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Esiw Kcolcre Tnuoc(旧題:感謝される男)  作者: 劇鼠らてこ
フィアの街のレグレス・ツァイト
7/33

暦2048年8月28日13:00~18:30

半分くらい景観の説明回

「んー、19:00までまだ少し時間があるな……。」


 右手首に巻いてある鈍色の腕時計を見て呟く。ここ、フィアの街を含めた12の街と1つの王都ウーアには、至る所に時計がある。

 どこから写真を撮っても3つ4つは時計が映りこむくらいには、所せましと時計がかけられている。さらに住人は、思い思いの色をした腕時計を身に着けていて、就寝と風呂の時くらいしか外すことはない。なぜそこまでと聞かれても、先祖代々、親から子へ受け継がれたとしか答えようがない。

 俺のこの鈍色の腕時計も、物心ついた時から巻いていた。動力は己が魔力だが、自然回復量より少し少ないくらいしか使わないので安心だ。

 そんな時計が指し示す時間は17:00。夏場の17:00は暗くもなく、しかし油断していると真っ暗になる微妙な時間帯だ。微妙じゃない時間帯なんてないが。


「そういや最近誕生日時計を確認してなかったな……。東の森へ向かうついでにギルドへ寄るか。」


 誕生日時計。俺たちは自分が生まれた日がいつか、というものを認識していない。どんなに記憶を遡って行っても、1、2歳の頃でぶっつりと途切れてしまっているからだ。

 そして、誕生日時計は、そんな認識できない自分の誕生日を知ることができる、唯一のアイテムだ。俺たちが生まれてくる瞬間に、その時計は動き始める。その針は、対象者の死、以外の要因で止まることはなく、各街や王都のギルドに厳重に保管されている。その時計には、生まれてからの時間が刻まれていて、ギルドに申請を通すことで確認が可能となっている。

 前回見たときは確か、大体25歳。7億7千8百8十万9千6百秒だったはず。そう、この時計、秒数で出るのだ。よって大抵の人間は頻繁に確認しようとしない。そろそろ1年、ものぐさな奴は2,3年かなー、くらいの頻度で確認する。誰だって億とか千万単位の計算は面倒だからな。


★★★★


「おいっ! 被害届だ! レグレス・ツァイトという暴漢に襲われた! 対応してくれ!!」


 ギルドへ入ろうと思ったら、不穏な単語が聞こえてきたので入るのを躊躇う。俺が暴漢? 心当たりが全くないな。


「はぁ、暴漢ですか……。どういった状況で襲われたのか、どんな被害が出たのかを詳しくお願いします。」


「襲われたモンは襲われたんだよ!! 俺たちが路地裏で屯してたらいきなり襲いかかってきやがったんだ!!」


「へぇ、路地裏で……。ちなみにそれは何時くらいのことですか?」


「あん? 13:00くらいだったはずだが……。ンな事はどうだっていいだろ! 今日中に対応してくれよ!? あんな暴漢が街をうろついてるんじゃ怖くて眠れやしねーからな!」


 そういうと、声の主は俺がいる扉側に近づいてきた。やばい、隠れる場所は……。上だッ! 窓の縁に足を掛けて跳躍。屋根の上まで駆け上がる。


 バァン!


 結構大きな音を立ててギルドの扉が開いた。ギリギリセーフ!

 ギルドの屋根の上で身をかがめる俺に気付くことなく、声の主はのっしのっしと去って行った。


 危ねぇ危ねぇ。安息の吐をついていると、ギルドの扉がまた開く。


「そこで何やってるんですか? レグレスさん、ですよね? フフフ、大丈夫ですよ。ローテちゃんから聞いてますから、安心してくださいな。」


 扉から出てきたハゲのおっさんに声を掛けられる。あれ、この人、昨日ガラの悪いパーティを相手していた先輩職員(仮)じゃないか。じゃあさっきのはあいつら4人の内のだれかか。

 しかし、ローテちゃんは何を言ったのだろうか。今朝ナンパした事とか報告されてないといいんだが。


「ほら、いつまでも屋根にいないでお入りください。生憎今はギルドマスターはいないのですが、僕たちのローテちゃんを救ってくれた恩人です。お茶くらいは出しますよ。」


 よっと一息入れて屋根から飛び降りる。綺麗な着地。10点! 10点! 10点!

 んで、なんだって? 僕たちのローテちゃん? あのかわいい娘が? こんなハゲたおっさんの? ないな。うん、ない。


「あー、お茶はいらないですよ。用事を済ませたらすぐ出ますから。それで、リーゼさんとはどういったご関係で?」


 ギルドに入りながら問いかける。少し声が硬くなってしまった。ローテちゃん、なんて親しげに呼んでいるんだ。ナンパに失敗した身としては思うところがある。


「おや? ギルドマスターの本名はご存じありませんでしたか?」


 ギルドマスター? なんでここであのおっさんが出てくるんだ。あのおっさんの本名? 確か、ログ・リーゼ……。リーゼ!? 


「お考えになっている通り、ローテちゃんはギルドマスターの娘さんですよ。毎朝ギルドマスターにお弁当を届けに来るので、僕らギルド職員の中でも人気なんです。」


 あのおっさんと、ローテちゃんが親子……? どこに親子要素があるんだ? 顔。似ても似つかない。熊と兎。髪色。赤茶色の髪をしたかわいい娘。片やハゲ。ん? 待てよ? 確かあのおっさんの腕毛……、赤茶色だったような……。うげぇ、なんでおっさんの腕毛の色なんて覚えているんだ俺は。

 というかギルドマスターの娘をナンパしたのか俺は!


「そ、そうなんですね……。確かにかわいいですもんね。それで、リーゼさんは俺の事をなんと……?」


 今朝の一件なら死亡。昼間の一件ならone chance!


「えぇ、なんでも路地裏で暴漢たちに囲まれていたところを、颯爽と助けてくれたステキな人、らしいじゃないですか! 僕たちのローテちゃんが誰かと恋仲になる、なんてほとほと許容できませんが、それはともかく、僕たちのローテちゃんを助けてくださって本当にありがとうございます。」


 僕たちのローテちゃんをやめろ。

 良かった! 昼間の一件だった! セーフだ! そしてステキな人とな! これは脈ありか!? お前たちの許可なんぞ聞いてねぇ!


「いえいえ、人として、当然のことをしたまでです。無事でいてくれてよかったですよ。」


 が、外堀からも攻める。レグレス・ツァイトの紳士度を身近な人から仄めかせばいけるッ!


「あは、謙虚な人ですね。それで、要件とはなんでしょうか? 承りますよ。」


 おっと、そうだった。完全に忘れていた。時計を見ると18:20。結構ギリギリだな。


「あぁ、最近確認していなかった誕生日時計の確認申請をお願いしたくて。」


「レグレスさんの誕生日時計ですね。少々お待ちください。」


 そういって先輩職員(仮)は受付の奥へと入っていく。立ちっぱなしはデフォルトなのね。了解了解。


 先輩職員(仮)が戻ってくるのにそこまで時間はかからなかった。


「お待たせいたしました。こちらが、レグレスさんの誕生日時計になります。」


 重そうに抱えられた、金と黒のコントラストが美しい大盤の時計。1から12までの数字と、長針短針があることは普通の時計と同じだが、真ん中にドラムが何桁分も入っていて、それが現在の秒数を表している。


「えーっと、7億千5百6十5万千2百秒ですね。大体23歳でしょうか。」


 は? ん? 減ってる……? そんなはずはない。この時計は、絶対に狂わないから誕生日時計なのだ。重要な取引等で、誕生日時計に賭けて、等と引き合いにだされるくらいには狂わない時計だ。


「どうかされましたか? え? 減っている? フフ、この時計に限ってそれはありませんよ。有り得ないといっても過言ではありません。大方記憶違いではありませんか? 歳を取ってくると、結構ありますよそういうの。かくいう僕も最近は記憶違いが多くて……。」


 もう40に届きそうなおっさんと一緒にしないでくれ。

 記憶違いか……。まぁ、若返る分には問題ないか。時間も時間だし、良しとしよう。


「……、そうですね。記憶違いっぽいです。はは、気を付けないと、すぐにボケが来てしまいそうだなぁ。あ、そろそろ用事の時間なので、失礼しますね。ありがとうございました。」


 ボケ、の所で先輩職員(仮)の口元が引きつっていた気がしないでもない。心当たり有るのかな。


「いえいえ、再度となりますが、僕達のローテちゃんを救ってくださり、ありがとうございました。それでは、又のお越しを~」


 だから僕たちのローテちゃんと呼ぶのやめろ。


★★★★ 


レグレス君はおっさんに厳しい。

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