世間って狭いね。
まだ食堂でのやり取りです。
コトちゃん目線ですので、コトちゃんよろしく。
♪♪♪
パパが領主様にお食事のお礼をしたんだけど、その領主様がおっしゃったことは、お料理の中身が薄いってことだった。
? 私にはなんのことかよくわからなかったんだ。え~と、お料理の中身が薄いって例えば、お肉の厚さが薄いとかお味が薄口だとかそんな感じ? ううん、私にはそう見えなかったし、お味もどっちかっていうと濃いめだったように感じた。
わからないから、パパやママを見るとママがうんうん頷きながら、
「ええ、判りますわあ! いただいたお料理のお味に、滋味が感じられないと思ったんです……あ、すみません、私ったら失礼なことを」
こう言った。
言った後で申し訳なさそうに俯いちゃったんだけど、じみってなんだっけ? 味は地味じゃなかったよ、濃かったし。
そう言えば、こっちの人間さんって私たちの言葉が通じるんだね。ウホイさんやコルドレさんたちとはなかなか上手くいかなかったけど。でも、言葉が通じても意味がわからないことって結構ある。このじみって言葉も、聞こえてるし言葉としてわかっててもなんのことかはわからない。なんか改めて考えると不思議。
「はいはいっ! じみってなんですか? 派手の逆って意味じゃないですよね」
思わずおっきな声で尋ねちゃった。みんなの視線が集まる。おおう、なんかはずいよお。
「お嬢さん……コトハさんでしたな、じみと言うのは、栄養がある味というような意味だな。ただ美味しいだけじゃなく、身体にも良いといったね」
そう私に教えてくれたのは、静かに食後のコーヒーを飲みながら私たちの方をず~っと見ていた、騎士隊の隊長さん、ナダーさんだった。お外ではすんごい大きな声だったけど、こうやって室内で聞くと深みのある静かな良い声♪
「そう、ここで取れた獣の肉や野菜などが、すべて同じように感じられるのです。それだけではなく、ここ数年領民の中にも、栄養失調で倒れる者や、産まれてくる子らが小さい内に亡くなってしまうことが多くなっているのです」
領主様はそう言って目を伏せた。とても気持ちが落ち込んだように、辛いっていう感情が伝わってきて私まで胸が、ぎゅうって締めつけられる感じがしたんだ。
「それは……お辛いことですね。どうしてそのようなことになられたのでしょう?」
ママがおんなじように、辛いのが悲しいって顔をしている。涙ぐんでて、見ている私も涙が出てきちゃった。
「それもこれもすべて、あの『色なしの悪魔』にかけられた呪いのせい……いや、今はもうなにも言いますまい。遠い異国の地から来られたご家族に、これ以上いらぬ迷惑をおかけする訳にはいきませんから」
それにこうして立って歩けるだけでなく、食事までご一緒できるようにして下さっただけで。そう言って領主様が、にっこり笑ってお辞儀をしてくれた。
ほんとについさっきまで、ベッドから起き上がることも出来ず、食事もままならない状態だったとファスタくんが言う。そのファスタくんの目にも涙。
それにしてもあのゾーンのやつ。
なにしてくれてるの? ウラヌールのあっちこっちで悪さし放題じゃない! ほんっと~に大嫌い。こんなにお優しい領主様を手にかけようとするなんて。今度も逃げ出して、あの捨て台詞だしね。まだまだなにかしでかしそうだ。
お話はまだ続いているけど、みんながあまり話が深くならないよう、気をつけながらしゃべっている。大人の会話ってやつだね。
私はなんとなしに、パパの持ってきたポーチさんに目をやる。
ポーチさんはなにかを伝えたいのか、色をゆっくりと点滅させていた。う~ん、なんだか怒ってるのか呆れてるのかそんな雰囲気。
「パパ、ポーチさんが呼んでるよ?」
パパの肩をトントンする。慌ててパパがポーチさんを手にするけど、軽く首を振りながら私に手渡す。
「俺にはなんて言ってるのか解らないから、コトハ頼めるか?」
たぶん怒りの波動? みたいなのを感じて、私に任せたんだね。もう。
ポーチさんは、私が触るやいなや話し出した。
『ちょっとコトちゃんっ、いいかげんもっとはやくきづいてよねっ! ますたあはわたしのこと、ちっともきにしないんだから』
ぷんすかしてたよ、やっぱり。
「ごめんね、ポーチさん。パパには私から、きつう~く言っておくからね。それでどうしたの?」
『どうしたもこうしたもないわよっ。わすれてない? いんじゃのおじいさんが……』
うえあっ? そうだった忘れてたよ、ゼおじいちゃんのこと! ゾーンとの因縁の対決? その後に巡察使を辞めてマイヤさんに引き継いで、カードの中に移って日本まで行って……って、改めてよおく考えると、ゼおじいちゃんって苦労人さん?
急いでポーチさんのひもを解く……ポーチさん、声あげないのっ! みんなに聞かれたらはずいよ?
カードの束の中から、ゼおじいちゃんがすぱーんっ! って飛び出て……こないね。どしたかな?
カードをぱらぱらして、隠者のカードを探す。
いじけてました。膝抱えて、遠いお空を見ながら黄昏れてたよ。
「おじいちゃん、ゼおじいちゃん。ごめんね、すぐ気がつかなくて。ここは領主様のお屋敷だよ?」
ゼおじいちゃんは、ちらっと私を見てまた顔をお空に向ける。う~ん、どうしたらいいかなあ。
カードを取り出して、なにやら話し出した私を心配してくれて、ファスタくんが尋ねてきた。
「コトちゃん、そのカードはなんだい?」
「うん、パパの占い道具のカードさんたちの一枚なんだけど、ゼさんっていって、さっきのゾーンのこととか知ってるの」
そう言う私に、席を立って近づいてくる騎士隊のラダー隊長さん。カードの絵を見るなり、外で聞くくらいのおっきなお声でしゃべりかけた。
「お、おぬしはゼファーか? ゼファーだな! なあにをやっとるか、そのような場所で!」
「うお? その胴間声に虎髭は、まごうことなきバルラじゃな? 変わらずでかいの、図体も声もな!」
「おぬしこそ、ちいっとも変わっておらぬ。珍妙なことばかりしておったが、こたびはなんじゃ、やけに美丈夫に描かれおって」
まあたまた、ゼおじいちゃんと係わる人だったのね。マイヤさんしかり、ラダー隊長しかり、領主様も、驚きながらもなぜか微笑んでるし。今のご様子からして知り合い確定っぽい。
どうやらすべては、ゼおじいちゃん――ゼファーさん? に繋がってるような。パパは頭抱えてるし。
世間って狭いね。なんだかなあだ。ふう。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
本当は、もう少し背景にあるものを臭わせたかったんですが、とりあえずこれでこの章は終わりまして、
いよいよ宿屋のお話に入ります!
え、その前に私を出せと? ただでさえ出られる場所にいないんだからと?
う~ん……。




