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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第一部 第四章 ウラヌールへの道。
34/104

あまざさのもり。

 ようやく山脈の裾野にたどり着きました。


 話的には前話の続きですが、展開上新章に入ります。


【追記】パパ回でございます。

◇◇◇


 旅の朝は忙しい。


 焚き火の弱くなった勢いを戻すのに、残っていた炭の上に細枝や松ぼっくりを入れる。枝は川と平行にして風の流れを通すようにしておく。その上に小、中、大と薪を重ね、下からふいごなんかを使って炭から火を移していく。出来れば、松ぼっくりなんかに火を移すのに、木屑なんかがあればなお良い。

 ちなみに、上に積み重ねていくのにあまり時間はおいてはいけないそうだ。煙が出てきたら、順に急いで積んでいかないと、あっという間に種火が燃え尽きてしまう。


 火の勢いがついたら、ヤカンでお湯を沸かす。それをダライや口の広い大きめの鍋に分け、水の入った桶と一緒にしておく。水と混ぜておかないのは、自分たちで調整するためだ。


 みんなを起こし、再びお湯を沸かす。今度は白湯さゆのためで、それぞれのカップに入れて渡す。そうしてまたお湯を沸かし、干した肉や鍋にする葉物を用意していく。


 顔を洗ったり、用を足したりしてみんなが戻ってくる。


 鍋に出汁が出るものから入れていき、灰汁あくをとりながら塩で味を足す。葉物を最後に入れて、持ってきた味噌をすこおしだけ溶いていく。



 いくら節約しても、当初の予定と違い持ち合わせが足りなさすぎる。そりゃそうだよなあ、だってあの転送屋から町に一番近い転送屋まではひとっ飛びで、そこからならせいぜい三、四日の街道旅だって話だったから。


 まさか二週間も道のない原っぱや岩場を歩き、慣れない食材探しに薪を集め、獲物を解体したり寝床を確保して火を囲みながらの野宿。


 これを毎日こなしながらの移動だ。男の俺でもしんどいのに、サクヤやコトにはさぞかし辛いものだろう。ましてや俺たちは、文明の利器に頼って生活していたからなおさらだ。


 改めて、この地での暮らしに思いをはせる。二人に申し訳なく思えてきて、マイナス思考に陥っていく。



「パパ! なにしてんの、手が止まってるよ。それじゃあ野ウサギさん、可愛そうだよ? 大切な命、いただくんだからねっ」


 そうだった。

 今は捕まえた野ウサギの解体中だった。コトは積極的にウホイさんから習って、自ら率先してやっているってのにな。


 俺はいまだに慣れない。家族の手前もあり、無難にこなしているって思われるよう努力している。つもりだったが、まだまだだ。もっと気合い入れなきゃなとひとりごつ。


 

 しかし、不思議なもんだよなあ、異世界って。


 現実ではあり得ないと思うようなことが、次から次へと起こる。ウホイさんとは旧知の仲みたいに酒を飲み交わしてるし、コルドレさんとも上手くやってけそうだ。


 それもこれも、コトが持っている、『言葉を繋ぐ力』のおかげだ。本当は、もっと違う名前の力なのかもしれないけど、いずれにしてもコトがまじ天使には違いない。



 食事も済み、片付けも終わって出発する。


 先頭をコルドレさんと俺。イルマリさんとサクヤは荷車の上。仲良く並んで座り、片言ながら会話が成立していて楽しそうだ。きゃっきゃうふふしてる。なにを話してるんだ、一体?


 コトとフィルフィリちゃんが、手を繋ぎながら荷車の後を付いていく。周りをウホッホ族のみんなが囲み、殿しんがりをウホイさんがしてくれているみたいだ。


 彼はとても子供好きで、この旅に同行してからはいつもコトの周りにいて、肩車をしてくれたり遊んでくれている。ちょっとだけ羨ましい。ちょっとだけだからなっ。



 湖から離れ、川縁を山脈に向かって歩く。


 かなり山裾やますそに近づいたところに、コルドレさんの言っていた、甘笹? が生い茂っていた。


「ほあ~っ、すごおく高いね! 笹って高さがあんまりないと思ってたんだけど、こんなに高いのもあるんだねえ」


 コトがぐう~んと頭を反らせる。後ろに倒れそうになるのを、ウホイさんがささえてくれる。

 おいおい、フィルフィリちゃん真似しなくていいぞ? ぽてんと後ろに転がりそうになって、ウホイさんとコトがあわあわしている。


 いやあ、コトじゃないけど大きな笹だ。


 笹ってあんまり丈が高くならないんだと思ってたけど、ここが異世界だからか、優に三メートルはありそうだ。縁取りされたような葉が、びっしりと生えている。熊笹みたいだが、甘笹? 確かそう言っていたような。


「これが甘笹の森?」


 コルドレさんに尋ねると、悲しそうな顔で頷く。なにがそんなに悲しいんだろう? 見た感じはおかしくはない。


「この笹の森で、なにかあったのか?」


「そう。あいつ、わるいやつ。あれがなでたら、あまざさ、ちがうささになった」


 おう、また出たよあいつが。この辺を荒らし回ってるのか? もしかしたら俺たちがここへ飛ばされたのも、あのゾーンってやつのせいなのかも知れない。


 隠者のじいさん、今度こそとっちめないとな。その前に、


「前と今じゃあどう変わったんだ?」


「ささ、おいしかった。あまいささ、にがいささに。なかまいなくなった。あまざささがしで、ちりぢり」


 そうか、だからリンゴンベリーの砂糖漬けを美味しそうに食べていたんだ。甘い物好きのクマさん。ふぁんたじ~だなあ。


「そうかあ。こればっかりはどうにもならないな。ただ、さっきのゾーンとやらを知ってそうなのがいるから、聞こうとするか」


 そう言って、俺はポーチから(なあでなで、ぽっ!)隠者のじいさんを取り出す。


 取り出されたカードを見るやいなや、ウホイさんとコルドレさんが声を揃えてこう言った。


「ゼ!」

 

 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 次話でまた新たな登場人物が……出てこられるかなあ。どうかなあ。


 ではっ!

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