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Esiw Kcolcre Tnuoc(旧題:感謝される男)  作者: 劇鼠らてこ
ドライの街のレグレス・ツァイト
27/33

暦2060年9月15日9:44~11:00

新章!


 最近、物凄く視線を感じる。


 いつも通り依頼仕事を受けているだけなのに、何故か畏怖と尊敬の入り混じったような目で見られるのだ。 そんな大それたことをした覚えはないのに。

 もしかして俺、街全体からいじめに遭ってる?



『それはないでしょ』



 相棒が即座に否定してくれた。

 だが、他の人に見えない相棒に礼を言うわけにもいかず、目配せでありがとうを伝える。 


 相棒が身体を揺らすと赤や黄色がゆらゆらと揺れる。 相棒が歩くとそこから気持ちのいい風が吹いてくる。

 ここはドライの街。 花と風の街だ。










『レグレス、今日は何処へ行くんだい?』


 そう問うてくる相棒。 俺はローブのフードを深くかぶり直し、南を示した。 そちらに何やら、パチパチとした明るい気配がするのだ。


『あぁ、やっぱりわかるんだね。 流石僕のレグレスだ』


「……」



 相棒が俺にだけ聞こえる声で言う。

 

 ……やっぱり見られている気がする。

 こそこそと物陰に隠れ、心の中で願う。


 光の精霊よ、俺の姿を隠してほしい。

 

 すると細やかな光の精霊が沢山集まってくる。 光の精霊は俺の身体にまとわりつく様にしてかたまり、微小な光を発生させた。



『うん、他精霊への願いなのに、僕にまで聞こえる。 レグレスの願いは本当に純粋で良いよね』


「あぁ。 本心からの願いだからな」



 風の精霊よ、俺の声を遮ってほしい。



『勿論だよ。 気兼ねなくレグレスと会話できるのは、僕としても本望だからね』


「だが、なんなんだ? 何故こうも俺に目線を向けてくるんだ? 昨日は土いじりの依頼しかこなしていないはずだが……」


『ふふふっ、さーて、なんだろうね? それよりほら。 姿を見られる心配もなくなったんだし、君の綺麗な顔を僕に見せてくれよ』



 まるで口説き文句のような言い方をする相棒に苦笑を漏らす。 相棒の言う綺麗な顔は美醜の綺麗という意味ではなく、豊富で潤沢で純粋な魔力の相が綺麗であるというものだ。 このローブは魔力を遮断するから、フードを脱ぐことでその相を相棒に見せてやることができる。

 オーダーメイドの特注品。 ゼックスの街のドワーフが手掛けた最高級品だ。


 フードをパサリと脱ぐ。



『ありがとう、レグレス! あぁ……本当に綺麗な顔だね』


「悪い気はしないな。 さて、じゃあ行こうかヴィント。 お前は分かっているんだろうけどな」


『勿論。 なんてったって、僕は風の大精霊だからね』



 風の大精霊・ヴィント。

 それが俺の相棒の名前である。













 俺は精霊術士を生業にしているが、その実精霊術ってのは誰でもが使える術だ。

 なんたって、事象を起こしているのは精霊であって俺達ではないのだから。



『むしろ精霊を詳しく知らない人間の方が願いは純粋だったりするよ』



 つまるところ、精霊術士ではない一般人の方が上手く精霊に願いを聞いてもらいやすいわけだ。 遥か昔に精霊そのものと意思を通わせていたハイエルフまでとは行かないが、魔力が多くて且つ精霊を詳しく知らない者・もしくは精霊は願いを聞き遂げるのだとしっている者であれば、すぐさま大精霊術士と呼ばれるまでに至る事が出来る。



『自分に見合った精霊を見つけられるかどうかも重要だけどね。 人間は知らないだろうけど、個人個人によって属性の相性があるんだ』


「俺は?」


『勿論風だよ。 君の身体はね』



 ヴィント曰く、属性相性は強力な精霊が傍に居続ける事で無理矢理書き換える事も出来るそうだ。 俺の場合は、元々備わっていたらしい最高峰の光と氷の相性に割り込むようにして風を入れたらしい。 勝手に俺の身体を改造しないでほしいと言いたいところだが、それによって相棒が俺の側に居やすくなるのならそれでもいいと思える。


 しかし、何故俺の身体は光と氷との相性が良かったんだろうか。

 基本的に生来の相性というのは周囲の環境で決まるらしく、ここ花と風の街ドライでは土属性の人間と風属性の人間が多いらしい。

 光属性と闇属性に親和する人間は滅多に出ず、さらに言うと十数年前まで光の大精霊が封印されていたので生来の光属性、という人間は大分減ったらしい。

 また、氷属性の人間が多いのはアインス。 貿易街アインスは一度行ってみたいと思うことは在れど、訪れた事があるわけではないのでやはり何故氷属性になったのかよくわからない。 そもそも2属性持ちは珍しいらしいのだが。



『もっと珍しい3属性持ちのレグレスなら、誰にだって負けないよ。 もっとも君はそれだけじゃないけどね……』


「どういうことだ?」


『ふふっ、おしえなーい』



 ヴィントがこういう事を言う時は、大抵俺に良い事が或る時だ。

 本人(本精霊?)はサプライズのつもりなんだろうが、バレバレである。



「そういやこのパチパチした気配……多分精霊だろうけど、ヴィントは何か知ってるのか?」


『うん、知ってるよ。 でも今日は出会えないんじゃないかな。 明日出会う事になるから』


「……また例の未来予知か? ったく……大精霊ってのはみんなそう言う事出来るのかよ」


『さぁねー♪ 君に関する事なら、リヒトやフリーレンにも出来るんじゃないかな?』



 楽しそうにヴィントが言う。 ヴィントは時々こういった明日起こる事を俺に教えるのだが、その全てが的中するのだ。

 昨日は確か、「何かを感じて森にいくことになる」「久しぶりに僕の力を沢山使うことになる」「赤い実を森で採取するといいよ、緊急の依頼で必要になるから」だったか……。



 あぁ、もう最初の1個が合致してるなぁ。



「で? やっぱりヴィントは昨日自分が言った事、覚えてねーんだな?」


『うん。 なんたって、僕はそれを経験してないからね。 明日になったら僕は覚えてるんじゃないかな?』


「……そうかい」



 この独特な言い回しは大精霊に共通するものなんだろうか。

 だが、そういう飄々としたところ含めて俺はヴィントを相棒だと思っているし、大切に思ってるんだよな……。



『あはは、僕もそうだよ。 君が気に入っているから一緒に居るんだ』


「んじゃお互い様だよな。 ……っと、赤い実だ」


『ツァスサツァルの実? それが必要だったのかい?』


「ん……ヴィントが昨日教えてくれたんだよ。 緊急の依頼で必要になるってな」


『へぇ……ツァスサツァルの実が必要になる依頼ってなんだろう。 んー、それしっかりとローブの内側に入れておくんだよ? 何かの弾みで火元に近づけたら……』



「近づけたら?」


bomb(バーン)!』



 うへぇ。 知らない実だったが、なんつー恐ろしい実だよ。

 


「冷やして平気か?」


『凍らせても問題ないね。 むしろ、凍らせた方が安全だと思うよ』


「んじゃ、」



 氷の精霊さん、この実を凍らせてほしい。

 風の精霊よ、この実を包んでほしい。



『それが一番だね』


「あぁ。 けど、良いのか? どう感じても風精霊に与える魔力量が少ないんだが……」


『風の精霊にとって、君の身体は存在するだけで心地いいものなんだ。 それに、僕が近くにいるからね。 君が純粋な願いを願うだけで、風の精霊たちは喜ぶ物なのさ』



 らしい。 あまりに持っていく量が少ないので勘違いしがちだが、光と氷に関しても普通の術士の半分以下の量に収まっているらしいから驚きだ。

 一応この街では筆頭精霊術士なんて呼ばれちゃいるが、どうにも実感がわかないのもこのためだ。 頑張っているのは精霊たちなのに。



『あ、レグレス。 ほら……君の感じたパチパチって、これの事じゃないかい?』


「ん? ……うぉ!? なんだこれ……」



 ヴィントの風の指が差す場所。 そこには、未だ黒い煙を吐き出し続ける焦げた一本の太い樹が鎮座していた。 樹齢はかなり行ってそうだ。 背は凡そ70mほど。 直径もかなりあるな。

 うん? 未だ黒い煙を……?



「げっ、まさかこの樹――」



 直後、凄まじいまでの勢いで炎が燃え広がる。 まるで精霊術でも使ったかのような燃え広がり方だが、炎の気配は感じなかった。 何より森を燃やすなんて事に精霊が力を貸すはずがないのであり得ない事ではあるのだが。


『サパーリュング。 樹皮に節目や罅が生まれないのが特徴の樹だね。 多分、樹木内部で火がずっと燻りつづけていたんじゃないかな?』


「なんでそんなトコに火種が生まれるんだよ! 氷の精霊は……やばいな、ツァなんとかに使ってるキャパシティが想像以上に多い!」



『わかってるんだろ? 明日(きのう)の僕が言っていたようだし』



 まぁ、こんな状況でわからないはずもない。

 「久しぶりに僕の力をたくさん使う事になる」という予言。 赤い実の後すぐに、こんな早く来るとは思ってなかった。 

 考えている間にも火の手は大きく、大きく広がっていく。

 枝の方で他に気に燃え移る前に遮断する必要があるだろう。 サパなんとかの大きさは目測で70m。 ヴィントの力を借りる以外での方法は見つからなそうだ。



 頼んだぞ、ヴィント! あの樹を外界から遮断してくれ!



『うん! その願い、しっかり聞き届けたよ』



 瞬間、突風。 いや暴風が吹きぬける。


 目の前の樹を中心に、小規模且つ凄まじい威力の竜巻が出現したのだ。

 そんなものが目の前にできれば俺だって吹っ飛ぶはずなのだが、俺の周りには風の膜のようなものが張られていた。 ケアもばっちり、って事か。


 そのまま勢いを増していく竜巻。 風の膜内部に小さな精霊が避難してきた。 魔力すらも巻き込む竜巻のようだ。



『さぁ、レグレス。 願ってくれ!』


「あぁ……」



 風の大精霊、ヴィント! 樹を傷つけずに、炎を消し去ってくれ!



『お安い御用さ!』



 風の勢いが増す。 突き刺し、貫くような風。 しかし中心の樹も、周囲の樹も傷つける事は無い。 燃え広がろうとする炎を巻き取り、絡め取り――



 竜巻がブワッ! と晴れると同時に、炎は完全に鎮火した。


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