繋がりの証。
今回はコトハの回ですが、やや重めです。仕方がありません、ある意味宿敵ですので。
♪♪♪
ほんとに許さないんだからねっ!
私は怒り心頭、かっかかっかしてしょうがなかった。
だってね、あんまりにひどいじゃない。ゾーンのやつ。あんなのは、やつ呼ばわりでじゅうぶんだ。自分がもしそう言われたらしょぼ~んになるけど、こんなひどいことするのは絶対にいけないんだ。
だからあんなやつの言うことなんて聞かない。聴きたくない。
でも、剣を突きつけられてる領主様はどうしたら良い?
私はそこまで頭が回らなかったんだ。だって、頭に血がぜんぶ集まってきて、目の前にちらちら火が飛び回っていて、ほかのことに気持ちがいかなかったんだ。
「ゾーン。あなたってひどい人だね。なんでそんなこと出来るの? 心、痛まないの? それともなに、心、持ち合わせてないの?」
すう~っとマイヤさんの前に出る。私だけ扉の向こう側に入り込む形になる。
通り過ぎる時に、一瞬だけパパと目が合った。ごめんね、心配だよね。でも大丈夫、そんな気がするんだ。なんでだかはわからないけど。
「うむ? 娘よ、またまたつれない言い方をしよるのお。だからいけずなのじゃ。それにつけてもそなた、こちら側に足を突っ込んでおるぞ? すべてではなく、わしなどよりもさらにさらに浅いがの。そのように半端な立ち位置では己が傷つくだけじゃぞ。どうじゃ、いっそのことわしと手を組まんか? わしならそなたを上手く導いてやれるぞ、幽世の『力』にな」
幽世の『力』? なんだそれ。美味しいの? そんなわけがない。すごお~く不味そうだ。それにいやあな言い方。私があんたみたいな気持ち悪いのと一緒だって言いたいの? 冗談じゃない。ぷんぷんだ!
「幽世ってあの世のこと? そんなとこの『力』なんているわけないでしょ。なに言ってるの? そんなんだから、ゼおじいさんみたいにかっこよくないし、人として厚みがないんだよ」
こう言いながら私は、胸にしまってある♪ を手にした。今はこれが頼りだ。繋がりを信じよう。
「ほう。そなた思いの外、内面は出来上がっているようじゃの。まだまだ拙い形ではあるが。なおのこと、こちらに欲しいのう。来ぬならば、やはり喰らうしかないの。いかがする?」
誰があんたなんかに食べられたがりますかっていうのっ! 私は♪ を目の前のゾーンと、なんだっけ、『闇の使い』だったかな? に向けて突きつけながら、言葉を口にする。強い色が乗っかりますように。
ここにないもの ここにあるもの
いろのないもの おとをもつもの
ゆらぎのなかにはなんにもないの
なみまのなかにはすべてがあるの
かげのなかでは いきられぬ
ひかりのなかに かげがある
そろわなければやどらない
こえをかたちに おとにいろのせ
ひかれ そまれ のぼれ!
私の手の中の♪ が、黄色い光が一瞬にして部屋中を満たす。他の色は何も無くなる。ただすべてが黄色。境目の無い黄色。
「ぬうっ、境目を失わせるか! 始原の色を使いよるとは思いもよらなんだ。その手の物はなんじゃ、わしにさえ見当もつかぬ、忌々しい限りじゃ!」
やっぱりね。前回の時も思ったけど、このゾーンてやつは重みがないんだ。元々が軽薄な、人としての深みがない。私みたいな女の子にだって見透かされるくらい、薄っぺらいんだ。だから色に染まってしまう。
「この♪ はね、繋がりの証。心と心の繋がりの絆。なによりも強いよ、だってこの色は生命そのもの、希望の輝きだから!」
そう言いながら、言葉にもっと『力』を込める。
黄色の光りはやがて、白い、ううん眩しいほどの無色になった。
その色変わりの短い時間の中で、私はゾーンではなくて領主様を取り囲んでいた『闇の使い』の方を見ていた。ゾーンなんかもうどうでもいい。言い方が悪いけど、底が知れたから。
黄色い色に染まった黒い影たちは、無色の光に包まれるその一瞬にほんとの姿がちらっと見えた。見えた気がした。それはまだ若い青年であったり、古く黄ばんだ骸骨であったり、ふくよかで優しげな女の人であったり。みんなとても満ち足りたような笑顔で、無色の中に消えていった。
影たちが持っていた短剣が、領主様の寝台の周りに乾いた音を立てて落ちる。
色を戻していく室内には、寝台に横たわる領主様と、さらに薄っぺらい存在に成り下がったゾーン以外には誰もいなかった。倒れていた人、召使さん? 見たいな人もいなくなっていた。自然と涙が出た。ごめんね。
「わ、わしに始原を見せつけるとは、やはりそなたはいけずじゃ。もう良いわ、この場はそなたの勝ちということでよかろう。しかしの、わしはしつこいぞ? わしの意に染まぬ者はけして見逃さぬ。常につきまとうてやるからの。楽しみにしておれよ、よしんばわしに与するようになれば骨まで可愛がってしんぜよう。このまま背くのならば、骨までいたぶってやろうほどにな」
そう言い残して、ゾーンはどこかしらへと消えていった。
うえ~~っ、またまた気持ちわるう~い、いなくなり方。なんなの、あの気色悪さ。私はまだ小さいんだから、あんたの言うことの半分もわかんないから怖くなんかないんだからね~っだ!
完全に事態が収まって、時間が動いた。一番にパパが動いて、私に近づこうとしたけれどマイヤさんに先を越されてしまった。
マイヤさんが私を後ろからぎゅう~って抱きしめる。横でパパが肩透かしを食ってつんのめってずっこけてる。パパには悪いけど、マイヤさんで良かったよ。だってね、背中に感じるあったかやわらかな感触が、緊張でコチコチに固まっていた私を、優しくほぐしてくれたから。だから許してね?
そこからは、人の動きもあちこちで忙しくなる。
ハンニバルさんが、ファスタくんと寝台に駆け寄る。その際にハンニバルさんは私に強い眼差しで感謝? を示す。ファスタくんは……尻尾がなくて良かったね、ちぎれちゃうかもしれないからね。
マイヤさんが私を正面に向かせ、どこにも異常がないかあちこちをぺたぺたする。くすぐったい。
どこにも異常がないのがわかって、マイヤさんが大きく息を吐いた。
「コトハ。あなたって人は、どうしてそうも無鉄砲なの? 相手はあの『色なしの悪魔』なのよ、しかも影まで引き連れていたところに飛び出すなんて!」
こんこんと叱られちゃったよ、しょぼぼ~んへにょんだ。
パパは、そんな私の頭をかるうくわしゃわしゃして、にっこり笑った。
「コトハ。大変だったな、なにも力になれずにすまなかった。しかしコトハ。お前、ちょ~~カッコかわいいな♡ 俺、震えちゃったよお!」
なんだかパパの私に対する態度が、変わったような、変わってないような……。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
今回はいろいろ今後に繋がるワードがちりばめられていますね。作者も書き進めながらう~むとうなっておりました。大丈夫か? まあ、成長していくコトちゃんに引っ張ってもらいましょう、そうしましょう。
勢いをなくしたくないので、できるだけ毎日投稿できるようにしております。
ではでは次回もよろしくお願いいたします。