果物の名前。
おはようございます!
コトちゃんからです。どぞ~が銅像~!
♪♪♪
今日は朝からウッキウキだよ!
もう浮かれすぎて、ウホッホの歌で踊りたくなるくらい♪
だってねだってね、ようやくよっちゃんに、お手紙が出せるから。
よっちゃんに伝えたいことがいっぱいありすぎて、手紙も大量になっちゃって。ごめんね、読むの大変だと思う。
ここまで、けして順調とは言えない旅だった。そもそも旅することすらなかったはずなのに、東京から着いた先が訳の分からないススキが原で。
住むことになっていた異世界の町にたどり着くまでに、一ヶ月以上かかって。
その間に旅の仲間が出来たり、色をなくした湖で変なのと対決したり。
みんなで山脈を貫くトンネル掘りもしたっけ。
ようやく着いたウラヌールの町は、なんだか活気がないし領主様はご病気で。しかもお会いしに行ったら、またあの変なやつ――そう、ゾーンだよ、ゾーン。思い出したくもないやつ――に襲われてて。もうびっくりして、あまりの理不尽さに頭かっかして。
なんとか退散させたけど、本気出してきてない感じだったのがよけいにやだ。
頭ふりふりして、いやなことを追い払う。
せっかくのウキウキ気分が、台無しになっちゃうとこだった。あぶないあぶない。
目が覚めたら、空は明るくなっていた。二つの太陽があるから余計にかもね。今何時だろう、時計は向こうから持ってこれなかったんだ。持ってきちゃダメなリストに入ってたから仕方ない。
町や市なんかでは、塔の鐘が定時に鳴るんだって。私たち、昨日は全然気付かなかった。それだけ疲れてたんだなあ。
鳴る時間は朝の三時、六時、九時、お昼の十二時と、午後のおんなじ三時、六時、九時。計七回で、大体日本と同じ時間の長さみたい。判りやすくて良いよね。
パパとママはまだ起きていなかった。テーブルの上には、ポーチさんの中に入れずにぽつんと一枚だけ、ゼファーおじいさんが取り残されていた。
「ゼおじいちゃん、起きてる?」
「……」
「起きてるんでしょ? ほんとは」
「……起きとるわい。ふんっ」
なんだかすねちゃってるよ。寂しかったのかな。カードを手で包み込むようにして、しゃべりかける。
「今日ね、『船運び』屋さんに行って手紙を出して、宿屋さんを見に行くの!」
「そうか、それは良いかもしれんの。」
「そう言えば、昨日の領主様への報告はどうだったの? なにか私たちが知っておかなきゃならないことってあった?」
カードの中のおじいさんが立ち上がり、私の方を向いた。
「うむ、コトハ。気が浮き立っておるところ、申し訳ないが、あやつの、ゾーンの言いし言葉を覚えておるか?」
じい~っと私の目を見ながら、その奥を見透かすみたいな眼差しのゼファーおじいさん。私は、ゾーンとのやり取りをいやいや振り返って考えてみる。
「確か、私があのゾーンとおんなじところにいるとかなんとか……」
「むう、まあ間違ってはおらぬが、正確ではないな。あやつはの、幽世にコトハも片足を突っ込んでおる、と言うたのじゃ」
そう、そんな感じのことを言ってた。なんだろ、かくりょって。あんまり聞く言葉じゃないよねえ。
どっかで聞いたか見たかしてる……あ、だいぶ前に読んだ小説に出てきてた! 幽世って死んだ人の住む世界で、そこに行くには確か、鈴の音と言葉が必要でって?
「その幽世って、もしかしたら幽霊のいる場所のこと? そうだとすると、私は半分幽霊だってことになっちゃうの?」
背中にぞぞぞ~って怖気が走った。うへえ、気持ち悪い。そんなのやだあ。
「それはない、安心せい。幽世とは、わしらのおるこの世、つまり現世に近しい別の世界のことじゃよ。現世とは密接に係わり合うておる。おそらくあやつは、コトハの持つ『言葉を綾取る力』が、その幽世で得た『力』に似通っておったが故に、あのような物言いをしたんじゃなかろうかの」
今言われた言葉を、なんとか理解しようとしたんだけど、ちょっとむずいよ、私の歳には。熱が出そうだよ。
「まあ幽世に関しては、今はまだ知らなくてもよいぞ。追々解ってくるはずじゃからな」
領主様には、もっぱら私たちの旅のことや、ウホッホ族さんたちとの交流、穴掘りグマさんたちの協力によるトンネル掘りの様子などと、ゾーンのことについて詳しくお話ししたんだって。
領主様はあんまりにもびっくりしすぎて、それまでの具合が悪かったのが嘘のように、聴き入っては興奮されたそうだ。
ゴーン、ゴーンと鐘が六つ鳴った。朝の六時、鐘の音でママが目を覚ました。パパを揺すって起こしている。
扉を軽くノックする音が聞こえた。サリィヤさんかな? は~い♪ と明るく声に出して、扉を少しだけ開く。
「おはようござります。お目覚めはいかがですか?」
サリィヤさん、優しくてあったかい笑顔の人だなあ。好き♡
「はい、ばっちりです!」
「それは良かったです♪ 朝食の準備も整っておりますので、お顔を洗われましたら食堂までおいでくださいませ」
そう言って、洗面用のたらいとお湯の入ったポットを渡してくれる。お礼を言って受け取り、三人かわりばんこに顔を洗う。
支度をして向かい、朝のご挨拶をして、席に着く。
朝ごはんは、シンプルにパンとお野菜のスープ、飲み物は冷たいお水にフレッシュハーブ? すっきりした味でほのかに香るのが心地良いね。後は果物だけど、なんだろうこれ? 見た目はリンゴなんだけど、色は真っ白なの。その真っ白な皮の表面に、ニコちゃんマークのような傷が付いている。どのリンゴ? にもおんなじような笑顔の傷。
「あの、この果物はなんて名前なんですか?」
配膳をしてくれてたメイドさんに尋ねると、そのメイドさんがおんなじような笑顔で、
「そりゃあお嬢様、これは笑いリンゴに決まってるですよお。可愛いべ?」
まんまだったよ、笑いリンゴ♪ ドヤ顔のメイドさん、少しなまりがあってほっこりする。
「楽しい名前のリンゴですね、しかもみんな少しずつ違う笑い顔だあ!」
「そうですよお、良い笑顔選ぶの大変なんだからあ。間違って泣きリンゴや怒リンゴ出したら、そりゃあえらいことになるからねえ」
そんなリンゴがあるんだ。ん? 泣きリンゴに怒リンゴ……。
ぷ~っぷぷ、お、おこりんごだって! 楽しい~~っ♪
もうね、笑って笑ったよお、おなかいたくなるくらい。
で、美味しく笑いリンゴいただきました。お味は蜜たっぷりのあま~いリンゴだった♡
朝ごはんをありがたく楽しくいただいて、私たちが出かける支度をしていると、ノックと同時にファスタくんの声がした。
「すみません! よろしいでしょうか?」
みんな支度が済んでたから、私が扉を開けに行ったらファスタくんが、
「あのですね! 良かったら『船運び』屋と、宿屋のご案内をさせてもらえないでしょうか?」
ち、近いよちょっと! 勢いよく入ってくるもんだから、あやうく……もうっ!
パパがファスタくんの首根っこを掴んで、ぶらぶらさせてる。
それでもファスタくんは、ブンブン尻尾を振っていた。尻尾ないけどね。ふう。
いつもお読みいただき、感謝です♬
すみません、また予告サギしちゃった。
まだお手紙出してないし、宿屋にも顔出ししてません!
ジャンピング土下座っm(_ _)m!
次回は必ず、必ず行きます! 約束しますです、はい。
てなところで、次回をよろしくどじょう~が泥鰌~!




