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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第一章 町の実状。
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商工会ギルド。

 今回は商工ギルドでのお話です。


 真面目なお話はフミアキさんで……良かったのかなあ。

◇◇◇


 『船運び』屋から五分ほど。南大路を進み、通り沿いが小商いの店並みに変わる手前に、商工ギルドが建っていた。


 三階建ての商館は頑丈そうなレンガ造りで、元は赤褐色だったものを一階部分は漆喰かなにかを塗ったのか、真っ白な外観が美しい。二階より上は素のレンガがむき出しで、逆に引き立って見える。


 さっきの『船運び』屋もかなり大きめの建物だったが、この商工ギルドもかなりのものだ。

 建っている場所も、大店の集まる大路の中央寄りと小商いの小店とのちょうど真ん中に位置しているところが良く考えられている。

 しかしこの考えつくされ整理された町造りは、地方領という田舎町にしては出来すぎじゃないか? 誰が設計したんだろう。この考え方が王国中に広まってるのなら、おそろしく良く出来た国だ。


 感心しきりの俺を尻目に、一行は商工ギルドの中に入っていく。慌てて追いかけようとした俺は、先を行く一行に鋭い視線が注がれているのに気がついた。


 なんだ、ありゃあ? お貴族様を絵に描いたような、きらびやかな装束。だいぶ前に読んだ本にあった、宮廷仕えの人間がこれ見よがしに自己主張してるかのような着こなしだ。上衣に金糸銀糸の刺繍を施し、おそらく己が領地の紋章だろう、目立つように浮きだたせている。

 顔付きは……よろしくないな、当人には申し訳ないけど。いかにも悪者でございって感じの、顔の表面に斜が入ってるよ。


 そんなやつがなんの用でうちの連中をにらみつけてるんだ?


 貴族はしばらくしてその場を離れたので、俺は頭を振って意識を切り替える。

 中に入って一行の後を追う。



 商工ギルドの一階部分には、広いロビーに待合所があってソファーや木製の長椅子、カーペットやゴザなんかが敷いてあった。順番待ちなのか、めいめいが好きな場所に座っている。


 ファスタはさすがに顔を知られているのか、挨拶をしにくる貴族や富豪だろう商人らに応対しながら、ロビーを抜けて受付に向かう。


 受付に座るやや小太りの、七三分けがよく似合う……緑色の肌、小さな角、上向きの鼻に大きな口からはみ出すキバ。


 おおうっ、ここに来てファンタジー小説のテンプレキャラ、ゴブリンの登場か? そうなのか?


 そのゴブリン? に近づき、ファスタが口を開く。


「あれ、今日は岩トカゲの日じゃないよね? カイラさんは?」


「ゲギャ、ずるやすみギャ。ほんとこまったやつだギャ、おれっちはきょう、デートだったのにギャよ?」


 キバをくわっとむきだして、憤懣ふんまんやるかたない様子でファスタに話しかけている。


 うん、どう見てもゴブリンだ。なにげにコトハの方を見ると、ふるふるしてるぞ。どうしたんだろう。


 おふっ! 感動だな、ここにきてのテンプレ出会いに感動しているな? そう言えばコトハが言っていたっけ。


『ゴブリンってね、問答無用にやられキャラなの。雑魚キャラなんて言われたりもしててね、汚らしくて醜悪で残忍な役どころになってるんだけど、元々は家に住む妖精だったり、人間を助ける存在だったり。いたずら好きで羽目を外すところもあるけど、そんなに悪い書かれ方してなかったんだよ』


 そう思うと、目の前のゴブリン? もそんなに悪いやつじゃないように思える。だいたいがおっきな役所みたいなものの窓口が出来るんだから、信用おける存在なんだろう。


「それは、そのなんて言うか……サミュートさんも大変だね、いろいろと。サミュートさんの彼女さんって岩穴人ドワーフだったっけ?」


 コトハのふるふるが大きくなってきたぞ? 大丈夫か、コトハ。良かったな、お前の好きな種族がいっぱいいそうだぞ、ロストールには。ただ、言葉のニュアンスで微妙に俺たちが言っていたのとは違うようだ。人間と一緒に生活できて、しゃべったりやり取りできるのはみんな、なになに人みたいな表現になってるみたいだ。だとすると、目の前のゴブリンはなんて言うんだろう。


「あの、すみません。私はこちらのファスタくんの友達なんですけど、サミュートさん? ってなに人なんですか?」


 コトハが我慢しきれずに訊き出してたよ。俺も興味ある。


「グギョギョギョッ! な、なんだギョ、おっれちなんにもわるいことしてないんだギャ? てんしさま、どうしてこんなとこにいるんだギョ?」


「誰、天使って誰? わ、私は違うよ、普通の女の子でコトハだよ!」


「グ? ほんとにてんしさまじゃないんだギャね? よかったギャあ。しんぱんにかけられるって、おもったギェよ。ふう。あ、ごめんギャ、おれっちはこおにだけど、おにびとっていうんだギャ」


 小鬼、鬼人。もろゴブリンじゃん。


 つっこみどころ満載の会話だけど、コトハは納得したらしい。コトハのことだ、言葉の綾っていうことだろう。ん? アヤドルってコトハのこと? 訳が解らんね。ふう。


 で結局、そのサミュートさんでは俺たちの宿屋のことは判然としなかった。どうやらもう少し上役クラスでないと答えられないということで、俺たちは先ほどの待合所で待つことになった。


 待合所で俺たちが座ったのは、木製の長椅子。横に並んで座ったんだが、当たり前のようにファスタがコトハの横にぴったりとくっつこうとするので、俺は目配せをしてマイヤさんに間に入ってもらうことにした。

 ファスタは尻尾を丸めた犬みたいにうなだれていたけど気にしない。


 それから呼ばれるまでには、けっこうな時間が経っていた。塔の上の鐘の音が十二時を知らせた後になって、ようやく俺たちはさっきのサミュートさんに呼ばれて別の部屋に向かうことになった。


 先導するサミュートさんの後ろに付いていく俺たちを、待合所のソファーに座っていたさっきの貴族が、同じようににらみつけていたのが気にかかった。

 はい、予想通り真面目な様子になりませんでしたね。ちらっと変なのが出てきましたが。


 あ、いつもお読みいただきありがとうございます!


 やっぱり作者もファンタジー好きの血が騒いでしまいまして、お馴染みのキャラクターが出てまいりました。少しこの作品風にアレンジしておりますが、まあそういうことです。はい。


 ではでは次回も、『ウラヌールの宿屋さん ~異世界で転職を~』、うら宿をお楽しみに♪

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