静かな町。
ウラヌールの町、門を通り町中に……。
今回はフミャアキ、一世一代の
続きは本文で^^!
◇◇◇
町の門――俺たちが入ってきたのは北門だろう――が開いて中が見えてくると、そこは辺境の田舎町とは思えないほど整備された場所だった。
中央に見える尖塔は、たぶん庁舎とかのものじゃないかな、下を見るとぐるりと二、三階建ての建物が外周を囲んでいる。町のどこからでも行きやすく、目印にもなる。そこが、このウラヌール地方領の領府がある場所だろう。
この門から続く壁は、そんなに高くない。門よりはいくぶんか高いくらいで、威圧感みたいなものはそんなに感じられない。
まだこのロストール王国内どころか、周辺の地理も分からないからなんともいえないが、防御の意味はあまりないのかもしれないな。
俺には先に進む前に、どうしてもやっとかなきゃならないことがある。それを思うと、胃がきゅうっと縮んだ。
でも、やらないといけない。それも正確に、間違いは許されない。一発勝負だ。
「ファスタ様! 先ほどは大変な無礼を働いてしまい、誠に申し訳ありませんでしたっ!」
列の最後尾にいたファスタ様にずんずんと近づき、日本の作法の真髄である土下座を、ジャンピング付きで行ったんだ。これで謝罪の気持ちが必ず伝わるだろう。サクヤや、コトの冷たい視線なんか気にしない。気にしたら負けだ。
地べたに頭を押し付けていた俺は、目線を少しあげてファスタ様の様子を見ると、逆に驚いた。あんれえ、なして?
ファスタ様、俺とおんなじことしてたよ。そう、日本の作法の真髄である土下座を。それも完璧に、寸分違わずに。
「ぼ、ボクの方こそ、大切なお嬢さんにあんなことをっ! お父上に殺されても仕方ない、もっとお怒り下さい! お叱り下さい、そしてお嬢さん……コトハさんへ謝罪の機会をお与え下さい、お、お父さんっ!」
うん、も一発やっとこうか。お前にお父さんと呼ばれる筋合いは断じてないっ!
二人して、唇を触れんばかりに近づけてこんなやり取りをしていたら、当のコトが手を後ろに組んでふんふんしながらそばに立った。
「パパもファスタ様もそこまでにしとこ?」
ことん、と首を可愛く傾げながら、俺とファスタ様二人を交互に見やる。
「パパはファスタ様に、きちんとごめんなさいしたんだからこれでおしまいね♪ ファスタ様も痛かったね、よしよし。ファスタ様、私が嫌いとか顔も見たくないとかじゃないんだよね?」
「そんなんじゃないよ! むしろす……」
「ならもういいよ♪ これからは私たち、良いお友達になろうね!」
おおい、コト……。それではさすがにファスタ様があんまりでは、とさっきの殺意? を横に置いといてファスタ様をチラ見すると、尻尾を振らんばかりの顔をしてやがった。だめだ、こりゃ。
「うん友達からだねっ! よろしく、コトハさ……コトちゃん♡」
「うん、じゃあファスタ様、じゃなくて……ファスタくん!」
あ、おちたわ。
ファスタ様、もといファスタくんは、完全にコトの無意識下でのラブリィ♡ 攻撃にあえなく玉砕。なおかつけして報われることのない、お友達収容所に囚われてしまったのだ。
なんてのはどうでもいいことだ。コト、しかしよく手懐けたな。父さん脱帽だよ。
嬉しそうにコトの周りを、わふわふ言いながら(言ってないけどそんな感じな)付いて回るファスタくんを含む俺たち一行は、町の中に入って中央にある領府に向かっていた。
この町は、東西南北を綺麗に碁盤目に区切って整理されている。丘の上から見たときよりも、こうして歩いてみるとより実感する。ここはとても住みやすそうだぞ。うん、良い町だ。
しかし違和感、疑問を感じないではない。それは、
どうしてこんなに店数が少ないんだ? 人通りもちらほらとしか見かけない。開いている店も品数が少なそうだし、なにより活気が感じられない。
そうか、静かなんだ。だからよけいに違和感を感じるんだ。
普通、店先では売り子が声を出してお客様を呼び込む。今の日本では、客引きは摘発されることがあるし、普通のお店でもプライバシー重視とやらで、こちらから声をかけないと視線を合わせようともしないことが多い。
でもここは異世界、見るからに昔の中世風なたたずまいを色濃く宿した町だ。こんな町では、呼び込みしないでお客様が寄ってくるなんてそうそうあり得ない。よっぽど決めにかかって買い物に来ない限り。もしかしたら、店数が少ないから競争相手がいないおかげで売り手優位なんだろうか。
そうだとしても、これだけ人通りが少なくっちゃあ売れるものも売れない気がする……。
聞いてみるか。
「え~ファスタく……様?」
「はいっ、お父さん! どうぞ僕のことは呼び捨てでお願いしますっ。それでお父さん、なにかお聞きになりたいことでも?」
むかっ。いやいや落ち着けえ、俺。ふう。
「……じゃあファスタくん。ウラヌールの町はとても綺麗な町だね。区画整理がしっかりしていて、住みやすそうでだし。でも人通りが少ないし、店の数もあまりないような気がするんだけどなにか理由があるのかな?」
気持ちを落ち着けながらファスタくんに尋ねると、心もち顔を伏せながら小さい声でこう言った。
「はい、その通りです。ウラヌールの町はとても住みやすい、住人も商人もみんな人情のある良い町なんです。でも今は……」
詳しいことは領府に着いてからで、とファスタくんが続けて言った。
う~ん。ここにもなにか、不穏なというか厄介なことが起きてるみたいだなあ。これもカードと俺が少なからず係わってるんじゃあないだろうか。
腰のカードが入っているポーチ――最近かまってあげてないな――の、色合いが深くなった気がした。
今日もお読みいただきありがとうございます!
フミャアキ――すっかり馴染んでますな――のジャンピング土下座。これを完コピしたファスタくん。案外仲良しさんになれるかも?
次回は領主館でのお話です。そのはずです。
ではでは^^♪