色のない湖。
【追記】前書きないのに追記とは……。
え~パパ回でございます。
◇◇◇
ウホッホ族の集落を出てから一日、ススキヶ原を過ぎて出てくる森林を抜けてしばらく歩くと、風景が一変した。
湖に近くなったせいか、地面が水気を含んでじゅわじゅわと沈み込むようになってきた。このまま行くと、荷車が進めなくなるのではないかと心配したけど、そこまでにはならないですみそうだ。
辺りには、サクラソウに似た赤い花が一面に咲き誇っていたり、ツツジのような花が、白い花を寄せ合って毬みたいに咲いてもいた。
咲耶は、なにやら赤っぽい実を採っている。たぶんコケモモ、リンゴンベリーとも言ったっけか。かなり多く自生しているようで、ほくほく顔で集めている。
コトはなにやら考え込んでいる。ポーチが言ったっていう危険について、コトなりに思うところがあるんだろう。
俺はそのポーチから(色が黒から紫に、今は赤に近くなっている。)、隠者のカードを取り出した。
なにかと世話になっているカードだが、いろいろ疑念が生じているのも事実だ。他のカードも大概だが、これだけは個性があり過ぎる。まるで本当に生きているみたいに。
隠者のじいさんは、まるで今いる場所が判るかのように身構えている。いつものローブ姿でもコトのイメージした鹿革のロングコート姿でもなく、貴族然とした格好だった。とりつく島がないくらいの完璧な装いだ。なにに対してそんなに見栄を張る?
俺が隠者のカードをコトに渡そうかどうしようか悩んでいると、横合いからウホイさんがカードを興味深そうにのぞき込んできた。
「ウホッ! ゼ! ゼ!」
ん? いつもと様子が違うぞ。なにが言いたいんだろう。カードの中のじいさんがなぜか焦ったように、ウホイさんをしっしっと追いやるようにしているのが見える。
ますますこのじいさん、なにか隠してんな? そう確信する。
目の前には、かなりのでかさの湖がその水面を揺らしている。
しかしなにか様子がおかしい。隣のウホイさんが、鼻をひくつかせて警戒し始めた。
判ったよ、違和感を感じる原因が。
光が当たる湖面。本来陽光を浴びて湖面がきらめくはずが、それがない。まったく光も色も失せてしまったように、白黒の世界。
つい最近までのタロットカードのように。
どう捉えても、関連性を疑うしかない。隠者のじいさんの表情が、更に険しいものになっている。
「コトっ、ウホイさんにどうなってるか聞いてみてくれ!」
急ぎ状況の確認に努める。
それとは別に、俺の力は弱いがカードを使えば少しは意味があるかも知れない。やってみるか?
そう思い、俺はポーチから更なるカードを取り出す。
出たカードは、
『愚者』、『太陽』、『世界』の三つだった。
この三つを使って何が出来るか。
『よをかえりみることなく
おのがままにあゆむもの
みつめしまなざしはさき
たどりつくははてのよの
うけいれられしらくえん』
これだけ言い終えて、俺は肩で息をした。
俺は『力』のある物を、『力』を行使して展開させるのは、想像以上に体力も気力も消耗するのだと改めて実感した。今までのような占いで、径を作り流れを読んで伝えるだけとは大違いだ。
俺みたいに能力の少ない、または後付けで付与されたものではこんなものなのかもしれないけどね。
わずかながらも場に、太陽から照射される色付きの保護がかかっているように感じられる。付け焼刃かもしれないが。
この間にコトが、ウホイさんから話を聞いていたようで、
「パパ、ウホイさんがね、いつもと様子が全然違っちゃってるって言ってるよ。あったかな感じがなくなってるって。これじゃあクマさん? も出てこれないって」
どうやらそのクマとやらはこの湖周辺に住むかしていて、ウホイさんは俺らにそのクマを会わせることが目的であって、この状況にはまったく心当たりがないということらしい。
そりゃあそうだよな。あのウホッホ族が嘘やだまし討ちをするはずがない。そんなことはあり得ないって俺も思ってたさ。っていうことはやはり、この状況は俺とこの手元にあるカードにまつわる因縁が関係しているということになる。これは厄介だぞ。
今までの日本での出来事は、おおよそ予想がつくというか、そんな突拍子もないことが起こる余地はなかった。だって少なくとも表面的には、現代日本では理屈で証明できないことは起きない。くらいの認識がされていたからだ。実際にはそうではないにしても。
何かあるたんびに、俺は自分の持てる知識や経験で乗り切ってきた。カードに頼り切ることはしなかった。そうしなくても何とかなると思っていたし、また怖かったからでもある。
しかしここは異世界だ。転移? する時のトラブルも、旅での出会い、コトの『力』の目覚め。今までは考えられなかった不思議なものが、あちらこちらに満ち満ちている。
それだから、これからの展開は予断を許さないものになる。
なんとかみんなを守らなければ。
俺は一緒にいる仲間よりも前に進んで構えた。
横にウホイさんが並ぶ。
お互い顔を見合いながらなぜだか、がっはがっはと笑い合った。
風が吹き始め、色のない湖の方角からとても形容しがたい腐敗臭のようなものが漂ってくる。俺もウホイさんも顔をしかめたが、けして目を閉じたり顔を背けたりはしなかった。
風が一段と強くなり、いよいよ臭いに我慢が出来なくなってきた時に、そいつは『無』を伴ってやってきた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
決まりごとではないのですが、パパが出てくると話がシリアスに展開するみたいです。
早くパパがもとの性格のように、の~んびり、ゆたあ~りできるようになればいいなあ。作者そう思います。はい。
次回、この作品では数少ない(作者の構想上では!)悪者の登場です。それでいいんですよね?
いいみたいです(汗)。