ライブショー。
作者想定の外で、ライブショーが開催されます。さて、成功するんでしょうか?
【追記】お! 久しぶりのパパ回……もとい、フミァアキ回。
ぷぷっ!
◇◇◇
さて、いざライブショーだ! って何をどうしたらいいんだ?
第一、ライブってイメージはどうなんだろう。自分で言っておいてなんだけど、語彙力のなさを痛感したね。もう少し他になにか、適した言い方はなかったもんかなあ。はあ。
マイヤ・ミレンさん……マイヤって呼んでくださいね♡ って言ってたから、そのマイヤさんからいろいろ話を聞いたけど、けっこうこちらでも俺たちの話題で持ち切りになっていたんだそうだ。
そりゃ話題にもなるだろう。三週間近く音信不通で、転送先の店からは間違いなく『船運び』したと報告があがってきている。運んでもらう料金は既に向こう側で支払われているんだから、責任問題にもなりかねない由々しき事態だ。ん? どことどこの問題になるんだろう。日本とこっち側? だとすると外交関係があるのかなあ。むむ。
マイヤさんが所属する巡察府でも捜索指示が出ていて、マイヤさんを含め何人もの巡察使の人たちが捜索に当たってくれていた。しかし行方は杳として知れなかったらしい。そりゃあそうだよな、まさか山脈の裏側、忘れられた土地の廃れた『船運び』屋に転移していたんだから。
これからどう探していくか途方に暮れていたところの、この強制『船運び』。さぞかし驚いたことだろう。こっちは目の保養になっちゃったけど……げふんげふん。
これから俺たちの旅に同行して、いろいろフォローしてくれるからとてもありがたいと思う。特に、コトについては相当心配してくれていて、なにかと面倒を見てもらえそうで安心だ。『力』について、正確なとこが判ってない俺には、そもそも荷が重過ぎるようだしな。
「らいぶ、とはとても興味深い言葉ですね。私たちには聞きなれない響きですが、歌い手と聞き手が一緒になって盛り上げていくような、そんな言葉に感じます」
マイヤさんがそう言ってくれて、すこおおしだけほっとした。
「そうなんですよお、ライブって生の演奏や歌が間近に聴けるから、とても人気があるんですよ♪」
そうサクヤがマイヤさんに説明している。ほうほう、それは酒場で歌うようなものですね? と納得したようで、
「では今回は目の前にお客様はいないですが、すぐにでもそばで聴きたい、一緒に参加したくなるような、そんなライブにしましょうね!」
お? 理解がすすむとニュアンスも変わるのか、こちらへの伝わり方も変化するようだ。不思議だなあ、言葉って。
ここからは、どうやれば方々に散らばってしまった穴掘りグマに伝わるようにするのか、どのような構成にするのか、そんなことを相談しているうちに暗くなってきた。相変わらず小さい方の太陽は沈まず、真っ暗にはならないのがありがたいっちゃありがたい。この旅でもう慣れたし。
火を囲んでみんなで夕食をいただく。甘笹はだめだが近くで筍が旬だったのかたくさん採れたので、肉巻きにして食べたり、水煮にした筍を焼いてバターを少し落としてステーキにしたのも評判が良かった。すっかり料理がみんなの胃袋をつかんだみたいで、サクヤも満足げだ。マイヤさんは初めて筍を食べたのか、最初は苦味を気にしていたけどそこは旅慣れた巡察使、作るそばからウホイと争って食べまくっている。
「お~い、ウホイ。少しは遠慮してあげろよな、お前食いすぎだぞ」
「なにいうか、フミャアキ! たべるはたたかい。うまいはしあわせ。ゆずれないたたかい。ウーハだけ、おれまけるのは」
俺とウホイ、コルドレももうさんづけするような仲じゃあなくなって、今では種族を超えた絆みたいなものを感じる。なにげに会話もしやすくなってきた。不思議なもんだ。
大きい太陽が昇り、朝の支度が済んで朝食を食べ終わったらいざライブ。
音楽は、コルドレが得意だという笹笛に俺も参加する。心許ないけどないよりはましだな。ウホイたちみんなで鍋や釜を叩いて太鼓の代わりにする。コトとマイヤさんは当然だけど歌担当だ。マイヤさんはあちこち旅をしているだけあって、歌のレパートリーも多いそうだし。
あ、なにげにコトが緊張している。異世界のとは言え、本物の歌手との競演だからなあ、俺は応援するしかない。笹笛頑張るぞってじいさん(隠者のゼな。本名は変わらず秘密だそうだ)がなにか言いたそうにこっちにふわふわやってくる。しかし器用なカードだ。
「フミアキよ。いや、フミャアキじゃったか(ぷぷっ)。わしからも少々提案があるんじゃが」
じいさんがなにか使えそうな手があるらしい……なんかすごお~っく引っかかるけどなっ。続きを促すと、
「今やわしは、コトハのおかげでカードの中を自由に移ろえるようになっておるでな。そこでじゃ、このライブに参加できそうな者を数人、連れてこられるがどうかの?」
そりゃぜひお願いしたい。賑やかし程度でも、いるのといないのとでは大違いだもんな。
まず笹の森のすぐ横、穴掘りグマが掘った岩穴のそばの開けた場所に、カードの『力』を使って場を作り径を繋ぐ。
作られた場に、ウホイたちとコルドレが広がって座る。俺もその横で、じいさんのカードを前にした。
じいさんの後ろから、他のカードの人物が数人現れる。
『ペンタクルの二』から、お調子者が手に持つペンタクルをシンバル代わりに。大丈夫か、浮かれすぎてる気が……。
『ワンドの四』からは、カップルが仲良く手を取り合って歩いてくる。……何しに来たんだ?
『世界』の中の女性が、両手のワンドをバトンに変えてチアリーディング……って裸だよ? なんか服着ようよ! ね?
『審判』の天使が、ラッパを手にしている。やっとまともそうなのが来てくれたよ。ふう。
『吊された男』。お前は来なくていいぞ。 杭抜いてぴょんぴょんすんな! 良い笑顔したからって娘はやらんぞ?
最後は『愚者』だ。相変わらずどこ見てるんだか判らない。
じいさんよ、あんたの求心力よっぽどだな!
まあいいや。賑やかしにはなるだろう。
まずは、ラッパによる開始の合図。
ラッパの音が、甘笹の森はおろかはるか彼方まで響き渡る。とてもカードの中から出るような音じゃないぞ? どうかしてる。チートか?
俺とコルドレ二人の笹笛は、ごく普通のもの。あのピィ~ッて音以外のなにものでもない。さっきのラッパとは大違いだ。なんだかなあだ。
とりあえず音が出るだけ良しとしよう。フィルフィリちゃんがキャッキャッ♪ と喜んでくれてるのが救いだよ。種が違っても、やっぱり子供は可愛いもんだ。よしよし。
それからは、コトが作ったウホッホのうたをみんなで演奏し、みんなで踊って場を盛り上げていった。
ん? ちらほら見かけない顔ぶれが増えているような……おおう、穴掘りグマたちが集まりだしたぞ! まだ数は少ないけど効果ありだ。
みんなこの様子に気づき始めたのか、熱の入れようが半端なくなってきた。少し盛り上がりすぎかな?
この辺でいいだろうというとこで、演奏の音が小さくなる。カードのラッパも、お調子者のシンバルも空気を読んで大人しくなる。
ここからは、コトとマイヤさんによる歌の披露となる。まずマイヤさんがしっとりと、ウラヌール地方の風土や住んでいる種族のことを歌い上げる。
どうやら、元々は穴掘りグマやウホッホ族のような種族が多く住む土地らしく、人族は最近になってから入植し出したらしい。
マイヤさんの歌は、入植の苦労や厳しさよりも他種族の思いやりや優しさを讃えるもので、コルドレやウホイたちもみんなで聴き入っている。
そうこうするうちに、コトの番になる。
マイヤさんが優しく手を取って、舞台にコトを導く。
さっきまでは緊張からか硬い表情だったけど、それが嘘のように冷静で少し驚いた。
マイヤさんが下がり、コトが一人で真ん中に立つ。心なしか、コトにだけ光が多く降り注いでる気がする。
♪ だいすきなばしょ
かぜがやさしく ほおなでる
はずれのおとが ここちいい
さやさやさらら
さやさやさらら
あまいかおり はなくすぐる
きょうあのこと あえるかな
さやさやさらら
さやさやさらら
あまざさのもりは
だいすきなばしょ
コトの声はけして大きくはない。どちらかというと口元で転がる鈴の音色に似ている。そのぶん、みんなが耳を澄まして聴き入っている。しんと静まった中で、コトの声だけが響く。
やわらかな甘い匂いを纏った声色が、辺りにゆっくりと広がっていく。
ほうっと、聴衆から息が漏れた。かなり人数も増えていた。
♪ はなて
ひかるのは
なみだのしずく それとも
ひびくのは
いたむこころ それとも
いまをかなしむひとがいる
あしたをうれうひとがいる
どこにもないばしょ
なんにもないいきかた
てをのばして ほしをつかもうとしたんだ
みつめるさきには はりさきのほのあかり
はなて
ちっぽけなじぶんのこころ
はなて
こころのねっこのゆみやで
いまにふりまわされなくていい
あしたなんかわからなくていい
きづいたらちがうけしき ひろがり
ふりかえると あしあとひかってた
はなて
ゆめにのせたおもいのちから
はなて
ライブショーは割れんばかりの拍手と、マイヤさんが感極まって抱きしめたコトを、我も我もと詰め寄る聴衆の熱気で大成功の幕を閉じた。
いつも先行きの判らない(不安な?)この作品を、やきもきしながらご覧になってくださっているみなさま。
大感謝でございます。
ようやく宿屋のあるウラヌールに行くための足ががり? 手立てを掴むとこまできました。
次回、トンネル開通からようやくウラヌールに到着! まで行けるかなあと。あ、お約束はちょっとですね……もごもご。
ではでは次回をお楽しみにどうぞ~♬




