ファスタ・ウラヌール様。
ふう。とりあえず町まで。すみません、四十一話で次には町に着くと書いてしまいましたが、今回になってしまいました。
では、コトちゃん回でまいります。
♪♪♪
町に入る手前の道。マイヤさんが迎えに来てくれてそこで私たちは、これから移住させてもらうことになっているウラヌールの町の領主様のご子息である、ファスタ様とお話をしたんだ。
ファスタ様は私とおんなじくらいの年で、きれいな銀髪を後ろのほうになでつけている。なんだかもったいないなあ、もっとふわんふわんだとすんごおく可愛らしいのに。あ、男の人に可愛いって言っちゃいけないんだっけ? ごめんなさい。でもね、そのくらいのほうが良いと思うんだ。私的にはね。
馬上なので身長とかはわからないけど、そんなに高いって感じではなさそう。私よりは高いに決まっている。私は……並ぶといっつも一番前だから、それがいやで生徒会に入ったようなもんだし。
服装は動きやすいズボン? とチュニックだっけ、頭から被るような服。やや紫がかってて鮮やかな色合いの服だ。綺麗に刺繍も施されていて、腰の太めの黒い革のベルトと合っている。その腰には、大きくはないけど柄に鳥の絵かな? が彫られた短剣を佩いている。
こうやって見ると、やっぱり別世界なんだなあって改めて感じるね。
そりゃあウホイさんたちや、フィルフィリちゃんたちみたいな、不思議でとっても素敵な異種族の人たちもいるんだから当たり前と言えばそうなんだけど、逆に違いすぎてぴんとこなかったんだ。
でも、目の前にいるのはおんなじ人間で、服装や持ち物が現代とは全然違ってて。それがよけいにここが別世界、そう異世界なんだなあって実感させる。
そんなことをつらつら考えていたら、パパとのお話も終わったらしくママと私の方に、ファスタ様が視線を向けてきた。
?? ど、どうしたのかな? 私たちを見た後、なんだか馬上でえらい衝撃を受けてるみたいに、のけぞったかと思うとぷるぷるしだしたよ。大丈夫かなあ、なにかご病気でも……。
あ、復活したみたい。今度は俯いて、しばらくじっとしてからママのほうを向いて口を開く。
「こ、これはご主人との話が長くなってしまい、ご挨拶が遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした」
そう言ってファスタ様は、なぜだか不自然な格好で私を見ないようにして、馬を降りた。そしてママの方を見ながら、ウホイさんがやったのよりももっと洗練された、貴族風の挨拶をした。うん、様になるね。
でも、私はウホイさんの方がカッコいいと思う。紳士的だったし、無視なんてしなかったしねっ!
私が一人でむすっとしていると、マイヤさんが近づいてきてファスタ様に口添えをしていた。
「ほらファスタ様。もうお一人、ご挨拶が遅れてらっしゃいますよ?」
ついっとファスタ様の肩を軽くつかんで、私のほうに体を向けさせた。
やっぱり変だ。だって、こうやって正面を向いているのに顔を下向きにしちゃうんだよ? お加減が悪いのか、それとも、私なんかいけないことでもしちゃったかな? 粗相? 気づかないところでしちゃってて、ご機嫌を損ねたんだったら謝らなきゃ。これから住まわせていただく町の、領主様の息子さんに悪いイメージをもたれたまんま、生活していくなんて耐えられないよ。
「あの……私、言葉って言います。天国 言葉。よくみんなからは、コトちゃんって言われます。それで、あの……ファスタ、様? 私、なにかいけないことでもしでかしましたか? やっちゃいけないこととか、ご機嫌を損なうようなそんな……」
そう私が伝えても、なぜか顔を赤くしながら目を合わしてもらえない。
顔を向けてもらえないのがこんなに悲しいなんて。こっちに来てからは、パパもママもウホイさんやコルドレさんも、マイヤさんだってみんなみんなきちんと目を見て、まっすぐにお話してくれてた。
それがこんな風に、顔を背けて俯かれるなんて。そう思ったら、涙があふれてきちゃった。もうとまんないよお。
ぐじゅぐじゅになった視界の向こう側で、ものすごおく驚いて、うろたえるファスタ様の顔が見えた。やっとまっすぐ私を見てくれたのに、私はこんなひどい有様で。なんで? どうして?
私がこらえきれずにわんわん声を上げて泣き出したら、私の泣き声が色をつけて辺りに広がっていった。その色合いは薄い赤だったり、濃い青色だったりむちゃくちゃ。パパとママが一生懸命抑えようとしてくれるけどだめだった。普段の私なら、冷静にすぐなれるし落ち着けるはずなのに。なんでだか今はたがが外れちゃったみたいに止まらない。
「ファスタ様っ! いますぐコトハに声をかけてあげてください! このままでは大変なことになります、どうか早く!」
私はもうなんだか、とってもとお~っても小さい頃のように、泣いている理由も忘れてただ泣いている自分にびっくりして、さらに泣きじゃくるような。そんな状態になってしまっていた。
きっと私は、自分が思うほど強い性格じゃない。めいっぱい気を張って、どうにかここまでやってこれたから、こうやって人が造った町を見て。おんなじ人間の姿を見て。その人間の男の子に無視、ううん違うね、たぶんなにか理由があって私を見れなかったんだと思う。それがわかったからと言って、いまさら泣きやめるはずもない。
がばっ! ってファスタ様が私を抱きしめた。そして、
「すまん、い、いやごめんなさい、僕が悪かった! 本当にごめん。違うんだ、君は……コトハ、え~とコトちゃん! そうコトちゃんは何も悪くないんだ。僕がコトちゃん、君に見惚れてしまって、まともに顔を見られなかったんだ! こんなに可愛くて、素敵な女の子に初めて会って僕はぼ……」
すごく、すんごお~っくびっくりして固まった私から、ファスタ様をひっぺがして、パパがフルスウィングでそのファスタ様をぐ~パンチした。すごい音がしたよ? ファスタ様が町の方に転がっていくのが見えた。
町までは騎士隊の隊長さんが先頭に立ち、そのすぐ後をママを乗せた荷車を引っ張ったり押したりする騎士隊の皆さんとパパと私。パパはなにかを堪えるように黙ったままだ。
少し離れて、マイヤさんがファスタ様と最後尾を歩く。どうやらマイヤさんから、きつう~くお灸? を据えられてるみたい。
良い気味だとは思わないよ。っていうかこっちこそ、ごめんなさいだよ。
あんな風に言ってくれて、後から考えるともうね……恥ずかしいやら嬉しいやらなんやらかんやら!
すんごおく照れくさくて、私までファスタ様をまともに見られなくなってしまった。まあでもね、ここはどうやら辺境にある町で、そんなにたくさん人もいないみたいだし。きっとファスタ様は、私みたいな女の子とあんまり会ったことがなかっただけだと思う。うん、そうに違いない。だから許してあげよう。って言うか、気にしないでおこうっと。
丘から続く坂を下りきると、目の前には町に入る門がそびえていた。かなり大きな門だね。頑丈そうだし。左右には、槍かな。武器を手にした門番さんが通せんぼしていた。
「お勤めご苦労! 守護騎士隊、隊長のナダーである。こちらの一行を警護して参った。開門を願う!」
大きなよく通るお声で門番さんにそう伝えると、心得ていたのか門番さんがきびきびと門扉を開けるべく両脇に下がった。中から物音がして、重い扉が外にゆっくりと開いていく。
門からまっすぐに伸びる大路。先の方には、丘からよく見えた鐘のある塔が道を塞ぐように建っていた。大路を横に貫くように、いくぶんか細くなった通りが何本も通っているのがわかる。大路に面した場所は目抜き通りになっているのか、大きなお店が何軒かあって人の行き交いも多いみたい。
ようやく私たちは、ウラヌールの町にたどり着いた。もう日にち感覚がなくなってしまっているけど、たぶん一ヶ月くらいにはなるんじゃないかな。
パパとママ、私は三人揃って大きく息を吐いた。やっと、やっと着いたよお!
いつも、『ウラヌールの宿屋さん ~異世界で転職を~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
やっと町に着きました! って、入り口か~い!
すみませんごめんなさい。作者これでも多忙につき、毎日書くのもやっとこさなんです。。
どうかなが~い目で、よろしくお付き合い下さいです~ヽ(^。^)ノ。




