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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第二部 第一章 町の実状。
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蜂蜜水の香り。

 こんばんは。第二部、お届けします。


 フミアキ目線ですよ。

◇◇◇


 フォーヘンド様の屋敷で起こった出来事は、俺たちがこっちの世界の間違った場所に飛ばされてしまったこととも関係がありそうだ。なにせ山脈向こうで嫌な目に遭わされた、あのゾーンとかいうやつとタイミング良くというか悪いというか、鉢合わせするくらいだからな。



 あの騒動の後、話はゼじいさんとラダー隊長、マイヤさんとフォーヘンド様で行われることになった。


 ゼじいさんはこれまでの経緯とゾーンのやつのこと。ラダー隊長はこの町に起こっている事態の説明を。マイヤさんはフォーヘンド様の様子を伺いながら現在のウラヌール地方領の巡察内容と、俺たちの旅の内容を説明することになったようだ。


 俺たちはさっきの部屋に戻った。部屋の前には、対応してくれたメイドさんがいた。


「フミアキ様、サクヤ様、コトハ様、お帰りなさいませ。お部屋にはお休みになられますよう準備をしてございますが、もうお休みになられますか?」


 にこっと笑顔を向けてくれる。まだ二十歳前といったところかな、しっかりとした対応でメイドさん慣れしてない俺たちは少し面食らってしまう。


「あ、いやまだ寝るには少し早いかな……でも、サクヤは休んだほうがいいかな? 調子はどうだい?」


「ええ、少し疲れたわね。私は早めにお休みさせてもらおうかしら。よろしいかしら、ええと……」


 ハッと気づいたのか、メイドさんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「これは大変失礼いたしました。私はサリィヤと申します。はい、お休みの支度はお任せ下さい。その間、お二方はどうぞおくつろぎを。ただいまお飲み物をお持ちいたしますので」


 サリィヤさんか。そういえばこっちに着いてから会った女性は、ウーハさんとイルマリさん――は人間ではないけど――と、マイヤさんだけでサリィヤさんで四人しかいない。この屋敷には他にもメイドさんがいたけど、そんなに係わりあいになるってことはなさそうだ。少し話がしたい。


 飲み物は蜂蜜水。ほのかに甘くて、日本のものより香りが強い気がする。なんの花の蜜なんだろう?


「すみません、サリィヤさん。少しお話してもいいですか?」


「はい、なんでしょうかフミアキ様?」


 メイドさんにあんまり深く訊いても困るだろうから、差しさわりのないことから確認をすることにした。


「この蜂蜜水、香りが好いですね。なんの花から採れたんですか?」


 少し考えながらサリィヤさんが答える。


「東の町から仕入れたものですので、百花蜜ひゃっかみつですね。幾種類かの花の蜜をイクサオオバチが集めたのを、危険を顧みず盗ってきたものだと思いますが……」


 ん~、なんだか大変な蜜のようだなあ。とってくるのニュアンスが微妙に違う気がする。大体イクサオオバチってどんな蜂の名前なんだ? あんまり遭いたくないお名前だ。ふう。


「そう言えば、フォーヘンド様のお具合が悪くなってしまったのはいつごろなんですか?」


 サリィヤさんはゆっくりと口を開いた。


「三、四年になりますでしょうか、奥様がお亡くなりになってから気がお沈みがちになってしまわれて。ちょうどその頃に町で大きな事件が起こり、ご主人様は心労がたたられて伏せがちになられたのです」


 おおう、差しさわりがないどころか思いっきり深くなったな、こりゃあ。


「その大きな事件というのは、例のゾーンが係わってるんでしょうか?」


「詳しいことは私ども下々の者には……。ただ、その頃を境に町には活気がなくなり、人も物も集まらなくなってしまいました。お屋敷もご主人様のご様子もあって、まるで色を失ってしまったみたいでした」


 奥方の死、これは関係ないかもしれないが、領主様の具合と町の様子、大きな事件とは関連性があるのはほぼ間違いないと思う。今回の襲撃が俺たちの到着に示し合わせたように起きたのは果たして偶然なのか。宿屋を始めるにあたって、町の活気は重要問題だ。始めたは良いが、お客様がまったく来ないなんて事態はごめんだからなあ。


「それでも、このたびのコトハ様のお働きによって、ご主人様のお加減が見違えるように良くおなりになって。心から感謝を申し上げます」


 頬を紅潮させながら、なんだかとても嬉しそうにサリィヤさんが言った。その顔はまるで……まあいいや、人の色恋に首を突っ込むのもなんだからね。


 サリィヤさんにお礼を言って下がってもらう。室内では、サクヤがすやすやと寝息を立てて眠っている。いくら土地に力が薄くても、おなかいっぱいになれば満足もする。おなかの子のためにも。


 コトハがこっちを見ていた。なにか言いたげな様子。


「コトハ違うぞ、サリィヤさんが可愛かったから話しかけた訳じゃないんだからなっ」


 コトハがずっこけている。


「パパねえ。そんなこと言わなくったってわかってるよ、もう。でも、領主様のお加減と土地の豊かさって関係あるんだね」


 これはもしかしたらと思ってたことだ。この町に入ってきて、空疎感と領主様の屋敷に漂う雰囲気がリンクしている気がしてたから。


「領主様が元気になるの、少しでも役に立つことが出来て良かったあ。これで宿屋さん始めるのに弾みがつきそうだね!」


 そうだな。少しでも前向きに考えなきゃこれからの長い異世界生活、やってられないからな。さすがコトハだ。


「あ、パパ? もし出来たら、明日にでも宿屋さんの確認と、それと『船運び』屋さんでお手紙出したいんだけど……」


「そうだな、宿屋は早めに見に行かないといつまでたっても始められないからな。手紙って、よっちゃんにか? うん、きっと心配してるだろうからそうしようか」


 まだゼじいさんたちの話は終らないみたいだ。

 今はまだ俺たち家族が知らなくていいことが多い。というよりあんまり知りたくもない。


 だってこの町にやってきたのはなにも、やっかいごとに巻き込まれて冒険したり、事件を解決する探偵に悪を懲らしめる勇者みたいな、小説の中の主人公になるためなんかじゃない。コトハの言うように、宿屋を家族で営んで幸せになるためだ。


 ただ、その幸せのためにやらなきゃならないことがあるんなら、コトハも俺もやっちゃうんだろうなあ。

 おなかの中の子もたぶん俺たちに似て、好奇心いっぱいの子供だろうし。とりあえず応援していてくれな。


 サクヤのおなかを静かになでる。コトハは蜂蜜水を美味しそうにコクコク飲んでいる。


 百花蜜の香りが濃かったのか、サクヤが鼻をひくひくさせている。よしよし。

 いつもお読みいただき、ありがとうございます^^!


 明日(コトハたちの時間でですよ)は、宿屋を見に行く予定です。


 ではでは次回に! ほんとに宿屋まで着くのかなあ。フラグ立ってない? 大丈夫かなあ(^^ゞ。

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