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悲惨なヒーローetc.   作者: ROM-t
【開幕 ヒーローはこの社会に必要か?】
1/12

第1話

 子供のころからテレビで見てきたヒーローはまさしく英雄だった。

 人を助け、悪を倒すその姿は俺の心を掴んで離さず、そんなヒーローになれる世界が来ていたことに心の底から感謝したもんだ。

 ヒーローになるために、ただただ努力した。

 ヒーローになることしか頭に無かった。

 あの頃の俺が今の俺・・・ヒーローを見たらなんていうだろうか?


 あるビルの屋上で一人の青年が足を空中に投げ出し、ただただ青空を見上げている。


「ぼ~くらのヒ~ロ~ 無~敵のヒ~ロ~」


 口から洩れている鼻歌はどこか諦めと悲哀に満ちていた。

 キュルリリ キュルリリ

 鳴り響くブザーに呼応し、やっと動き出した青年はゴーグルのようなものを耳につける。


「はい、空幸からさち ごうですが」

「空幸さん、事件です。出動お願いします。」

「情報確認しました。出動、了解です。」


 通信を切った青年の姿が屋上から消えた。



~繁華街 大通り~


「ひったくりだ‼ 捕まえてくれ!」


 サラリーマン風の男が前を走っていく数人の男たちを追っていく。


「急げ! ヒーローが来る前に逃げ切るんだ!」


 ひったくり犯たち三人は人を押しのけ、どんどん進む。


「止まれよ、怪我したくなかったらな!」


 その声とともに手前のビルの上から一人の男が飛び降りてきた。

 白いフォルムと装甲をもつ特殊な姿をしたその男は、コンクリートの道の上に降り立ち、シンプルなフルフェイスを犯人たちに向ける。


「この御時世に馬鹿な真似したもんだな・・・さぁ!ヒーロー参上だ‼」


 ヒーローは拳を顔前で握り、バッチリと決めた。

 このヒーロー、何を隠そう先ほどビルの上でたそがれていた空幸 剛という青年である。


「ち、ちくしょう! この疫病神め!」


 犯人の一人がナイフを取り出し、空幸に突っ込んでいく。

 空幸は腕についている装甲でナイフを受け、返す一刀でナイフを叩き折った。


「やれやれ・・・次は俺の番だな。」


 剛は拳を後ろに引き、構えた。


「ひぃ! た、助けてくれぇ!」


 ヒーローの拳を受けようとしている犯人は死を覚悟し、体をこわばらせた。


「ウルァ!」


 剛が放った鉄拳は犯人の顔面にヒットした。

 しかし、犯人は吹き飛ぶどころかその場に倒れ、顔を押さえながらのたうち回る。


「うがぁぁぁぁ! 普通に痛い⁉」


 のたうち回る犯人は他の二人に抱え起こされ、来た道を逆走し始めた。


「お前、ヒーローのパンチ受けてよく平気だったな! すげぇじゃん」

「い、いやぁよ・・・確かに痛かったんだが、普通に人間に殴られたくらいに感じた・・・」

「おい、そんなことより奴が追ってくるぜ! ヒーローならすぐに追いつかれちまう‼」


 三人が振り向くと案の定ヒーローが追ってきている。

 その姿を見て、三人が抱いた思いは一つだった。


「普通に早ぇ‼」


 確かに着実に距離を詰められてはいるが、脚力に圧倒的差があるとは思えない程度であり、パンチ力と同様に人の域を超えるほどではない。


「えぇい! おとなしくしろ!」


 距離を詰めた剛は飛び上がり、急降下キックを浴びせることで三人の動きを止めた。


「事件解決か・・・」


 剛は気絶している三人を後から来た警察に引き渡し、ひったくられたかばんを男性に返した。

 男性には感謝されたが、周りのギャラリーの声はいつものことながら冷ややかだ。


「ヒーロー、弱っ!遅っ!」

「車に乗られたら逃げられてたな、こりゃ」

「最初から警察でよくね?」


 そんな批判や失笑を背中で受けながら、剛はその場を離れた。


「気にしない・・・気にしない・・・気にしたら・・・負け」


 そんなことを自分に言い聞かせながらビルの屋上に戻る途中、小学校の前を通りかかった。


「あ、ヒーローだ!」


 数人の小学生がヒーロー姿の剛のもとに走ってきた。

 普通なら子供にとってヒーローは憧れであるはずである。

 しかし、この御時世では・・・


「この、ぜいきんドロボー!」


 小学生たちは口々に言うと剛に向かって石を投げつける。

 小学生の投げる石は剛の肉体ではなく精神に深く食い込んできた。

 剛が子供たちに注意しようとした時、先ほどのように新しい要請が入ってきた。


「空幸さん、E‐3地区で火災が発生し、要救助者がいる模様です。至急向かってください。」


「え、もう次の出動⁉ 他の人たちは出られないんですか?」


「お二人は別の仕事で、他の人は現段階で連絡が取れていません」


 ヒーローの仕事は日常生活以下の意義であるという事実を突きつけられた剛はがっくりと肩を落とした。


「わかりました・・・俺が行きます」


 剛は通信を切ると現場に向かい走り出した。


「逃げんな~」


 小学生たちが飛ばすヤジが剛の足を余計に急がせた。


~E‐3 火事現場~

 燃え盛る三階建てのアパートは今にも崩れ落ちそうだ。

 その三回の端部屋から、一人の女性が助けを求めている。

 消防はまだ到着していないようだ。

 その時、女性が取り残されていた部屋から黒い影が飛び出した。

 女性を抱えた煤まみれの剛である。

 剛は女性を抱えたまま着地し、女性を地面に下ろす。


「お怪我はありませんでしたか? もう大丈夫ですよ。」


 剛はパニックに陥っている女性に声をかけ、落ち着かせた。

 またもや活躍した剛だったが、やはり周りの反応は冷ややかである。


「ヒーローが先に来たのかよ・・・火、消えないじゃん」


「消防が到着してれば済む話だよなぁ・・・」


「ただ頑丈なだけのヒーローってなんだよ」


 そう、今の御時世はヒーローに特殊能力を使わせてはくれない。

 大きな犯罪が無くなり、抑止力としてのみ存在するヒーローには必要最低限の能力しか解放されていないのである。


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