巡察使。
【追記】パパさん回だよっ!
「ゼ!」
声を揃えて呼ばわれた当の本人は、カードの中であちゃ~という具合に頭を抱えていた。
じいさん。もう逃げられないぞ。
「じいさん。隠者のじいさん。あんただ、あんた。隠れないっ! ランタン消さないっ!」
岩やランタンを指で隠すと、それ以上干渉できなくなるようだ。初めて知ったよ。
「もうはぐらかすのは止めて、事情を説明してもらおうか?」
俺が怖い顔をして睨んでも、あまり効果が得られないみたいだ。仕方なく俺はコトを呼んだ。
「コト。このじいさんになんか言ってやってくれよ」
コトが困った顔をして、俺とカードを見比べる。俺は両手を合わせ、拝みたおすつもりで。一方でじいさんは、観念したのか諦めモードに入っているようだ。あと一押し、コト、頼む。
「ん~、もうっ! 仕方ないなあ、ふう」
そう言って、コトが優しくカードを両手で包むように持って話しかける。
「おじいさん。おじいさんって、ゼさんっていうのね?」
「……」
「違うの? それとも、コトのこと、きらい?」
こくんと首を傾げる。その仕草、よお~しっ!
「きらいではない……」
「じゃあ、なんでお話ししてくれないの? ゼさんは、私やパパがそばにいなくても、自分で動けるししゃべること、できるはずよね?」
「む? あ、ああ……」
コトが涙ぐんでいる。じいさん、ぶん殴ってもいいか?
「あのね、私はいいの。来たいって言ったの私だし、パパが封印? してたおじいさんたちを起こしちゃったのも私。どんなに大変だってへっちゃら。」
涙をこぶしでぐっ! って拭くと、
「でもね、だからね、少しでもパパの背負っている悩みを軽くしてあげたいの! ママとおなかの中の赤ちゃんを守ってあげたいのっ! だからお願い、力を貸して」
ちょ、ちょっと待ってくれ?
今、なんかものすごお~~く、大事なことを言っていた気がするのは、気のせい? それとも福音?
「コ、コトちゃん、いま、今なんっ」
「パパ黙るっ! 今大事なことを話してる最中なの。邪魔しないでっ!」
はい、すみませんごめんなさい。父さんしょぼぼ~んです。
サクヤを見ると、にっこり笑顔で(ふるん?じゃないな)おなかをなでなでしてた。
俺がウホイさんと踊り出してからも、コトの説得は続いていた。いかんいかん、冷静に、れ~せ~に。ふう。
「あいわかった。そうまで色をなして言を尽くされては、応じずばなるまい」
カードのじいさんは、コトの手を離れてみんなが見える位置にふわっと浮かんだ。
「いかにも、わしはゼという名を持つ者ではある。しかし、それも過ぎしことなれば、今はこうして隠者として道を照らす者として生きておる次第じゃ」
しゃべり出すと、じいさん、なんだか貫禄というか存在感というかハンパないな。
装いも、鹿革のコートの下が光沢のある(サテン織りかな)生地で、詰め襟の大きめの前ボタンが縦に並んでいる。落ち着いた深緑色でズボンは焦げ茶色、折り返しの付いた鹿革のロングブーツ。明らかに貴族、それもかなり高い身分に見受けられる。
「なぜパパのカードの中で生きてるの? それにどうしてウホイさんや、コルドレさんのことを知ってるの?」
おう。うちのコトちゃん、まったく臆することなく話してるよ。
「初めの問いには、容易には答えられぬのだ。許せよ。そこにおるコルドレとウホイ……良い名をもらったな。両名には、以前わしがこの地の巡察使であった折に会うての。いくらか手助け、と申すか関わりを持ったのだ」
なんだかすごいの持ってたんだな、俺。初めは普通のライダーウェイト版だったはずが、いつの間にか……ああ、三年前か。あの時になんかの拍子に入れ替わるかしたんだな。おそらく。
「じゃあ教えて、どうして湖やこのささのもりがおかしくなったの? やっぱりあの、ゾーンって人のせいなの? まるでおじいさんたちが色を失って、閉じ込められてたのとおんなじみたい」
「むむ。やはりそなたは賢しいのう。そうじゃ、直接の原因は彼の者の仕業に相違ない」
ここでじいさんが、なにか苦虫をかみつぶしたような顔をした。もしかしたらあのゾーンって奴は、このじいさんの関係者かなんかか?
「あのゾーンって人も、もしかしたらおじいさんのしていたお仕事、巡察使? っていうのをしていたのかな……」
じいさん、あんぐりし過ぎだぞ、あご外れるって。
「……そうじゃ。あやつは巡察使の面汚しじゃ。わしが至らぬせいで、王国にもそなたらにもかような難儀を強いてしまっておる。まっこと心苦しい限りじゃ」
そうか。とりあえずは、見えてきたぞ。
三年前、こっちの世界で何らかのトラブルが起きて、その余波が日本にも影響して。昔にあいつから譲り受けたカードがじいさん入りのに変わり、俺の職運の無さと連動してこっちに来るよう仕向けられてて、ゾーンとやらに遭っちまうわ、宿屋のある町まで遠いわで。
なんだか見えてきたのは、あまりにも周りの有象無象に巻き込まれて、家族揃って路頭に迷ってる姿。そのまんまやないかい!
なんて一人ツッコミしている間に、しっかりコトがじいさんから有用な情報を聞き出していた。
「それでこのもりは、元のあまざさのもりに戻せるの?」
「いや、それは無理じゃろうて。一度なくしたものはなかなか元には戻らぬものじゃ」
「じゃあフィルフィリちゃんたちはどうしたら良いの?」
「うむ。森に拘らぬのなら、湖のほとりで暮らすがよかろう。どうしても昔と同じ森が必要ならば、心当たりがないでもないがの」
コルドレさんたちの目の色が変わったぞ。
「ゼ、それはどこ? コルドレたちみんな。もりないとだめ。あまざさのもりでないと」
「それはじゃの、この山の反対側、つまりはそなたらの行き先である、ウラヌールに存在しておる。人里から離れた、山の裾野に広がっておる」
お読みいただき、ありがとうございます!
昨日中には投稿できませんでした。だから今日は、後一、二回投稿できるかも。
では次話にて♪