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ウラヌールの宿屋さん ~移住先は異世界でした~  作者: 木漏れ日亭
第一部 第二章 町で、宿屋さんを営みませんか?
20/104

旅立ちの日。

 ふう。


 やっとでけた。


 ではどうぞ~♩♪♬


 【追記】今回は、パパ~ママ~コトちゃんとなっています。それぞれの気持ち、伝わりますように。

◇◇◇


 俺たち天国家の家族は、職安の葉山さんからの紹介で(本名は、マヤル・ハヤームさんというそうだ。)、三年間住んでいた埼玉の団地を引っ越して、宿屋を営むことになった。


 準備することは山ほどある。


 職場と住まいの処理は書類上のやり取りですむけど、パートのお姉さん方の身の振り方を、職安と話し合ったりもしないといけない。


 衣服や家電製品などは持って行けないので、処分したり売ったりしないと。少しずつ思い入れのある物ががなくなっていく。

 着なくなった服、衣装ダンス。コトの勉強机や、ソファーや家具類。家電製品なんかは、引っ越す直前にまとめて回収に出すことになっている。


 そして、数多くの本と買い足して増えていった本棚。


 残念ていうかなんていうか。やっぱり俺にとっては、他の身の回りのものも大切だが、それ以上に愛着を感じる。思い入れが違う。

 なるべくゴミとして出すんじゃなくて、図書館やコトの学校に持っていく。


 楽しんで読んでくれる人のところに。あるべき場所に。



 コトの卒業式は、一生家族全員の心に残るだろう。


 向こうでは、まだまだ教育が重要視されてはいないせいか、基礎教育を施す機関、つまり小学校や中学校が無いそうだ。

 裕福な家庭なら、個人教授を受ける。高等教育は、大学に相当するものがあるそうだが、こちらとはだいぶ様子もちがうだろう。

 もし宿屋の経営が上手く軌道に乗り、安定した生活が出来るようなら、コトには好きなことをしてもらいたい。高等教育を受けるもよし、宿屋をやっていくもよし。他にやりたいことがあれば、それも応援してあげたいと思う。


 とにかく、俺は出来るだけでーんっ! って構えていこう。大黒柱たる者、まっすぐに安定してないとな。



♡♡♡



 これから忙しくなるわあ、出発する日まであんまり日にちがないものね。私は、しなくちゃいけないことを一生懸命考えたの。


 まず、衣類の処分ね。

 私の服はどうでもいいの。と言っても、必要最低限のものと冠婚葬祭用のはいるわね。コトちゃんのはい~っぱい持っていきたいけど、無理そう。残念だなあ、コトちゃんあんなに可愛いんだもの、似合う服は絶対必要だと思うんだけどなあ。

 どうしても、持っていける物の数は限られているんだって(まあそうよね。近場の旅行だって大荷物じゃあ大変だし、海外なんかではもお~っと大変。)。仕方ないわね。パパにも我慢してもらわなくちゃね。


 それから、身の回りの物はどうしようかしら?

 引っ越す先は、昔のヨーロッパに似たとこみたいで、あんまり多くの物が出回ってる訳じゃあなさそう。

 そうなると、洗面道具一式を人数分と予備も必要っと。当然シャンプー、リンスとコンディショナーもね。ブラシにコームやピンやええとええと……。ま、なんとかなるわね。

 かんがえちゃだめ。かんじるのよっ。ん?


 そして、なにより大事なだあいじなこと!


 そう、食べ物どうしようかしら?

 お弁当くらいなら持っていけるかなあ。あ、おやつは欠かせないわね。

 それから各種調味料も必須と。


 宿屋さんを切り盛りするってことは、料理は私担当♡


 お客様の胃袋をがっちりつかんで、リピーター化計画発動しなきゃ!



 私にとっては今住んでいるこの町も、これから行くことになる世界も変わりない。


 家族一緒でいられれば、それだけで幸せなんだから。ね、い~こい~こ♪



♪♪♪



 卒業式まであとわずかになった。


 私もよっちゃんも、しばらく(深くは考えないようにしてる。)会えなくなるねえって言いながら、ずう~っとくっついていた。とっても不安だったんだ。


 中学校の手続き変更とかってどうするんだろ?


 だって、異世界だよ? それが普通じゃないってことくらい私にだってわかる。手続きなんてやり取りできるんだろうか。う~ん。

 よっちゃんは、私のことだから信じてくれてるけど、それ以外の人たちは信じないだろうなあ。


 向こうでは、こっちみたいにお勉強はできなさそう。


 学校自体なさげだし、今まで読んだファンタジー小説には身分なんかが関係してて、平民は読み書きも四則計算もできない人が多いっていうし。小学校でそこまで終了してる私は、他にお勉強することってないみたい。

 なんか残念って思う反面、その分お仕事を手伝えるんじゃない? って期待しているのが本音かな。


 洋服は、持っていけるものを少なくして向こうで買う予定。私のはいいから、パパとママのお揃いのパーカーや、ふんわりかっこいい、ママのロングのフレアスカートとかは持っていけないかなあ。


 生活必需品? なんかもあまりこっちから持ってかないほうがいいみたい。だって、あんまりにも良いものを持っていったらみんなびっくりしちゃうと思うし、それだけじゃなくて妬まれたり? するからなんだって。むずかしい。



 卒業式まで一週間を切って、みんながうきうきし始めた頃、私は学校の中にある図書室にいた。


 私のやってきた校内活動の一つが、図書委員だったんだ。

 学校の図書室にはあんまり読みたい本がなかったけど、返ってきた本を所定の場所に戻したり、こんな本がほしいなあなんて司書の先生にお願いしたり。なにより、生徒が書いた創作物を綴じて本みたいにしてくれて、学校文庫のコーナーを作ってくれていたのが嬉しかった。

 私の詩集や、冒険小説が何冊か並んでいる。すんごおく嬉しいし、感慨深い? ものがある。


 私が卒業しても、この本さんたちはみんなと繋がってるんだなあ。


 涙が自然とほっぺたをつたっていく。かなしいんじゃないよ。あったかあい涙だったよ。


 司書の先生から、お家の本の寄贈に対してものすごおい感謝のお言葉をいただいた。もしかして売ったら結構な値段がつくのに、本当によろしんですか? なんて聞かれたけど、パパはゆくっり首を振って言ったんだ。


「本は、読んでもらいたい人たちのところにあるのが一番幸せなんです。中には難しすぎるものもあるかもしれませんが、大きくなった時に思い出すきっかけになってくれれば」


 真新しい本じゃなくて開き癖もついちゃってるものが多いけど、そのぶん思いも入ってるからね。きっとこの図書室でも仲良く、元からいた本さんたちとも賑やかにやっていってくれるはず。


 ありがとうね、元気でね。



 卒業式の日。


 今年は例年よりも早く桜が咲いて、私たちの卒業式も嬉しいことに、ピンクや白の彩りの中行われた。


 式自体はそんなに長くは感じなかったけど、会場になっている体育館は寒くて、生徒会役員だった私はよっちゃんと仲間と一緒に(よっちゃん、ありがとっ♪)、運び込んだ暖房器具……なんだっけ、ジェットヒーター? が少なかったかとキョロキョロしてしまった。

 落ち着き無い子だと思われちゃったかな? 反省しなきゃね。


 式の後はクラスに戻るのが通例なんだけど、今年は在校生と卒業生とで企画した『旅立ちの日』っていう、お別れ会をやることにしたんだ。


 最初は、卒業生が入学してから卒業までの振り返り。写真とビデオを先生たちと一緒になって、毎日ギリギリの時間まで作ったんだ。すごおくすごおく良いものに仕上がり、会場全体が泣いちゃった人のくしゃくしゃな顔でいっぱいになって。


 次に在校生との思い出。上級生の私たちと、入学したての新一年生の初めてのオリエンテーション。運動会や文化祭などの学校行事を、学年を超えて協力しあった思い出。

 私もよっちゃんも、他の卒業生みんながわんわん泣いた。目がまっかっかだね、みんな。



 これで終わりかと思っていたら、会場内に静かにピアノの音が流れ出した。


 聞き覚えのある曲。


 私が書いた詩に、音楽の先生が付けてくれた曲だ。あれは四年生の時だったね。なぜだか合唱曲になってた。



 うそでしょっ?



 すんごおくはずいよっ! よっちゃん、どうしよ?


 わたしがよっちゃんの手をぎゅって握ると、よっちゃんも握り返してくれた。


 伴奏が終わり、在校生と私たちもなんでだか自然と立ち上がり、



♪ たびだちのひに


 おもいだす あのひのこと


 あったかい おおきなてに


 つつまれて うれしかった


 めのまえに あのひのぼく


 

 あったかでいられたかな


 つつんであげられたかな



 いまはまだみえないけど


 つながるこのみちのさき



 おんなじにみちびかれ


 あすへのきぼうをくれる



 またいつかあのおおきな


 ぬくもりになれるように



 たびだちのひに

 

 

 ピアノの音に導かれるように、みんなで歌っていた。



 ああ良かったあ、合唱曲で。

 あの雰囲気の中、もし振られていたら私なら歌い出してたかも。

 

 独りでっ!


 はああ、良かったあ。と一人胸をなで下ろしてたら、なんだかみんなの視線を感じるきがする。


 やっぱり、はずい詩だよね、今にしてみれば。


 ん? そうでないの? え、な、なにこの、びいっくり感は?


「コトちゃんコトちゃん! あふれてるよっ、あふれ出してる! お、音が色に変わって!」



 へ? どういうこと? どうゆうみん?


 私は自分の周りをぐるりんぱと見てみると。


 あふれてましたよ。



 ♩♪♬ さんたちが、たらりらら~ん♩♪♬ っていろんな音色? ほんとの色に変わって。



 会場内が、いろいれな音色という名の色に彩られ、割れんばかりの拍手の中、お別れ会が幕を閉じた(演出効果ってことで落ち着いたみたい)。



 なんでこうなっちゃったんだろ?


 もしかしたら私は、興奮したり感動したり、はたまた緊張や動揺したりしてもこんな風にお騒がせ? をやらかしちゃうように体質? 変わっちゃったかなあ。

 『繋がる力』のおかげ(この場合は、のせいだよねっ!)で。


 ふう。

 ま、結果オーライ。みんな喜んでくれたしね。



 特に、理由を知ってる三人。


 よっちゃんは自分も~って言って♩♪♬ してる。マジ天使ちゃん♡


 パパは、頭抱えながらガッツポーズをとるという、器用さんをしてるし。


 ママはいつも通りふるんふるんに♩♪♬ つけてたよ。

 あ、でもなんかこう、控えめって感じにしてる。どうしたんだろう? いつもなら満開状態なのにね。



 こうして卒業式も無事? に終わり、私たち家族はこの町を離れることになった。



 団地の目の前のバス停。


 早めに来て並んでるパパとママから離れて、私はよっちゃんと最後の、ううん、しばらく会えなくなる別れを惜しんでいた。


「よっちゃん、ほんとによっちゃんと仲良くなれて良かったあ! よっちゃんがいてくれたから、学校にもすぐ慣れたし、お友達もたくさん出来たよ。みんなみいんな、よっちゃんのおかげだよっ!」


「わ、私だって、コトちゃんと出会って、いっぱいいい~っぱいいろんなこと、いろんな経験できたよ。大好き、コトちゃん!」


 おおう、よっちゃんからあっつ~いハグが! 私も負けずにハグハグ♪

 歌ったり声に出さなければ、♩♪♬ さんたち出てこないみたいだね。ちょっとハミングしたら、ちょろりん♩♪♬ って色出てきた。


「簡単には遊びに来たりできないと思うけど、手紙書くからね、絶対!」


 どうやら、あっちとこっちは行き来が可能みたいなんだ。ただ、それが出来る場所が限られててなかなか難しいのと、その、とおっても高額なんだって。まだ向こうの生活も始まってないから、そう簡単には会いに来られない。

 でもお手紙は大丈夫みたい。そういうサービス? 転送屋さんみたいなのがあるんだって。ある意味便利で良いね。



 バスが来た。


 私たちは、これからその転送屋さんのおっきいところに行って、異世界へお引っ越しすることになってるんだ。


 別れは辛いけど、よっちゃんも私も泣かない。

 笑顔でバイバイする。


 乗車する時に私は振り返り、思いを込めてこう言った。



『言の葉 言の葉


 私の願い 形にして


 つながるきもち


 つながるしるし


 言の葉 言の葉


 私の思い 形にして』



 私の声が音になり、音色になってあふれ出る。


 それは二つのかたまりになり、私とよっちゃんの手のひらにゆっくりと、ゆうっくりと舞い降りてきた。



 黄色みを帯びた、♪形の宝石? 水晶かも。


 二人でその音符を握りしめながらお別れした。


 いつもお読みいただき、感謝ですっ!


 え~、活動報告にも書きましたが、基本この作品は、R指定やエログロは極力排除してまいります。


 そのため、ぬるい、あまい、やわい

の三拍子が揃いまくる恐れがございます。


 それでももし、その、お気に召していただけたなら。


 どうぞ次回以降もよろしくご贔屓に♡

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