象を起こすことも可能なのじゃ」


 やべ、バレてら。よく聞こう。でなになに幽世? コトハに言ってたことだな。つまり別次元、パラレル? みたいなやつだろうか。いやもっと身近っぽい言い方だった。なにか引っかかる。俺の知ってることに関係してるような……。


「その幽世での『力』の有用性、危険性に気づいた現国王陛下が、みだりに幽世と繋がることを禁じられての」


「その規格外の『力』を、悪い企みに使おうって輩が現れた?」


 出鼻をくじいた格好になったのか、じいさんが少しむっとなる。


「そ、そうじゃ、ふん。マスターの言葉を借りるならばその規格外の『力』、始原の存在の一つである『無』に魅入られた者共が、見えぬ根を深く伸ばしていたようでの。幽世を通じて現世に混乱をもたらし始めたのがここ十数年ほど前からでの。無視出来ぬようになった王府から、被害の大きかったこのウラヌール地方に特別調査のお達しが発布されたのを受けて、わしも調査探索の任に就くよう謂われての。しかしわしの配下に裏切り者が出ての」


 絵の中のじいさんが、歯をぎりっと食いしばるのが見てとれた。


「その裏切り者が、例のゾーンなんだな?」


「その通り。わしらはゾーンの企みに気づいて急ぎ対応したんじゃが、彼奴めは既に幽世に逃げおおせて禍々しい『力』に触れて、『色なしの悪魔』となってしまっていたのじゃ」


 ちょ、ちょっと待った! そんなことは聞いてなかったぞ、そんな危ない世界に俺たちは来ちまったってことか? 相当やばいぞ、これは。


「ああ、そう心配するでないぞ。逃げおおせたとは言え、その『力』の多くは奪い取ったのでな、今ではあのような影としてしか、現世に係ることが出来ぬようになっておる。今すぐこちら側をすべて平らげるような真似は出来ぬはず」


 まあ、領主様のところでも撃退出来たんだから、なんとかはなるんだろうが……。


「それにわしらには、これまでにない切り札がもたらされておる」


「っ! それは、コトハのことか?」


 俺はカードを睨み返した。


「コトハはこれまでも、かなり無理をしてる。これ以上危険なことには近づくさせたくないんだ」


「わかっておるよ、けしてコトハだけに背負わせはせぬよ。なにせコトハは、わしらのアヤドルじゃからの」


 なんだかいいように誤魔化された気がする。


「そういえばさっき、色が薄いとかなんとか言ってたけどあれはどういうことだ?」


「おおあれはじゃな、てっきりゾーンの仕業かと思ったんじゃが違うたようじゃの」


 はあ~、とりあえずは良かった。


「代わりにの、この敷地全体が幽世と繋がってしまっておるようじゃ」


「それはそれでまずいんじゃないのか?」


 訳の分からない世界と繋がってるって、どうすりゃいいんだ?


「この先は、皆が集まった時に話す方が良さそうじゃから、後での。」


 まあ仕方ないか、ついこないだまでカードの中で固まってたんだからな。


 さっきパタパタとマイヤさんが、玄関から外に行くのが見えた。なにか買い出しに行くんだろうか、サクヤはどうしたのかなあ。


 コトハたちも今何をしているのか、二階に上がったきりなので皆目見当がつかない。


 集まるには、まだ時間がかかりそうだ。 

 いつもお読みいただき感謝しております。


 次回は、おそらくコトちゃんたちのいる二階のお話になるはずです。



 どうぞ引き続き、この作品の応援、評価などもいただけましたら幸いです。

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