優しいのは誰?
おはよございます。
コトハが感じたことは?
♪♪♪
別の部屋にいたのは、ごく普通の人間さんだった。
でもなんだか偉そうな人だなあ。執務机の後ろでふんぞり返ってる。たぶん会長かなんかだよ。
その偉そうな人は、サミュートさんに羊皮紙? みたいな紙を投げつけるようにして渡す。顔に嫌悪感がありありと見てとれる。いやあな感じ。
「おい、お前。そいつらを早く宿屋に連れていけ。今すぐにだ!」
私たちは、入ってすぐに追い出されるように部屋を出た。私たちの方こそ願い下げだ。
「ごめんゲギョ、あんなんでもここのボスなんだギャ。」
サミュートさんが申し訳なさそうに謝る。
「いや、謝らなくていいさ。それより、早く宿屋に行こう。今日中に下見を済ましときたいからな」
パパがサミュートさんに優しく言う。サミュートさんがにかっ! とキバを光らせる。でもちっとも恐くない。
はあ~、しかし小鬼さんに岩穴人さんかあ。
なんだか、ファンタジー小説の中に入り込んじゃったみたいで、不思議な気分。
元々こっちに着いてから出会って仲良くなったのが、大きなお猿さんのウホッホ族のみんなや、ふわふわの淡い薄緑色の毛の穴掘りグマさんたちだから、じゅうぶんファンタジーしてる。
でも、やっぱり物語でよく知ってる、登場キャラクター(あれ、モンスター?)がいるのといないのとでは大違いだよね。
しかもどうやらここウラヌールでは、小鬼さんも岩穴人さんも普通に町中で生活してるみたいだから、よけいに興味を引くよね。
他にどんな人たちがいるんだろう?
いっぱいいろんな人たちに会いたいし、仲良くなりたい。どうすればいいかなあ。ん? なんか忘れてない?
あ、私たちはこれから宿屋さんをするんだったよ!
お客さんの中には、当然いろんな人たちがいるだろうし、直接お話も出来る。最高に楽しいことじゃない?
改めて私たちの選択は素晴らしかったんだと実感したら、なんだかすごおく嬉しくなって、ふんふん♪ ってハミングしたら♪ が色づいて辺りに飛び出しちゃった。またやっちゃったよ、反省。
私は、自分が作った♪ をそのまま気にしないで放っておいた。
そのまま前を行く小鬼のサミュートさんに付いて歩いていたら、後ろの方で言い争う声が聞こえてきた。なんだろう? 振り返ってみると、マイヤさんが数人の男の人に囲まれているところだった。
「おい、誰に口を利いているのか判ってるのか? 我らは宮廷仕えの身、無礼を働くのなら許さぬぞ」
マイヤさんに凄む男の人たちが、腰に差している剣を鞘から抜いて構える。マイヤさんも負けじと腰の短剣を抜く。
「私は、その拾ったものをお返しいただきたいと申し上げたまで。なにも無礼など働いてはおらぬ。そなたらが宮廷付きの者だということなど百も承知、それだけこれ見よがしに役章を付けていれば、誰でも判るというものだ」
マイヤさんがかなり怒った様子で答えた。男の人たちに囲まれながらも、毅然とした態度の彼女に比べて相手は、にやにやといやらしい笑みを浮かべている。気持ち悪い。
ママがパパにしがみつくのが見えた。私が飛び出そうとするより早く、ファスタくんが前に出る。
「そちらにおられるのは、地方領徴税官の皆様方ですね。私の連れがどうかしましたか?」
ファスタくんを見て、さっき声を上げていた男の人が舌打ちをしながらこう曰った。
「これはこれは、ウラヌール田舎伯のご子息様のお連れだったとは。汗顔の至りですな」
いやらしい笑いを顔に貼り付かせながら、ファスタくんを侮辱する。なんて人だろう、私は自分の頭に血が上ってくのがわかる。
「マイヤさん、どうしたんですか?」
「ええ、私はコトハが落とした音石を、我が物顔で拾う彼らを窘めただけなのです」
ほうせき? 私が落としたってそれは単なる♪ だよ? まあちょっと普通じゃないかもしれないけど、ただの石だと思うんだけどなあ。
「そうだ、我らは道端に落ちていた音石を拾ったまで。落ちていたものなのだから、徴税官たる身が拾い上げ国庫に納めるのに、なにか問題でも?」
ますますにやにやとしながら、手にした剣をひらひらさせる。
「だから、その音石はこちらのコトハが作り出した『力』の満ちた貴重なものなのだ! 作った本人に渡すならいざ知らず、どうせ懐に入れた途端、我が物顔をするつもりだろう?」
今の言葉で、完全に切れた徴税官の男。目配せをして、マイヤさんを切り伏せようと男たちが剣を振り上げた。
マイヤさんが切られちゃう! いやだよお! お願い、誰か助けて!
マイヤさんが今まさに切り伏せられそうになるその刹那、凄まじい勢いで土砂降りの雨が、滝のように落ちてきた!
しかも降っているのは取り囲む男たちの真上だけで、マイヤさんは直接の被害を受けていなかった。
すんごお~い量の雨の中に、時折なんかの塊? ぐにゃっとした黒っぽいものが混じって降っている。そのぐにゃっとしたものが男たちにぺたぺたって貼り付く。
「な、なんだこれは? 気色悪い! だ、誰か今すぐ剥がしてくれ!」
男たちがうきゃうきゃ言いながら気持ち悪がってる。その隙に、マイヤさんが包囲網から逃れて私たちの方に駆け寄ってくる。
「これはなんとも不思議な『力』だ、まさかコトハが?」
私は頭を横にぶんぶん降る。あ、違った振る。
「わ、私じゃないよ! あんなに凄くて気持ち悪いの降らすなんて、むりむりだよお!」
ではいったい誰が? マイヤさんが辺りを警戒する。
男たちは、なにかわめき散らしながらその場を走り去ったけど、しつこく土砂降りとぐにゃっとしたものは、追いかけるように連中の上に降り続けているようだね。
連中の頭の上の方で、雨雲? が一緒になって遠ざかっていくのが見えた。
ざまあみろっ! ……ごめんなさい、女の子にあるまじき言動しちゃった。てへぺろだ。
それにしても、助けてくれたんだよね、今の土砂降りを降らしてくれた人? どこの誰さんだろう。
「グギャハ! おもしろかたギャよ、あいつらたギャ、をずぶずぶギャし、べったべたギョほ~い!」
どこかに逃げてたのか、サミュートさんが帰ってきた。なんか言葉の最後が聞き慣れてる言い方だったような……。
サミュートさんがおいでおいでをしてる。それを合図に、のそ~んと大きな人が現れた。
その大きな人は、頭のフードから足先まで全身を、色のはげた黒いレインコートで覆っていたんだけど、なんだかその、雰囲気がね? さっきのサミュートさんのしゃべり方の、最後のが頭の中で一つの結果を導き出す。
「もしかしてそちらの人、助けてくれたんだよね、ありがとうございます! それと、違ったらごめんなさい、もしかしてウホッホ族の方ですか?」
そう尋ねる私の方を向きながら、フードを頭から外す。
そのお顔は、だいぶお年寄りみたいだけど見慣れた顔つきだった。
「うほ? わしがウホッホ族だとよくわかったね、嬢ちゃん。そう、わしはウホッホ族の力持ち、アメフラシだほ~い」
なんかすらすらしゃべってるよお♪ でもやっぱり、うほって入るんだね。
そう、このアメフラシさんとの出会いが、私たちにとってものすごお~く意味のあるものになるなんて、今はまだ知らなかったんだ。
宿屋はもうすぐそこみたい。サミュートさんが指さす先には。
いつもお読みいただきありがとうございます。
またまた宿屋にはたどり着きませんでしたが、今回の登場人物までで、第一部(え、今までが!?)のメンバーが揃ったかなと。
まあ、作者の思惑通りにはいかないこの物語。
あまりフラグ立てないでおきましょう。
ではでは次回をお楽しみに♬




