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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第一部 第五章 ウラヌールの町。
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お料理の中身。

 ふう。今回はサクヤさんの語りでまいります。

♡♡♡


 みんなでお部屋に入る。私がさっき案内された部屋ね。


 私は安全のために一緒にいられなかったから、向こうで何があったのかはわからない。でも、コトちゃんの疲れようでどんなに大変なことがあったのかは想像できる。パパの様子からして、きっと大活躍したのね。お疲れ様だね。


 ぱたん、ってソファーに倒れそうになるのをパパが抱きかかえて、二つあるベッドの片方にそっと寝かしてあげる。顔にかかる髪の毛を優しく掻き分けてあげているのを見て、私はあれ? と思ったの。なんだか、コトちゃんの雰囲気がいつもと違うような……。どこが違うのかしら、お顔はいつものように小さく可愛らしくて、目は切れ長で一重さん。つむった目元には、ながあいまつげ、目の下にはぷっくりとした涙袋。女の私からしても、きゅんっ♡ ってしちゃう美少女。本人はまったく自覚がないけどね。そこがまたいいのね、天然ちゃんが入ってて。

 小柄で細身だからか、同学年の女の子よりも幼い印象があるけど、時々見せる表情や仕草はじゅうぶん女性らしいと思う。苦労させてきちゃったからなあ、ほんとにごめんね。


 そんなことを考えながら、ようやく何が違うのかに思い至ったの。それは、


 この旅の間に肩まであった髪が伸びて、背中の辺りまでに達していたんだけど。その髪が、旅の間にあんまりお手入れが出来なくてギスギスしていた黒髪が。


 つやっつやで、複雑な色合いを見せる……そう、あのパパが持っているポーチさん? みたいな髪色に変わっていたの。


 濡羽色って言ったかしらね、とっても神秘的な髪。

 黒くて艶があって、紫にも緑にも、時には赤っぽくにも見えるの。


 なんだろう、私の娘じゃないみたいに、その、神々しいっていうか清冽? ううんちょっと違う。とにかく清く、それでいて艶めかしくて。おもわずほうっ。って息を吐いちゃった。



 パパも疲れたのか、眠そうね。私は、うん。お腹すいたわあ、もうぺっこぺこ! お腹の子もおんなじなのかな? ぽこぽこ自己主張している。とりあえず横になって、お夕食まで一休み。パパの手がおなかを優しくなでる。その手をぽこぽこ蹴っている。さっきあった大変なことを抜きにして、幸せな時間だった。



 こんこん。


 こんこん。


 初めは軽く。二回目は少しだけ強めに。扉をノックする音に私はパッと飛び起きた。だってだって、待ちに待ったお夕食よ? これが飛び起きずにいられますか、いられないわよねえ♪


 急いで横にいるパパと、隣でむにゃむにゃしているコトちゃんを起こす。パパは寝起きがいつもいいからすぐに起きたけど、コトちゃんはまだ半分夢の中みたいね。つるっつるのほっぺをツンツンしたらやっと起きた。


「さあさあ、お夕食の準備が出来たって! 急いで身支度しないと。とりあえず、お洋服は替えましょうね」


 部屋に入る時に荷車から運んでもらっていた荷物を解いて、三人分の着替えを用意する。


 なにせ初めての貴族様とのお夕食。お呼ばれされた私たちは、いくら旅の後だからって簡単には済ませられないもの。ここは持ってきた中でもとびっきりの……。



 お部屋を出て、外で待っていてくれた、え~と女中さん? メイドさん? なんていったらいいんだろう、訊いてみようかしらね。


「お待たせしてしまってごめんなさい。あの、あなたのことはなんてお呼びしたらいいのかしら?」


 え、そんなにびっくりしなくても。私たちの格好を上から下まで見て、驚きの表情を浮かべている。もしかしたら、私のチョイス間違ってたのかしら? なんだかふるふるしてる。大丈夫?


「あ、あの、すみません、お返事もいたしませんで! 私どもメイドにそのようなお気遣いは無用に願います」


 とっても恐縮した様子で、ぺこぺこしていた。なんだかこっちこそごめんなさい。あ、驚いてたのがなんでか訊かなかったわ。もう仕方ないのでこのままいくしかないわね。


 連れて行ってくれたのは、お屋敷の一階にある食堂。いつもは領主様とファスタくんの二人だから、小さいのを使っているそうで今日は広いのを開けたということで、メイドさんたちも忙しそうに食堂の前を行ったりきたりしている。ありがとうございます、私たち家族のために。そう思ってお辞儀をしながら歩いてたら、またまた変な顔をされちゃった。


「遅くなり、申し訳ありません」


 パパが中にいる人たちに声をかける。中には領主様をはじめ、ファスタくんとマイヤさん、そして町の守護騎士隊の隊長さんも席に座っていた。私たちが室内に入ると、びっくりと、ほうっ! っていう感嘆の声が。良かった、どうやらさっきのびっくり! は、珍しい格好に対するものだったみたいね。


 私たちの格好は、フミアキさんが黒のスーツ。ネクタイは白だといかにもって感じだから銀色のを選んだ。

 私はおなかも目立ってきたことから、青いゆったりめのビスコース生地のマキシ丈ワンピース。これね、Vネックなんだけど取り外しのできるインナーが付いていて、インナーをめくると授乳もそのまま楽に出来るという優れものなの! 長く使えるものだから、こっちに来る前に奮発しちゃったの。あ、もちろんみんなで一緒に買いにいったんだからね? 今はそのインナーは外して、小振りの真珠のネックレスをしている。上着は軽めのカーディガン。白いから、お食事の時は脱がないとね。

 コトちゃんは、春の花柄ワンピース。色合いは水色で、そこにイベリスやカモミール、スノーフレークの白いお花が散りばめられているもの。丈は長めで、とお~ってもキュート♡


 空いている席に、お使いの人が薦めてくれるままに座る。こらこらファスタくん、私はまだ良いけど――あんまり良くないけどっ――コトちゃんのことをガン見しすぎよ? もう。



「それでは皆が揃ったので、やぼな口上は抜きにして食事にしよう」


 メイドさんが私のカーディガンを預かってくれる。水が入ったお盆をお使いの人が差し出す。え~と、ああ、これで手を洗うのね。私は見よう見真似で先に進めていくのに、コトちゃんはなんでだか、あんまり周りを見ないでもわかっているかのように手を洗い、差し出された手ぬぐいで手を拭いて、テーブルにあるナプキンを首にかけて平然としている。すごいなあ、もしかしてコトちゃんが読む本に、こういうのも書いてあったりするんだろうか。


 出てきたお料理は、うん、美味しいとは思う。けして手を抜いたものではなく、お屋敷の料理人さんは腕が良いんだと実感できるもの。食材の味を引き出し、あまり華美にならないよう盛り付けもされている。量も申し分なく、満足してない訳ではないの。


 でもね。なにかが足りないの。そう、強いて言えば、栄養かな。滋味が感じられない気がするのは私だけなんだろうか。不自然にならないようにフミアキさんやコトちゃんを見ると、二人ともすこおしだけ微妙な表情をしている気がした。たぶん私とおんなじだ。


 食後のコーヒー――嬉しいことに、こっちにもおんなじようなコーヒーがあったの! うれしいわあ♪――を飲みながら、領主様が口を開く。


「いかがだったでしょうか。料理にはご満足いただけただろうか?」


「はい、量も味付けも申し分ないものでした。ごちそうさまでした」


 フミアキさんが、失礼にならないようお礼の気持ちを伝える。でも、その表情などを読み解いたのか領主様がこうおっしゃった。


「お褒めいただき、感謝申し上げます。しかし……おそらく感じられたとことと思うのですが、中身が薄いのです。食にとって重要な、中身が」

  

 お読みいただき、感謝を。


 いかがだったでしょうか。サクヤさんもなんとなくこのウラヌールの町が、不可解な事件に巻き込まれているのかが判ったようです。サクヤさんだけに食からですがね。


 ではでは次回にまた。

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