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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第一部 第三章 町までの長旅。
29/104

色なしの悪魔。

【追記】またまたなにもないのに追記です。

 コトちゃん回てす。 

♪♪♪


 パパとウホイさんが前に出て、私たちをかばうように踏ん張ってくれている。

 その他のウホッホ族のみなさんも、私とママを守るように周りを固めている。


 みんなの緊張感や焦り、恐怖を身に感じて私も、知らないうちにがたがたぶるぶるしていた。ママが力強く横で肩を抱いてくれる。


 私もしっかりしなきゃ。みんなの足手まといにだけはなりたくない。



 強く吹き付ける風はなまあたたかくて、気持ちの悪い臭いがした。私より、ママの方が辛そうにしている。ママの手をぎゅっ!って握る。


 いよいよ風と臭いに耐えかねて、ママが倒れそうになるちょうどその時に、それは現れたんだ。気持ち悪いよお。



 風が止んで。臭いはその現れたものの周りで、渦を巻くようにしてまとわりついていた。

 そしてなにより、それは『なんにも無い』ことを感じさせる不気味な存在だった。


 その『なんにも無い』を感じさせるものが、口を開く。なんにも無いのに口がある。むむ。


『久方ぶりに参ってみたら、なにやら懐かしい顔が見えるのう。しかも変わらずに薄っぺらいのう、ぬしは』


 それは、パパの手元を見ている気がした。パパの手には、隠者のおじいさんのカードが握られているはず。カードから感じる雰囲気でわかる。


 おじいさん、変な人と知り合いなんだね。カード人生もいろいろ大変なのかな?

 私は変な感想を抱きつつ、その気持ち悪い雰囲気満載の存在に意識を向けた。


『ん? そこな娘よ、わしが気になるようだの? もそっとちこう寄るが良いぞ」


 なんだかぞぞぞ~ってしたよ? 気持ちが悪いのは臭いだけじゃないみたい。うう~。


「いえ、けっこうです! よおくわからないものには近寄るなと父に言われてますんで。断固拒否します」


『おおう、えらく嫌われたものよの。わしの魅力に動じないとは、そなたもしや、いけずじゃな?』


 やっぱ気持ち悪い~このおじさん? あ、パパがずっこけてる。大丈夫かな。



 会話があれなだけで、その存在はやっぱり異質だと思う。


 禍々しいっていうか、とらえどころがなくて底なしの沼みたいなイメージがわいてくる。その上で、なあんにも無くなっちゃうの。なあんにも。


「ほう。イメージ力豊かだのう。そなた、強い『繋がり』を持っておるな? うむうむ、それはそれは重畳ちょうじょうじゃの。久方ぶりに喰らいがいがありそうじゃわい」


 やっぱり怖いこと言ってるよお。


 パパとウホイさんが身構える。私を守ろうとして、他のウホッホ族の人たちも輪になってくれている。


『お~お~、殊勝なことじゃのう。このわしに刃向かおうとはの』


 そう言って、身にまとう嫌らしい臭いのする風をこちら側に向けて叩きつけてくる。

 パパたち全員が、木の葉のように吹き飛ばされてしまう。ママはその風を受けて、その場でくずれ落ちてしまった。


 立ってその場にいるのは、私と目の前に悠然と漂うようにしている気味悪い人。漂うように見えるのは、姿自体が揺らいでいるんだ。よおく見ると、透けているみたいに向こう側がうっすらとだけど確認できる。


『さあ、邪魔者はのうなった。ゆるりといただこうとするかの』


 そう言って手を私に伸ばしてくる。


 さっきパパが作っていた薄い膜みたいなものはもう無い。私は恐怖と気持ち悪さに、身体がちっとも動いてくれようとしないのを傍観するみたいに感じていた。

 もう少しで私に手が届こうとするその時に、二つのことがほとんど同時に起きた。



 パパが持っていたカードの、隠者のおじいさんがすぱ~んっ! って飛んできて宙に浮かび、その手に持つランタンで辺りを強く照らし、目の前の存在から揺らぎを剥ぎ取った。


 私の胸の前で、黄色いあったかあい光の波がその揺らぎの無くなった手を伝わり、気味が悪い存在の身体全体に広がっていく。


『なにをするのじゃ! わしを拒絶出来うるものではあるまいに。それともなにか、さようなまでにこの娘が大事か』


 慌てて手を引っ込めた割には、強気な姿勢を崩さない。私が言うのもなんなんだけど、見苦しい。


 私は胸に感じるぬくもりに感謝して、光を放ちながら宙に浮かぶカードを手に取った。


『ゾーンよ、久しく会わぬうちに気色悪さがいや増したな。今のわしにはこれくらいしか出来ぬが、しかしてこの娘は、きさま程度では喰らえぬよ』


 隠者のおじいさんが、朗々たるお声でそう言った。すんごおく深みのある、威厳? を感じさせるお声。し、シブメン♡


『ぬう。確かにわしも本調子ではないからの。仕方がないのう、ここはぬしの顔を立てて引いてつかわそうではないか。』


 そう言い終えて、風と臭いと一緒に霧散するように消えていった。消え去りながらボソッと、


『ま、立てるほどの厚みがないがの……』


 だって。失礼なやつ! ぷんぷんだ。



 湖に色が戻り、光が湖面を照らす。


 吹き飛ばされたみんなも集まってくる。怪我はないみたいでほっとしたよ。ふう。


 パパが急いでママのところに行って跪く。助け起こされたママが意識を取り戻したようだ。大丈夫そうで一安心だ。


「コトごめんな、守れなくて、パパは……」


「ううん、パパありがとう。パパが作ってくれた守ってくれる膜があったから、隠者のおじいさんが間に合ったんだよ」


「そうか……なによりも無事で良かったよ」


 そう言ってパパが私を抱きしめた。いやあな気分はだいぶ薄れてきて、私も軽く抱きしめ返す。


「もう出とこないよね? 私、だあい嫌い。ああいうの」


「とりあえず今すぐには出てこないんじゃないかな」


 ならいいんだけどね。そのうちパパも隠者のおじいさんも、詳しく教えてくれるようになると思う。

 このままでは終わらないだろうからね。

 いつもお読みいただき、感謝です!


なんとか今日中に投稿できました。


次回は、もう少しゆるふわにもどれるよう、祈りましょう。頼むよ!

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