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Esiw Kcolcre Tnuoc(旧題:感謝される男)  作者: 劇鼠らてこ
ノインの村のレグレス・ツァイト
32/33

暦600年11月30日9:00~11:00

タイトル変えました。

旧題『感謝される男』

新題『Esiw Kcolcre Tnuoc』


読み方は、エシュー・コルクル・トゥノックです。


 ライヒ王国。

 12の村と1つの王都によって構成されるこの国は、たったの600年前に出来たばかりの新鋭国家だ。

 12の村長と広大な土地を持つこのライヒ王国が、たった600年でここまで発展できたのにはギルドの存在が大きくかかわっている。

 

 ギルドとは、大陸に遍く超巨大組織の俗称。

 ライヒ王国だけでなく、この星にある大陸全てに手を伸ばす管理者の権化。

 その存在が、王都ウーアを本拠地にしていた、という事が最大の理由だ。

 傍から見ればギルドが国を造ったと言われても仕方のない発展の仕方であり、なおも王族はギルドと連携を取るので邪推も深まった。


 結果。

 建国から400年――戦争が起こった。

 ライヒ王国の西側に存在するファイント。これが、全てに公平でなければいけないギルドを故意に使ったとして、ライヒ王国を処罰すると――認めなければ自国の法『ギルドの私的利用』を行使するとして、声明を出したのだ。

 しかし、ライヒ王国はこれを突っぱねた。

 そのような事実は無いし、そもそもファイント如き(・・)の法律に縛られる意味も無い、と。

 建国からわずか400年のライヒ王国に対し、ファイントは3000年の歴史を持つ大国家。

 ファイントがライヒを如き扱いするならともかく、ライヒがファイントを下に見ると言う事件にファイントは怒り狂い――攻め入ってきた。

 それが200年前。

 暦400年に起きた、ライヒ王国最初の戦争のあらましである。


 そしてそれは現在、暦600年になる今でも続いている。











 今年が終われば200年になるこの戦争は、最早泥沼だ。

 ファイントも弱小国家としか見ていなかったライヒがここまで粘るとは思っていなかったらしく、自分達から仕掛けた手前引くに引けなくなっている。

 逆にライヒ王国はそもそも自国を守ることが第一優先で、わざわざ遠征してまで攻め入る必要が無い。相手が強大である、もしくは余りにも弱小であるのならそれも手の一つかもしれないが、一番大きいとはいえライヒ王国に或る12の村の内のたった一つ(・・・・・)に止められる程度の大国など、あまり重要視をしていないのだ。


 そう、ファイントと真実闘っているのは村一つ。

 名をノインと言う、ライヒ王国の最西端に位置する村だ。

 アインスのように交易に秀でたわけでも、ツヴァイのように学術が発展したわけでも、ドライのように自然に満ちるわけでも、フィアのように木材加工が有名なワケでも、フュンフのようにキチガイなわけでも、ゼックスのように鉄の加工に優れるわけでも、ズィーベンのように秘密主義なわけでも、アハトのように過酷なわけでも、エラフのように精霊信仰が厚いわけでも、ツェーンのように伝統を重んじるわけでも、ツボルフのように竜を駆れるわけでもない、そんな村がノインだ。


 唯一誇れる部分は、その人口。

 否、夜の部分だろうか。


 現時点における12の村の中で、最も土地が広く、人口も多い。

 それは一重に、この村の娼館の多さが起因するだろう。

 親から産めよ増やせよと言われるノインの人間は、子を造る事に忌避が全くない。

 男は例外なく戦士となり、その屈強な身体は性欲を抑えられないし、女はどれほど子を産んでも容姿が崩れる事なく、みな己を高めようと扇情的な格好をして男を誘う。


 他の村から最も爛れた村だのと揶揄されても全く気にしない、それがノインの実態。


 数は兵力だ。

 命が軽いわけではないが、死んでも代わりがいるというのは余りにも絶望的。

 戦争が長引けば長引くほど戦える子供が増え、青年になり、戦士となってファイントを押し返す。

 他の村にはない、ギルド職員専用の娼館なんてものまであるノインは、そういう意味で鉄壁なのだ。


 だが、迎撃能力しかない鉄壁と攻撃能力の低い矛では決着がつかず、結果200年の時が過ぎてしまった。

 犠牲者は双方共に計り知れず、憎しみだって積もっている。

 誰もが疲弊し、願っているはずだ。


 何か、大きな――この拮抗を揺るがす大きな出来事が起きないか、と。

 その大きな出来事が何か。


 俺は多分、それを知っている。











「よーっすレグレス。何見てんだ?」


「……これから起こるだろう、悲しい事件の発生地です」


「?」


 壁の外では鉄と鉄、石と鉄、そして血と血がぶつかりあう戦場が繰り広げられていて。

 壁の内では肌と肌、声と声、悲鳴と歓声が響き合う。

 ここはそんな壁――ノインを囲う鉄壁の直上。

 監視の兵や弓兵が多く存在し、休んだり壁の内を覗いて楽しんだりしている境界線。


 俺の名前はレグレス・ツァイト。

 昨日聞いた『戦場に現れた巨竜』を、誰よりも先に観測しようとする卑怯者。


「今日で200年……俺にとってはこれからの200年。問いかけます、村長。俺は昨日、何をしていましたか?」


「何って……いつも通り、ファイントの奴らの手の腱だけを切り裂く神業で、殺さずに奴らを追い返してたじゃねーか。なんだ、酒でも飲み過ぎたか? それとも激しいプレイでもしたか?」


「いえ……思い出しました。そうでしたね」


「おう! ……しっかし、200年か。オレが村長に任命されてからもう30年だが……俺の4代も前の村長ン時から戦ってたって事だよな。っは~、よくもまぁファイントも飽きもせず、って感じだが」


 戦いに赴かない村長は比較的その任期が長く、他の住民が20や30そこらで死んでいく中を生き続けなければいけない。

 村長は前任の村長が35年を務めた後、20代の若者中から1人を選出して後任とする。

 男で、身体が他の者より弱い事が条件だ。

 

「村長、こんな場所に居てもし弓でも降ってきたらどうするんですか! 早く戻って仕事してください!」


「ばっかおめぇ、弓が降ってくるわけねーだろ。降ってくるのは矢だ、ってな!」


「大丈夫です。今日、村長が死ぬ事はありません。たとえ――そうですね、全裸のまま戦場に出た所で、傷一つ負う事はないでしょう」


 何故なら昨日の村長は五体満足でピンピンしていたから。

 「オレの代で戦争が終わった事が、何よりも嬉しいんだ!」と言って村中を駆けずり回っていたから。 


「何を根拠に……。とにかく! 怪我しようがし無かろうが関係ないんです! 仕事! あなたが娼館で遊びまくっていたツケが溜まってんですよ! ほら、さっさと行く!」


「まぁ待てまぁ待て。明日やるって。明日から本気出すって」


「あんたそればっかりでしょうが! あんたがサボると僕らがサボれなくなるんです! はよ仕事してください僕も女の子たちとイチャイチャしたいんですから!」


「本音漏れてっぞー。しかし、断るプー。少なくとも19:00まではここで戦場を見続けるのがオレの日課! だよな、レグレス!」


「いや知りませんけど」


 俺にとっては明日からの事だし。

 曲がりなりにも年上なので敬語を使っているが、この村長を敬うべきかどうかは測りかねている。

 だがまぁ、今の俺の口調が全く違和感を持たれずに通じているあたり、俺はこれからも敬語を使いつづければいいのだろう。

 それがレグレス・ツァイトとしてなのか、ドゥジエーム・プロシャンとしてなのかはわからないが。


 ドゥジエーム・プロシャンとは今俺の使っている体の本来の持ち主の名前だ。

 健康体な上に魔力も豊富、それなりの知能と裕福な家を持っていた。


 戦場を心配そうに見守る未だ弱い12の精霊もしっかり見えているし、自身にかけられた時間逆行の性質も理解している。

 残念ながら始まりの記憶を持っていない俺は、自身が何故レグレス・ツァイトという名前なのか、どうしてこのように時間を逆行してしまうのかまでは理解していないが、そこは然したる問題だろう。

 問題は昨日に至るまでの日々に聴き続けた竜の出現と戦争の終結。

 話に寄れば俺はその竜に会う必要があるらしく、恐らくだがそれこそが戦争の終結になる。


 だからこうして、今か今かと待ち続けている次第であるのだ。






「ん……物見! 11時の方向!!」


「りょーかい! ……発見、二個大隊だな! おい起きろてめぇら! 奴さんが来たぞ!!」


 竜を探す為に双眼鏡をのぞいていたから早く気付けた。

 それなりの速度で馬に乗ってくる奴らの場所を物見に伝えれば、すぐさま伝達する。


「パルクル、ケイル! 面倒だ、一発ぶっかませ!」


「りょーかい。ケイル、お前何使う?」


「モス。火球落とす」


「んじゃ天才パルクル兄さんは雷でも落としますかね」


 ノインの村に住まう2人のハイエルフが魔力を準備する。

 願いと少量の魔力によって大規模な奇跡――破壊を齎す魔法は、ノインの村でも重宝される能力だ。

 2人はエラフの出身だが、ギルド構成員としてこの街に派遣されている。


「出ます」


「レグレスか! パルクル、ケイル!」


「モス。当てない。どうせレグレスには当たらない」


「精霊様たちが自分達から避けるからなぁアイツ。感じられる限りでは何の加護(・・・・)も無いのに。ほんと、ハイエルフからしたら天敵だぜ」


 昨日よりも傷の減ったローブを深くかぶりながら、100mはある石の壁を降りる。

 これもハイエルフの協力によって築かれた壁で、村を囲う方はせいぜいが30mだ。

 

 ローブをはためかせながら着地する頃には大隊は目と鼻の先。

 

 風よ、俺の身体を前に押してくれ。


 ゴウッ! と追い風が吹く。

 精霊魔法。ハイエルフの2人にはバレているが、俺の精霊魔法の使い方はハイエルフと全く同じである。

 これが正解だと知っているから、最も効率の良い使い方をしているのだ。

 その方が精霊も喜ぶようだしな。







「モス。火球、10秒」


 ケイルの声を風の精霊が届けてくれた。

 恐らくパルクル辺りが乗せたのだろう、天才などと嘯きつつ律儀な奴だ。

 

 見れば二個大隊の上に真っ黒な雷雲と太陽かと見紛う火球が浮かんでいる。

 

 そう、ライヒ王国がこの短時間でここまで成長した理由の1つに、精霊の存在があると言えるだろう。

 精霊魔法が使える人間は少ないが、ハイエルフ達は大規模に、エルフたちは使えない者がいない。

 その彼らが協力的なおかげもあって、ライヒ王国は見る間もなく大国家に成長できたのだ。


「散らばれ! 訓練通りに行動しろ!」


「アレが間に合えば、我らの勝利は目前だ! 到着までなんとしてでも持ちこたえろ!」


 鎧を付けた人間が鎧を付けた馬に乗って、綺麗な陣形を描いて移動している。

 流石は3000年の歴史を持つファイント。兵士の練度は高い。


「――出たぞ! 茶ローブ! 絶対に近寄るな、弓で仕留めろ!」


「馬を近づけるな! 雷を避けつつ、確実に殺せ!」


「……随分」


 警戒されているな、と思いつつ、すれ違いざまに馬の腱を切り裂く。

 喋っている暇があれば逃げればいいのに。

 落馬した司令官らしき人間を行動不能にしつつ、次の獲物を見定める。


 カッ! という眩しい光。

 ローブで眼を守り、再び開けたそこは地獄絵図。

 ケイルの火球は、真下ではなく斜め下に堕ちたのだ。



「被害報告ッ!」


「ダメだ、司令官殿がやられた! 茶ローブだ!」


「何でもいい! 押せ、押せ!!」



 おかしい。

 やけに……やけくそというか。

 練度が高いのに、統率がとりきれていないというか。


 さっき言ってたアレ……何か関係があるのか?


「レグレス、奴らの様子がおかしい。すぐに応援が到着する。一度下がれ」


 こちらの司令官の声だ。

 だが、それは出来ない相談である。

 というか、アレってのは多分……。


「兵を下がらせてください。恐らく、竜が来ます」

 


 風の精霊よ、俺の声をサンジェンに。

 

 精霊は名前を管理する。

 すぐに届けてくれたはずだ。


 一瞬群がりかけたノインの街の戦士たちが引いていくのを遠目に見ながら、更に敵兵を切り刻む。

 降り注ぐ矢は風精霊が弾く。

 矢では無理と判断した槍兵の間をかいくぐり、その手指脚を再起不能にしていく。





 そして、時が来た。






これからのEKTを宜しくお願いします。

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