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Esiw Kcolcre Tnuoc(旧題:感謝される男)  作者: 劇鼠らてこ
ドライの街のレグレス・ツァイト
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暦2060年9月14日19:00~0:00

この章終わり!


 確実に、その名を後世に語り継がれるであろう巨躯の存在。

 (ドラゴン)。二足で歩行し、飛行やブレスといった行動を行う埒外の存在。

 他の動物の特徴が混ざった鳥竜種(ちょうりゅうしゅ)獣竜種(じゅうりゅうしゅ)が、長い年月を経て身体の長い蛇竜種(だりゅうしゅ)と呼ばれるものへ昇華し、さらにそれが精霊の加護を得る事で最上位の(ドラゴン)へと転ずる。

 それが世に知られたドラゴン種のメカニズムであり、誰もが畏れ、恐怖すると同時に憧れるお伽噺だ。


 そう、お伽噺なのだ。

 蛇竜種に至るモノなど極僅か。飛行可能な竜種を従えるツボルフの竜騎士でさえ、自ら達の駆る竜が蛇竜に至ったことなど歴史を見ても片手の指で足りるほどだと言う。

 ましてやそれが、龍へ転ずる事など――夢物語なのだ。


 蛇竜になった時点で言葉は解すという竜だが、龍となると思念を相手に送ることが出来るらしい。言葉を駆り、悠然と空を征くその様はまさに王者。過去の人々はその脅威に自然と頭を垂れ、それが災厄となった時には無抵抗に殺しつくされたという。

 ……トチ狂ったフュンフの連中を除いて。


 とにかく、龍とは伝説上の存在なのだ。

 例え俺の相棒たる大精霊にも負けずとも劣らない……いや、単純な存在の強さで言えば遥かに上位である龍が、まさか。


『ありがとう、レグレス・ツァイト。 あの日、お前に出会えたことが全ての始まりで――全ての救いだ。 瘴気に犯された母をも解放してくれたお前に、言葉が尽きる事は無い』


 まさか、俺に向かって頭を下げるなど――あるはずがない。


『とは言い切れないのがレグレスだよね……でも、僕の記憶は……いや、え?』


『私の姿も変わった――傷だらけの子竜を、覚えているか』


『……あの時の!? そんな……どうやって生き延びて、ううん、じゃあレグレスは――あの子だったのか!』


 いつもは忘れがちだが、超常の存在である大精霊。 その一角であるヴィント。

 超常の存在同士である2人の会話に、俺は入り込めない。


 礼を言われても、どう返したらいいかわからない。

 それは日常でも同じだ。だって、自分が彼らに何をしたのか覚えていないのだから。


 どういたしまして、という言葉は自身の行動に責任が無いと使えない。

 だから曖昧に返してきたが……これはどうしたものか。


『母の名はオルトレネ。 名を貰う前に戦争に巻き込まれた子竜は、今こうして母を越え……同じように、龍へと至った。 あの時は礼を欠いた態度をした――今の私は、お前に何が返せるだろうか、レグレス・ツァイト』


 出た。

 お礼をしたい、という言葉。

 冒険者、街人、貴族、王族、商人。人だけではない。 精霊、妖精、亜人に言われ続けたこの言葉は、果てに龍にまで言われるようになったか。


 龍に、してほしい事。

 大それた願いをしよう。

 大精霊ともなれたんだ。


「俺の……友となって欲しい。 それだけで良い」


 男児の夢だろう。

 超常の存在と、対等の友になるというのは。

 相棒であるヴィントは、いつの間にか相棒だった。

 ヴィントから俺を求めてきて、俺はそれに応じただけ。


 俺から友を求めた事は無かったんだ。


『……友。 あぁ、私と、お前は友だ。 時を遡る旅人(レグレス)/()時の愛し子(ツァイト)


 ニヤリと金の顔が笑う。

 そしてその大きな大きな翼を、広く広く広げた。


『さぁ……この身はそろそろ行く。 また会おうぞ、真なる友よ!』


 龍の身体を光が包む。

 12色と1色。

 囲う様に、描く様に、なぞる様に。


『時の精霊魔法……! じゃあ、今日が最後!?』


「何の話だヴィント……時の精霊ってなんだ!」


 風が吹き荒れ、吹き荒び、吹き狂う。 

 凍り砕けた蔦の魔物の死骸を巻き上げるその暴風は、いつしか巨大な大雲となり――消えた。


 後に残ったのは、何も知らない物が見れば『大きな何かが居た』としか思えないような荒れ地と一本の木。

 そして、膝をつく俺だ。


『レグレス!?』


「……今、どっかに……残りの魔力を持っていかれた……! 方角は……アインス!」


 歩けなくなる程じゃない。

 けれど、凄まじいまでの膨大な魔力を持っていかれてめまいがしたのだ。

 龍が消えると同時に、引き抜かれるようにして持っていかれた。


 他人の魔力を引き抜く精霊魔法など聞いたことが無いが……。


『フリーレンだ……あいつ、だからさっきあんな大盤振る舞いしたのか!』


「フリー、レン……? 確か、氷の大精霊か……」


『さっき使った全範囲氷精霊魔法、フリーレンの加護が乗ってたからね……。 多分、起点にされたんだと思う。 繋がりを造る為に、フリーレンの加護を与える為に君が大規模な氷の精霊魔法を使う必要があったんだ』


「……よくわからん、が……悪意のある物か?」


『ううん、悪意はないと思う。 というか、魔力そのものを持って行ったのは多分フリーレンじゃなくて……』


 口を噤むヴィント。

 あぁ。


 そう言う事か。


「……俺か」


 唯一俺に感謝しないモノ。

 それは、俺だろう。


『レグレス……?』


 身体中から力が抜けていく。

 違う。

 俺の意思で、この身体を動かせなくなっていく。


「ヴィント……コイツの事頼んだぞ……」


『コイツ、ってまさか!』


 ちら、と腕時計を見れば。

 

 その針は、どちらも12を指して――。


「じゃあな、相棒。 また会おう」


 俺は消えた。


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