ライブの成功、そして。
このお話のすぐ後に閑話を投稿して、次章に移ります。
【追記】今回は、コトちゃん~マイヤさん(お初っ!)~コトちゃんとなっております。
ではどうぞよろしくお読み下さい♪
♪♪♪
もう、心臓がバックバクしてるよお! 落ち着け~、落ち着け私。ふう。
気がついたら、ライブ? が終わってて、大勢の人たちにもみくちゃにされてたの。なんで?
マイヤさんがむぎゅうっ♡ てして私を守ってくれてる……のかな? ありがとうございます。
それにしてもすごい数の人、人、人。こんなに集まってくれたの? じゃあ、私なんかが歌って場違いだったと思うけど、一応成功だったみたい。良かったあ。
ほっと胸をなで下ろしているとマイヤさんがものすごお~く真面目なお顔で、
「コトハ。これから先あなたは、自分で思っている以上に大変で困難な道を歩まなければならないわ」
周りの喧騒に負けないように、私の目をじっと見つめながらそう話す。
どういうことだろう。私はただ、少しでも気持ちが伝わるように自分で書いた詩を、あんまり上手くない歌にして歌っただけだよ。まあ、少しばかり色がついて普通じゃないかもね? くらいのもの。
身体が小さいせいもあってか、声も小さいからたぶん集まってくれた人たちには、全然聞こえてなかったと思う。せっかくマイヤさんが、あんなに素敵な歌を聞かせてくれたのに。
そんな私が大変な道を歩むって意味が分からない。
とりあえず喜んでいた私に投げかけられた、マイヤさんの言葉。むむむだよ。
きょとんとした顔で、私のことを見つめる。
ああそうなんだ、この娘は自覚していない。正式に教わっていないせいもある。自分がどれだけの『力』で周囲に影響を与えているのかを。
私には判る。
私は、自分の歌が聞いている人の心に『繋がる力』を持っていることを知っている。それは小さい頃に歌を歌う私の、小さな小さな『力』に両親が気づき、こつこつ貯めていたお金で通わせてくれた、王都の学院で学んだからだ。
私の『繋がる力』は細くて、力持ちとしては中途半端なものでしかなかった。そのため王宮に召し上げられることはなく、歌い手として方々の酒場などで歌うのに重宝した程度だった。
それでも私はとても幸せだと思う。
なぜならば、自分の歌で、自分自身の歌の『力』で、両親に孝行をしてこられたから。
それとゼファー様に見いだしてもらい、巡察使という官職に就くこともできた。こうして巡察使として旅をしながら、歌で人と繋がることに幸せを感じられる。
けれど、目の前のこの娘は違う。
それまで生きてきた世界を離れ心細い中、未知の国に来た途端に苦難の旅を強いられて。親以外に頼る同胞もおらず。
『力』についてなにも習っていない、なにをしているのかも判っていない。不安がないはずがない。
それなのに。
まだあどけなさを残すこの少女が、歌い始めた途端に変身したのだ。
見た目が変わった訳ではない。まるで、中身ががらっと別の人格に入れ替わってしまったかのように、堂々とした立ち姿で。けして通る声ではないのにも関わらず、その声に色を纏わせて。
すぐそばで、我が事のように喜び勇んでいる二つの異種族。これもあり得ない。ゼファー様ですら、長い年月をかけて信頼を得てきての結果を、目の前の少女はいとも容易く塗り替えた。
『言葉の力』を無意識に操っている、いや綾取っているのだ。
背筋を知らず知らずに汗が伝わっていく。
この、眩しいまでの輝きの原石が、私の目の前にいる。
腕に抱くこの少女を、守り護らなければと強く思った。
すごお~い熱狂の続く中、ようやくみんなから解放された。ふう~、なんだか疲れた。ちょっと普通の疲れ方じゃないくらい、くらくらする。
そんな私を、マイヤさんが優しく支えてくれている。さっきの言葉から、マイヤさんの私を見る目が変わった気がする。よくはわからないんだけどね。
あらためて周りをよお~く見てみると、穴掘りグマさんたちがわんさか集まってくれている。その中には、コルドレさんとも仲良しの人たちもいるみたいで、話が盛り上がっている。あれ? 全部じゃないけど話が理解できるよ。しゃべっている言葉は普段私たちが使っている言葉じゃないみたいだけど。
コルドレさんが話をしていた中の一人を連れて、私たちの方にとことこと近づいてきた。
一緒に来た人は、コルドレさんよりもだいぶお年の方みたいで杖をついている。毛並みはふんわり感が薄れてしまっているけど、濃紺の長いお洋服……チュニック? を着ていて偉い人なのかなあ、コルドレさんがすこおし遠慮がちに接しているみたい。
マイヤさんが前に出て、チュニックを着たご老人に対して軽くお辞儀をしながら、前に手を組む姿勢をした。右手が上にきているのが見える。
それを見たご老人が、同じようにお辞儀をする。なんだか儀式みたい。
お互いが目を見ながら笑顔を交わすと、緊張が解けるのがわかった。ふう。
「王国地方領巡察使マイヤ・ミレン、長老にご挨拶申し上げます。出会いに感謝を」
「あまざさのもり、あなほりのコラダン、まいや・みれんに、あいさつをおかえしする。つながりにかんしゃを」
おおう、なんだかとおってもカッコいいごあいさつだね! 映画で見たことある感じ。
「此度は、皆様方にお集まりいただき感謝いたします。ライブショーはいかがでしたか?」
「ほう、らいぶしょー、よいひびきのば。ふえのね、たいこのおと、うた、こえのいろ。みなたのしんだ。とんとなかかったこと、こころはれたおもいじゃ」
マイヤさんが私のほうを見て、にっこりと笑いかける。私もお返しににっこにこした♪
「そこなるおじょうにも、あいさつを。であいにかんしゃを」
え、え~と、私にご老人……コラダンさんがおなじように挨拶してくれたよお。おんなじようにお返しすればいいのかな? できるかなあ。
「え、えと。私はコトハ、コトハ・アマクニって言います。コトハって呼んでください。あ、繋がりに感謝を?」
ちょっと噛んじゃった。通じたかな?
「おほっ♪ ちいさいひと、じゃがおおきい『ちからもち』。よいうたいてじゃ。あなほりみな、コトハのとりこ♡」
コラダンさんが、おっきなややくすんだ黒いツメのある手で、私の頭をわしゃわしゃした。痛くないよ、愛情がこもってて優しいわしゃわしゃ。思わず目を細めて味わっちゃった♪ でも、『力持ち』はちょっとねえ?
そんな私の肩に、ふわふわ~ってゼおじいちゃんが乗っかってきたよ。肩乗りインコならぬ肩乗りカード。重くないけどどうなの?
「久しいのう、コラダン。息災なようでなによりじゃ」
「ゼさま? ゼさま、どうした。うすくなった、もうあちらにいったのか?」
カードの中でずっこけるゼおじいちゃん。
「故有っての。じゃがまだわしはこちら側じゃぞ、体がかるうなってよいわ」
なんだかず~っと前からのお知り合い、というか親友? みたいな気安さが良い雰囲気だね。
よっちゃん、元気にしてるかなあ。お手紙出したい。会いたい。
「コラダン、こうして集ってもらったのには理由があっての」
そう言ってゼおじいちゃんは、甘笹の森を指差した。
「お前さん方も判っておるように、この森の笹はもうだめじゃ。あの色なしの仕業で生気が失せておる。そこでそなたらに尋ねるがの。もし、山向こうに同じような甘笹の森があるとしたらどうするかの?」
ここが正念場とばかし、向こう側に行くことを説得にかかる。
「やまむこう、こえるのはむりじゃ。あなほりのちから、ゼさまは、のぞむのか?」
「そうじゃ。察しが良くて助かるわい。そなたらにとっては、甘笹の森に赴くがため。無事着いたあかつきには、巡察府を通じてそなたらの移住を保障しようとも。わしらにとっては、ぜひとも向こう側のウラヌールに急ぎ参らねばならぬのじゃ」
そう説明するゼおじいちゃんを、コルドレさんも応援する。
「コラダンさま。コルドレ、イルマリ、フィルフィリ、みんなたすけられた。いろなしから。あまいものいっぱいくれた、やさしいサクヤ、しんのともフミャアキ、そしてコトハ。ヒトとみんなのつなぎて」
んん~、なんかまたまた持ち上げられちゃってるような? ど、どうしよう。
「あいわかった。うけたおん、かえすのはだいじじゃ。あまざさのもり、わしらのいのち。ともにいこう」
コラダンさんがそう言うと、みんなで肩を叩き合ったり踊ったりした。やっぱりどんちゃん騒ぎになっちゃうよね、このメンバーなら。
ほんとにウホッホ族のみなさんも、穴掘りグマのみなさんも陽気であったかくて、心の優しい素晴らしい人たちばっかり。出会えて良かったし、これからもずう~っと仲良くしていきたいな。
そうだ、トンネルが出来れば行き来もしやすくなるから、ウーハさんともまた会えるし。今から楽しみだな♪
毎度ご贔屓にしてくださり、ありがとうございます♪
ふう。どうでしょう、これでようやくウラヌールに着きますよ!
タイトル詐欺にはならずにすみそうで……ごっほごーぎゃん。
次回すぐの投稿で、状況説明の閑話。
ではでは!