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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第一章 町の実状。
62/104

アメフラシ。

 お待たせ致しました。


 フミアキさんの番だそうです。

◇◇◇


 なんなんだ? なんなんだ?


 さっきの凄まじい超局所豪雨。


 逃げてった連中を追いかけるようにして、雨雲がくっついていったのには、驚きよりもまるでアニメのワンシーンを観てるようで、ぶひゃひゃと思いっきり笑えたよ。ふうう~。


 コトハが、ざまあみろっ! って言ってから、ばつ悪そうにしてるのがなおのことおかしくて、頭をぽんぽんしてやる。



 一緒に降ってきた黒いぐにゃっとしたものは……アメフラシだ。


 雨を降らし、アメフラシを降らし。


 ベタやないか~い! 思わずツッコミを入れそうになるが、せっせとその降ってきたアメフラシを、一心不乱に拾い集めるサクヤの姿が目に入ったのでタイミングを逃してしまった。



 それにしても、なぜに嬉々として拾ってるんだ?



「サクヤやサクヤ、きみはなにをしてるん……」


「パパあ! 拾って、早く! みなさんもよ! ああもったいないわあ、こんなにいっぱいただで手に入るなんて。珍味、珍味、あら珍味、アホイッ♪」


 サクヤがウホッホ踊りをしながら器用に摘まんでは、荷車の空になってる壺にぽぽいっと放り込む。とりあえず俺たちは、サクヤの命じるままにアメフラシを集めた。


 なんに使うのかはサクヤのことだ、料理に決まってるがアメフラシだぞ? このぐにゃっとしたものが食えるのか?



 大変満足げな様子で、荷車の上の壺をのぞき込んでるサクヤはおいといて、あの『力』を使った張本人に話を訊くことにする。


「先ほどは連れを助けていただき、本当にありがとうございました。それにしても、素晴らしいお手並みでしたね」


「うほ~! 嬉しいことを言ってくださるなあ。なんのこれしき、女子おなごを助けるはウホッホの誉れなればな♪」


 か、格好良すぎるぞ、ウホッホ族。マイヤさんがそのじいさんに助け起こされ、頬を紅潮させてる。コトハも、はわあ~♡ ってなってる。


 マイヤさんが立ち直り、ウホッホ族の力持ちに向かってお辞儀した。


「本当にこのたびは危ないところを……。一人二人ならば何とかなりましたが、さすがに囲まれて身動きも出来ず。恥ずかしい限りです」


「なんもなんもだ、気にするんでないよ。わしも良い腕ならしになったので、一石二鳥というもんだほい」


 なんでもこの老人は、日照が続いていたウラヌールの農家からの要請で、雨を降らしにやってきたんだそうだ。


「恥ずかしながら、私はウラヌール地方領巡察使のマイヤ・ミレンと申します。あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「うほ? わしか、わしの名は……忘れてしもたわ。まあ、アメフラシとまま呼んでくれて構わんよ」


 にかっと笑った顔は、さっきの下卑たやつらよりももっと人間ぽい、いやもっと人情味深いものだった。


「そうですか。ではアメフラシ殿、これからどちらに行かれるのか?」


 マイヤさんは、このウホッホ族の老人にぜひともお礼がしたいようで、俺にも口添えしてくれるよう目で懇願してくる。


 当然俺は助太刀をする。


「あ~もし用事がお急ぎでなければ、ご一緒願えませんか? 少し気になることがあるものですから」


 さっきの連中、おそらく商工ギルドで俺たちをにらみ付けてたやつの仲間かなんかだろう。上に羽織っていた外套に、同じような紋章が見てとれたし。

 それと、商工ギルドのあの上役も今になってみると行動が怪しかった。まさかとは思うが、出来れば人数は多い方がいいし。


「うほ~、そうか、そうだのう。いずれにせよ農家の雨降らしは明日に行こうと思ってたもんで、宿屋を探すついでにお供させてもらいましょうかの」


 よし、お客さん第一号! などと勝手に決めてガッツポーズしているうちに、一行が進み出した。ふとファスタを見ると、なにやら思い詰めてるような。


「おい、どした? なにをしょぼ~んってしてるんだ」


 肩をぽんとしながら訊くと、


「すみません、お父さん。ぼくがついていながら、こんなことに……。以前はもっと徴税官の人たちも、いい人ばかりだったんですが、父が寝込むようになり土地が痩せていくと、連中も態度が悪くなっていったのです」


 やっぱり土地と領主の状態には、密接な関係性があったんだな。これも『繋がる力』ってやつか?



 サミュートさんが俺たちを案内したのは、最初にこの町に入ってきた側、つまり北側だった。なにも人気のないとこの宿屋じゃなくてもいいんじゃないかなあ、よりによって。


 はあ~とため息をついてると、コトハが小さくウホッホ踊りをしている。なにやってんだ、こんな状況なのに。俺は少しイラってしたから、近くにいたファスタの頭をわしゃわしゃした。


「な、なにをするんですか、お父さんっ!」


 イライラっ。


「ちょ、ちょっとやめ、やめてくださいよお」


 ふう、すっきりした。わるいな、ファスタ。


 ぷんすかしているファスタが、コトハのそばに寄っていってウホッホ踊りに巻き込まれている。


「ご主人。つかぬことを尋ねるがの、あの踊りはどこで」


 懐かしいものでも見る目で、コトハたちの踊りを見ながら小さくステップを踏んでいる。


「あれは北の山脈の向こう側で知り合った、ウホッホ族のみんなと踊ったんですよ。うちのコトハが即興で歌って……」


「うほっ! 今は山脈向こうは閉ざされてしまっているはず、なぜにそれが?」


 アメフラシのじいさんは驚愕のあまり、俺を両手で掴みあげた。いやいやいくらじいさんだからって、二メートル近い、腕も丸太ん棒みたいなのに掴まれたら痛いってば!


 誰か助けてくれえ。



 落ち着いてきたアメフラシのじいさん――なんか最近じいさん多くないか? ――は、こちらの話を聞くと泣いて喜んでいた。


「なんとなんと、あの『色なし』と二度も対峙し追い返した上、山裾に穴を穿ち道を通したとは!」


 なぜか踊っていたコトハと巻き込まれたファスタに混ざり、一緒にウホウホやりだすアメフラシのじいさん。


 なんだかなあ、幸せそうだからいいか。



 北大路を領府側から歩いて十数分。町の外壁と中心部のちょうど真ん中辺り。北五条通西一丁目、通りを挟んで正面には小さな武具店と、雑貨屋が。もう少し行くと民家が軒を連ねているようだ。


 そして両側を小さな林に囲まれて、俺たち家族が住み、ずっと仕事を営んでいくことになるだろう、宿屋が静かに建っていた。

 いつもお読みいただき感謝ですう(´▽`)ノ



 やっとやっと、出て参りました!!


 宿屋が。



 え、どこにって? やだなあ、もう。


 最後の行に書いてあるでしょ? ちょろっと。



 わあ~~すみませんすみません、そんなに怒んないでくださいよお。ぐすん。


 次回こそは、ちゃんと建物の紹介しますから!


 ほんとほんと。ウホッホ族、嘘つかな~い。

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