ここってどこ?
こんばんは!
さあ、異世界、来ましたよお。
新しい章が始まります。
【追記】はい、今回は、パパ~コトちゃんです。
◇◇◇
白い光に包まれたところまでは覚えている。
あの時にたしか、咲耶が倒れそうになって……!
俺は勢いよく起き上がり、急いで辺りを見回した。
先程の出発時にいたような、同じ石造りの舞台? 祭壇みたいなところで、咲耶とコトもいるのを確認してひとまずは安心と胸をなで下ろした。
咲耶に近寄り、顔を覗くとやや苦しげな表情ではあるものの、大事はなさそうだ。横向きにして楽な姿勢をとらせて、着ていたコートを脱いでそっと掛けた。
コトの方は、少し動きがあったのでもうそろそろ気がつきそうだ。肩を軽く揺すると、
「う~ん、あ、パパ。ここって……ママ、ママはっ?」
「落ち着くんだ。大丈夫、ママも一緒だよ。まだ横になってるが問題なさそうだから、安心しなさい」
かなり気が動転しているからか、コトの周りからなにやら尋常ではないレベルの力? が流れ出ている。それが段々と多くなっていき、自分でもどうしたらいいのか判らないのが余計に事態を悪い方向に進めてしまっていた。
ママママと泣きじゃくる声が、めちゃくちゃな色合いを生み出しては、辺りの空気を重く沈痛なものに変えていく。かなりまずい状況だ、これは。俺みたいに弱い力しかなければどうということもないが、これでは本人どころかまだ横になったままの咲耶にも悪い影響を与えてしまうかも知れない。
俺はなんとかしようと、コトの肩を強く掴みながら止めるよう声をかけたが、コトの発する声色にたちまちのうちに掻き消されてしまう。どうすること出来ない自分が情けない。
仕方ない、コト、許せ!
コトの頬を叩いた。
力の加減はあまり出来なかったかもしれない。はっ! っと口を閉じ、コトがこちらを見る。
ぐしょぐしょに濡れそぼったコトを抱きしめながら、俺はかける言葉もなくただ背中をごしごしと強くなでた。
♪♪♪
目を覚ましたらパパがいて、ママが倒れていた。
パパは心配ないって言うけど、どう見ても普通じゃないよ。横になってパパのコートを掛けられてるママの顔色は、お世辞にも良いとは言えない。色白で優しい目をしてて、ぷっくりとした目の下、涙袋だっけ? がとおってもチャーミングで。
それが顔色が蒼白で、目の下が黒くクマのようになってるのは、私にとってはあまりにもショックが大きすぎて、自制できなくなってしまった。
私は泣いてわめいて、自分のことばっかりでママのことさえ忘れて、ただ暴れていただけだったんだ。こんな感情のままじゃいけない、わかってるのにどうにもならないくらいに自分を見失っていた。そんな私をパパは、
「コト、許せ!」って言って、ぶってくれた。
その痛みよりも、パパの苦痛の顔とママの苦しい顔を見る方が何倍も痛い。私ははっと気を取り直した。
「ごめんなさい、パパ、ママ。私、しっかりしないといけないのに。ごめんなさい」
パパに抱きしめられながら、周りにばらまいていた悪い感情の色を散らすように意識を集中させた。
ようやく重い空気が流れ、辺りが静まった頃ママがう~んと片肘をついて起き上がった。ママ、よかったあ!
パパが強くなでてくれてた手をどかしたので、私はママに飛びつこうとした。
でもママは、おなかをかばうように私を優しくいなした。
「コトちゃん、ごめんね、ママは今は……」
あ! わかったよ、ママ。今初めて理解した。
「うん、いいの。ママ、その、大丈夫?」
私がおずおずとお腹に手をあてようとすると、ママが疲れた顔してるのに優しく微笑んだ。そして私の手を取りながら、おなかにあてさせてくれた。
「大丈夫、大丈夫。コトちゃんとおんなじで、元気よ。でも、あのぐるぐるには参ったわねえ」
よかったあ。ほんとによかった。
改めてママのおなかのあたりを見てみると、確かにすこおしふっくらしてる。今どのくらいだろ?
うん、今度はなんだかものすごおく! 嬉しくなってきちゃったよお♩♪♬
ママがメッ! ってしたので、あわてて口を閉じる。なんかしょぼ~んだね。ごめんなさい、浮かれすぎちゃったよ。自重だね。
私たちの様子を見るともなしに見ていたパパは、なんだかわからないなあって感じで立ち上がり、周囲を調べ始めた。
うん、まだ内緒にしとこうね。
ママと二人してにやにやしていると、調べていたパパが近づいてきた。散乱していた荷物も回収してきてくれたようだ。ありがと、パパ。
「どうやらここは、あまり使われてない場所のようだな。ホコリが積もってるし、ところどころ風化? してるみたいに崩れてるみたいだ」
そう言われてみれば、周りの空気もホコリっぽい気がする。とりあえず、ママの体調にも悪そうだから荷物をまとめてここを出ることにした。
扉らしき場所をくぐり抜けて、となりの部屋に移る。
なんだか、うち捨てられてからだいぶ経っているみたい。作りはあの『船運びの店』とおんなじ感じで、カウンターがある。そこには、え~とパルノさん? が持っていたみたいなのが何個か置かれていた。
なんだろ、これ。クリスタルっていうのかな、片手にすっぽり収まるような大きさで、ほとんどが無色透明でなんの力も感じられないものだったけど、中には、中心付近にちらちらと光が閉じ込められてるものもあった。
パパは、そのちらちらのをカバンの中に入れると、他になにもないのを確かめてため息をついた。
「はあ~、あれだな。あの店員が言っていた不確定要素ってやつか? なんらかの力が働いて、予定されていた場所と違うところに飛ばされたみたいだね」
人気も無いし、この廃れようじゃあかなり長い間放置されてたのかもしれない。だんだん不安が募ってきたけど、無理矢理押さえつけた。
このままここにいても、助けは来ないだろうなあ。ってパパがつぶやいている。私もそう思う。
「パパ。カードさんたちに教えてもらお? このままここにいるよりは、やれることやらないと!」
「ああ、そうだな。それが良いね。よしっ、ここはいっちょうかっこつけてやってみようか!」
そう言ってパパは、ホコリの積もったテーブルの上を吹き払い(せ~だいにむせ返ってたよ、パパ……)、なにやらいろいろ書き込まれたハンカチ? みたいな布を広げた。
その上で、タロットカードさんを分けてまぜまぜし始めた。
ここにないみち みえないみち
ここにあるいし いのちのいし
みちびきおしえ しめされん
われらのゆきしち ウラヌールを
こうつぶやきながら、まぜていたカードさんから数枚を選び出して場に並べていく。その上にさっきしまったクリスタルみたいなのをひとつ、空いてる真ん中に置くと……。
たぶん先っぽ? 尖ってる方が一点を指した。
窓から指した方向を見ると、大きくてとてつもなくたかあい、たかあい山の連なり、山脈だろうね。そちらを指し示していた。
いやあな予感がするよ。思わず、パパとママの手を握る。
あれえ?
ゆるふわの作品のはずが、なんだか重いぞ。。
次回もこんな感じで始まりますん。