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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第一部 第五章 ウラヌールの町。
43/104

トンネルの開通。

 今回から新章に入ります。


 パパさん回になります。


 

◇◇◇


 ライブショーからは、話がとんとん拍子で進んでいった。


 集まってくれた穴掘りグマたちが長老であるコラダンさんの鶴の一声で、一斉に動き出したのが夕方過ぎだった。


 元々地中に広大な穴を掘って生活をしている彼らは、ほんの少しの光源があれば日中と同じくらいに不便を感じずに行動できるらしい。



 ライブショーが始まってすぐに大勢集まってこれたのは、縦横に張り巡らされた穴の数ある出入り口の一つ、この岩穴からとても賑やかな音楽が聴こえてきたからで、居ても立ってもいられなくなった若者たちが長老を抱えるようにして穴から出てきたんだと教えてくれた。


 ウホイたちがノリノリで歌い踊り、同胞であるコルドレたちが一緒になって笹笛を吹いていたり。びっくりするやらなんやらであっけにとられているうちに、聴いたこともない人間の女性の、心に直接響いてくるような歌声が。そしてうちのコトが声に色を纏って歌いだす。


 クマたちにとってこんな体験は初めてで、生気を奪われてしまった甘笹の森の一件で意気消沈してしまい、穴倉から出てくる気力も失っていたところになによりの慰め、素晴らしい贈り物になったそうだ。



 興奮と、感謝と、希望を得た穴掘りグマたちはコラダンの指示の下、ものすごい勢いで山裾からトンネルを掘り進めていった。前から山の中にも穴が掘られていたので、それをつなぎ直し、太く頑丈なものにしていくのはそんなに難しいことではなかった。


 俺もウホイたちも男たちは総出で穴掘りに参加し、女性陣は湖から水を汲んで来たり食事の世話をしてくれたりした。中心になったのは、当然サクヤだった。


 俺としては身重であるサクヤには、なるべく安静にしていて欲しいところ。だけれども、これだけの重労働を急ピッチでこなしていく男たちの、胃袋という胃袋を鷲づかみにするというチャンス? 欲望かな、を逃すサクヤではなかった。


 作業を交代し、沸かしてあっためた湯で汚れを落としたクマやウホイたちが、みんながみんな一様に、


 はらぺこふるんっ? って顔をする。


 異種族に絶賛大流行中だよ。よかったな、ふるんっ?



 念願のトンネル開通は、掘り始めてたったの五日で達成された。

 これもすべて、暗闇でも目の利くコルドレたちが、昼夜分かたず掘り進めてくれたのと、巨体と無尽蔵の体力で、大量の土砂を運び出してくれたウホイたちの功績によるものだ。

 俺たちは、他力本願でただただこの幸運に乗っかっただけだ。いくら感謝してもしたりないくらいだ。


「フミァアキさん、私は先にウラヌールの町と領府に到着の報告に向かいます。この出口からすると、西に少し降りていくと笹の自生する一帯が見えてくるはずです。ウラヌールの町は、南に向かって丘をいくつか越えると見えてきますから」


 そう言って、マイヤさんが先に出発していった。その手には、サクヤが渡したリンゴンベリーの砂糖漬けが、ビニール袋にいっぱい入っている。

 マイヤさん。妙齢の女性が、口の周りをべったべたにしてるのはどうかと思う。フィルフィリちゃんがそのお口を舐めたがっている。そのもじもじ感、おじさん嫌いじゃないぞ。


 コルドレたち穴掘りグマの一行は、西に向かい笹の森を確認しに行くという。


 俺とウホイはコルドレに近づき、互いの方に肩に手を乗せてわになる。互いに向かい合って、肩に手を乗せ合うのが親愛の証なんだそうだ。


「コルドレ。俺たちは親友、心の友だ。こちら側の笹が、甘くお前たちを迎えてくれることを祈っている」


 コルドレがまっすぐ俺を見る。


「フミァアキ。こころのともよ。ゼさまのいうことただしい。だからしんぱいない。フミァアキ、ウラヌールとおいのか?」


「いや、南に一日で着くそうだからそんなに遠くないはずだ」


 少し目を伏せながらコルドレが聞いてきた。


「ウラヌールの、フミァアキのいえ、たずねてもいいか?」


 ! コルドレ、そのもじもじ感、友として嫌いじゃないぞ。


「ああ、もちろんだ。まだ見ちゃいないが、俺は宿屋の店主になるんだ。お前と、ウホイのための部屋はいつでも泊まれるよう空けておく。いつでも遊びに来いよ、俺も落ち着いたら森に訪ねに行くからな」


 ウホイもうんうん頷いている。そう言えば、ウホイたちはトンネルの向こう側に戻るんだったな。


「ウホイ。お前も気をつけて戻るんだぞ。ウーハさんによろしくな? お互い身重の奥さんを大事にしないとな」


「ウホ。みんなでとんねるつくった。とおくない、すぐあえる。あかんぼう、うまれたらつれてくる。おまえもくるがいい」


 そうだな、トンネルも整備されれば今まで往来の無かった南北が繋がる。往来が活発になれば、ウホッホ族との交流ももっと深まるだろう。


「ああ、これからが楽しみだな! 行き来できる地に、友がいるんだからな」


 三人で固く誓い合う。



 コトとフィルフィリちゃんも挨拶が済んだみたいだ。サクヤも、イルマリさんとのしばしの別れに名残惜しそうだ。でも、これからも繋がりが薄れることはない。

 

 笑い合っていったん道を分けていく。



 俺たちは、旅の始まりとおんなじ家族だけで丘をいくつか越えた。


 季節が定かじゃないからなんとも言えないけど、もう少しあったかくなれば、この辺りは花だらけになるんじゃないかな。

 まあるい株になった茎がいくつも並んでいたり、背の高い細い幹が風に揺れている。


 丘沿いの景色を眺めているうちに、大きな川が見えてきた。川幅はかなりあり、深さもありそうだ。なんていう川なんだろう。

 川に架かる橋は頑丈そうで、これなら馬車なんかも往来が出来そうだ。


 橋を渡り、大きくカーブする道を降っていくとその町が見えてきた。



 ウラヌールだ。


 

 ふう。


 あ、いつもお立ち寄りいただきありがとうございます!


 登場人物にすれば、長い長い旅の末、ようやくみえてきた町。しばらく町でのお話が続きます。

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