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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第一部 第四章 ウラヌールへの道。
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巡察使。

【追記】パパさん回だよっ!

「ゼ!」


 声を揃えて呼ばわれた当の本人は、カードの中であちゃ~という具合に頭を抱えていた。


 じいさん。もう逃げられないぞ。


「じいさん。隠者のじいさん。あんただ、あんた。隠れないっ! ランタン消さないっ!」


 岩やランタンを指で隠すと、それ以上干渉できなくなるようだ。初めて知ったよ。


「もうはぐらかすのは止めて、事情を説明してもらおうか?」


 俺が怖い顔をして睨んでも、あまり効果が得られないみたいだ。仕方なく俺はコトを呼んだ。


「コト。このじいさんになんか言ってやってくれよ」


 コトが困った顔をして、俺とカードを見比べる。俺は両手を合わせ、拝みたおすつもりで。一方でじいさんは、観念したのか諦めモードに入っているようだ。あと一押し、コト、頼む。


「ん~、もうっ! 仕方ないなあ、ふう」

 

 そう言って、コトが優しくカードを両手で包むように持って話しかける。


「おじいさん。おじいさんって、ゼさんっていうのね?」


「……」


「違うの? それとも、コトのこと、きらい?」


 こくんと首を傾げる。その仕草、よお~しっ!


「きらいではない……」


「じゃあ、なんでお話ししてくれないの? ゼさんは、私やパパがそばにいなくても、自分で動けるししゃべること、できるはずよね?」


「む? あ、ああ……」


 コトが涙ぐんでいる。じいさん、ぶん殴ってもいいか?


「あのね、私はいいの。来たいって言ったの私だし、パパが封印? してたおじいさんたちを起こしちゃったのも私。どんなに大変だってへっちゃら。」


 涙をこぶしでぐっ! って拭くと、


「でもね、だからね、少しでもパパの背負っている悩みを軽くしてあげたいの! ママとおなかの中の赤ちゃんを守ってあげたいのっ! だからお願い、力を貸して」



 ちょ、ちょっと待ってくれ?


 今、なんかものすごお~~く、大事なことを言っていた気がするのは、気のせい? それとも福音?


「コ、コトちゃん、いま、今なんっ」


「パパ黙るっ! 今大事なことを話してる最中なの。邪魔しないでっ!」


 はい、すみませんごめんなさい。父さんしょぼぼ~んです。

 サクヤを見ると、にっこり笑顔で(ふるん?じゃないな)おなかをなでなでしてた。


 俺がウホイさんと踊り出してからも、コトの説得は続いていた。いかんいかん、冷静に、れ~せ~に。ふう。



「あいわかった。そうまで色をなして言を尽くされては、応じずばなるまい」


 カードのじいさんは、コトの手を離れてみんなが見える位置にふわっと浮かんだ。


「いかにも、わしはゼという名を持つ者ではある。しかし、それも過ぎしことなれば、今はこうして隠者として道を照らす者として生きておる次第じゃ」


 しゃべり出すと、じいさん、なんだか貫禄というか存在感というかハンパないな。

 装いも、鹿革のコートの下が光沢のある(サテン織りかな)生地で、詰め襟の大きめの前ボタンが縦に並んでいる。落ち着いた深緑色でズボンは焦げ茶色、折り返しの付いた鹿革のロングブーツ。明らかに貴族、それもかなり高い身分に見受けられる。


「なぜパパのカードの中で生きてるの? それにどうしてウホイさんや、コルドレさんのことを知ってるの?」


 おう。うちのコトちゃん、まったく臆することなく話してるよ。


「初めの問いには、容易には答えられぬのだ。許せよ。そこにおるコルドレとウホイ……良い名をもらったな。両名には、以前わしがこの地の巡察使であった折に会うての。いくらか手助け、と申すか関わりを持ったのだ」


 なんだかすごいの持ってたんだな、俺。初めは普通のライダーウェイト版だったはずが、いつの間にか……ああ、三年前か。あの時になんかの拍子に入れ替わるかしたんだな。おそらく。


「じゃあ教えて、どうして湖やこのささのもりがおかしくなったの? やっぱりあの、ゾーンって人のせいなの? まるでおじいさんたちが色を失って、閉じ込められてたのとおんなじみたい」


「むむ。やはりそなたは賢しいのう。そうじゃ、直接の原因は彼の者の仕業に相違ない」


 ここでじいさんが、なにか苦虫をかみつぶしたような顔をした。もしかしたらあのゾーンって奴は、このじいさんの関係者かなんかか?


「あのゾーンって人も、もしかしたらおじいさんのしていたお仕事、巡察使? っていうのをしていたのかな……」


 じいさん、あんぐりし過ぎだぞ、あご外れるって。


「……そうじゃ。あやつは巡察使の面汚しじゃ。わしが至らぬせいで、王国にもそなたらにもかような難儀を強いてしまっておる。まっこと心苦しい限りじゃ」


 そうか。とりあえずは、見えてきたぞ。



 三年前、こっちの世界で何らかのトラブルが起きて、その余波が日本にも影響して。昔にあいつから譲り受けたカードがじいさん入りのに変わり、俺の職運の無さと連動してこっちに来るよう仕向けられてて、ゾーンとやらに遭っちまうわ、宿屋のある町まで遠いわで。


 なんだか見えてきたのは、あまりにも周りの有象無象に巻き込まれて、家族揃って路頭に迷ってる姿。そのまんまやないかい!


 なんて一人ツッコミしている間に、しっかりコトがじいさんから有用な情報を聞き出していた。


「それでこのもりは、元のあまざさのもりに戻せるの?」


「いや、それは無理じゃろうて。一度なくしたものはなかなか元には戻らぬものじゃ」


「じゃあフィルフィリちゃんたちはどうしたら良いの?」


「うむ。森に拘らぬのなら、湖のほとりで暮らすがよかろう。どうしても昔と同じ森が必要ならば、心当たりがないでもないがの」


 コルドレさんたちの目の色が変わったぞ。


「ゼ、それはどこ? コルドレたちみんな。もりないとだめ。あまざさのもりでないと」


「それはじゃの、この山の反対側、つまりはそなたらの行き先である、ウラヌールに存在しておる。人里から離れた、山の裾野に広がっておる」

 お読みいただき、ありがとうございます!


 昨日中には投稿できませんでした。だから今日は、後一、二回投稿できるかも。


 では次話にて♪

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