暦2060年9月15日12:00~12:30
もう少し頻度あげまーす
「結局原因は分からず仕舞いか……。 ヴィントは何か知ってんだよな?」
『さぁねー♪ けど、明日はレグレスにとって忘れられない日になると思うよ。 君が生きている間は、だけど』
「なんだそりゃ……。 ま、悪い事じゃなけりゃなんでもいいんだけどな」
森からの帰り道。
9月ともなれば降り注ぐ日差しはそれなりに強く、ましてや森を抜けたこの辺りは遮蔽物たる木が少ない事も相俟って、非常に暑い。
このローブはゼックスの街のドワーフが作った物であり、あの町は年中雪、ないしは寒さに見舞われているせいか、寒さは防げても熱は防いでくれない。 というか籠って余計に暑い。
相棒が存在するだけで涼しい風が生まれてくれているし、ツァスサツァルの実を覆っている風がローブの内側から風を送ってくれているので大分楽ではあるんだけどな。
「そろそろ昼時だけど……コレ、どこで使うんだろうな? つーかこんなもん街中に持っていって引火でもしたらぞっとしない事になるんだが」
『緊急の依頼で必要になるんでしょ? なら、そんなに長く持ってることなんてないんじゃない?』
んでしょ? と言われてもな……昨日の相棒が言った事だし。
『ん~、じゃあさ。 レグレスの記憶の中で、昨日……焼け跡とか、見た?』
「……いや? 特にそういうモンは見てないと思うぜ」
『なら大丈夫! ツァスサツァルの実は、街中で爆発したりしてないよ』
「……ま、お前がそういうんなら」
ヴィントの未来予知は大雑把さこそあれど、百発百中だ。 相棒が大丈夫だっていうんなら、大丈夫なんだろう。
少しだけ小高い丘を越えると、ドライの街が見えてくる。 この丘の小高さは小憎たらしい程の小高さで、昇るにゃしんどいが影はつくらないという……あの森へ向かう者だけを苦しめる為に出来たような丘だ。
とはいえ、天辺にまで行ってしまえば後は降るだけ。 そこまで急勾配でもないし、ゆったり下って行けば――って。
「あー……」
『あったね、緊急の依頼』
あった。
というか、いた。
「きゃあああああ! だ、誰かあああああ!!」
ドライの街は草と花の街だ。
街のほとんどを植物が犇めき、街の周囲にも草原や花畑、森が広がっている。
当然魔物もそれに即した姿を取るのだが……。
『いかないの?』
「……ヴィント。 あの魔物……ドライの街にいる種別じゃなくないか?」
『ええ? ……うーん、まぁ言われてみれば……うーん?』
まぁ、簡単に言えば蔦の魔物だ。
さっきの森でもたまに雑草討伐として依頼が出る……至って普通の魔物。
だが、森によって見た目や能力も違えば、魔物にも住み分けがあるので、基本的に他の街に他の街の魔物が来る、というのは有り得ない。
「ちょ、そこの人!! 私を助けてくれない!?」
「あー……れ? 俺が見えてる?」
『……なるほどね。 凄いな……そういう縁もあり得るのか』
「お礼はするから! お願い!」
鳥系の魔物が運んだにしても、森の中に生まれて森の魔物たちに駆除されるだろうし……。
『レグレス、助けてあげたら?』
「ん? あ、あぁ。 忘れてた。 その依頼承りました!」
ヴィント、とりあえずあの蔦の根元ぶった切ってくれ!
『おっけー! てやっ!』
俺の願いを聞き届けたヴィントが、不可視の刃(本人曰く真空の刃)で蔦の魔物を切り裂く。
途端、依頼人を掴んでいた蔦が力を無くす。 当然、依頼人は落ちる。
「ひゃっ!?」
風の精霊さん、優しくあの子を包んでおくれ。
周囲の小さな精霊にお願いすると、蔦から地面へと衝突しそうになっていた依頼人を風の精霊たちが優しく包み込み、ふわりと降ろす。 流石、優しさにおいては水にも勝るとも劣らないな。
「へっ……? 緑の、光……?」
『……おや? 僕が見えるのかな?』
「これ……ふわっふわしてる……」
どうやら依頼人には小さな風精霊が見えているらしく、自身がどういう状況なのかも忘れて精霊を見ている。
一方でヴィントは見えないのか、依頼人の顔の前で相棒が手を振っても一切反応を見せない。
『見えてないみたいだね。 レグレス、この子は僕が守っておくから……』
「あぁ。 わかってる」
氷の精霊よ、凍らせていた物を解いてくれ。
懐に合った微小な氷精霊に願うと、ツァスサツァルの実を覆っていた氷が水を残すことなく空中へと消えていく。 あー、涼しい風だ。
そして解凍された赤い木の実を、蔦の魔物向かって全力で投げる!
ヴィント! その子に熱が行かないようにしてくれ!
光の精霊よ! あの実を撃ち抜いてくれ!
『ふふっ』
心の願いに反応して、俺の周囲に漂っていた光の精霊が収束。 そして、その矛先をツァスサツァルの実へと向け……一気に解き放った!
恐らく8精霊の中でも最も貫通力と威力に優れるだろう光精霊の一撃は、植物でしかないツァスサツァルの実をいともたやすく貫いた。
直後。
Bomb! ……という、ヴィントの言った通りの爆発音が響く。
小さな実だからそこまでの火力ではないが、火は火だ。
「え!? 風だけじゃなくて、火まで!?」
『ん~、フォイアルには遠く及ばない火力だねぇ』
「ううん……多分だけど、あれは光……。 光属性と風属性の二重属性持ちだなんて……」
轟轟と評するほどの火力でもない炎は、しかし耐火性のない蔦の魔物をいとも簡単に焼き尽くしていく。 燃え広がるモノがあるわけでもないし、例え移りそうになったってヴィントが居る限り無駄だ。 俺もいるしな。
そうして蔦の魔物は、とうとう力なくその身体を灰へと変えたのだった。
ヴィント、認識阻害諸々を解いてくれ。
『はいはーい。 君の綺麗な顔が見えなくなるのはさびしいけれど……』
フードを深くまで被り、未だ地面へと座り込んでいる依頼人へ近づく。
遠目で目立つのは、その赤茶色の頭髪だろうか。
横顔ですら美人だとわかるその顔立ちに、美しい赤茶がとても映えている。
歳は……よくわかんないな。
顔立ちってのは整い過ぎていても整わな過ぎていても本当の歳を覆い隠してしまうものだ。 俺の顔? 知らん。 水面にでも聞いてくれ。
「緑の光が……すいこまれ、え?」
まるで今気が付いた、と言わんばかりに俺を見る依頼人。
恐らくこの子は余程精霊の感知能力が高いんだろう。 常に人からでる小さな精霊を感じているからこそ……俺みたいな、完全に術の気配を遮断してしまえるローブを着ている者を感じることが出来ない。
ま、俺みたいなのはそうそういないだろうけどな。
「立てるか?」
「あ……あ! さっきの助けてくれた精霊術士さん!」
「ああ。 色々と事情を聴きたいが、まずは名前を聞かせてくれないだろうか。 何分、筆頭と呼ばれていても……商売なんでね。 金は貰っていないが」
相棒と話す時と口調が違う?
仕方ないだろ。 対人会話に慣れてないんだよ。
「筆頭? ……もしかしてあなた、ドライの街の筆頭精霊術士さん!?」
「ああ。 もしかして私に用が在ったのか?」
「ええ! 幸運ね! これは幸運よ! うふふ、やっぱり思い立った日が一番幸せな日なのね!」
明るい子だなぁ。
俺の周りにはいないタイプだ。 元から人はいないんだけど。
『魔力もかなり綺麗だね。 レグレス、君程じゃないけどさ』
そりゃどーも。
「あ、そうだった、自己紹介よね」
依頼人が俺へと向き直る。
うわー、足綺麗だなー。
「私の名前はローテ・リーゼ! フィアの街のギルドマスターよ! 今日は、調査協力を申し込みに来たの!」
ん?
「……すまないね、お嬢さん。 私は耳が然程よくないんだ。 できるのなら、もう少しゆっくり喋って欲しい。 君はフィアの……なんだって?」
「あら、そうなの? ごめんなさい。 私はね、フィアの街のー、ギ・ル・ド・マ・ス・タ・-よ! あと、お嬢さんなんてやめてよね! 私はもうすぐ30なの! 子供じゃないんだから!」
……おいおい、フィアの街がいくら永世中立だからって……30?
はは、若すぎるだろ。
「……あなたの名前、教えて? 筆頭精霊術士さん!」
……30歳……13歳なら納得できるが……。
『レグレス? 名乗ってあげないの?』
……おお。 忘れてた。
「私はレグレス。 レグレス・ツァイトと言います。 さ、リーゼさん。 燃やし尽くしたとはいえ、どこかに種子を残していないとも限りません。 今のうちに街の中へと戻りましょう」
「……」
……。
……?
あれ……ぽかーんと口をあけて、どうしたんだろう。
何かミスった? 外交用の文句なんだけどな……。
もしやフィアでは名・姓じゃなくて姓・名だったりするのか?
それだと、俺は出会っていきなり女性の名前を気軽に呼んだナンパ野郎みたく……。
ガシィ!!
え?
「え?」
口と心が同じ反応を出す。
手が掴まれた。
誰に?
「わ……私と、前に会いませんでしたか!?」
女の子に。
あれ、俺ナンパされてる?
この物語は全13章構成です。




