暦2000年7月7日12:00~23:00
3日遅れました。
『答えろリヒト! 何故人間たちを守る! この街はフォイアルの加護によって発展したにも関わらず、フォイアルを捨てた! その意味が分からぬお前ではあるまい!』
『フォイアルは捨てられたんじゃなく、自分から出て行ったのよ? うふふ、やはり盲目ね、ダンケルハイト。 その濁った瞳のまま、意識すらない矮小な存在へと還りなさい』
レグレス・ツァイトが特殊な存在だからなのか、ずっと大精霊サマ2人の声が聞こえている。 そいやぁあのロングソードが大精霊サマを止められたのも、レグレス・ツァイトの特異性にあるのかもな。
『違う! 現に、この街の人間はフォイアルの名を覚えていないだろう! あいつの性質上、自ら人間の元を離れるなぞ有り得ん!』
『あら、フォイアルは今ゼックスの街にいるわよ。 大精霊として、しっかりね。 ふふ、それってフォイアルが追い出されたからじゃなく、フォイアルがしっかりとケジメを付けて出て行ったからじゃないかしら?』
話を聞く分に、闇の大精霊サマは火の大精霊フォイアル様を捨てた? っていうアハトの街の人間が気に入らなくて、積もりに積もっていた苛立ち込みで滅ぼしてしまいたい。
光の大精霊サマはフォイアル様は自ら出て行ったのだから、闇の大精霊サマの言い分は間違っている、って言いたいわけだ。
情報が錯綜してる……ってのとは違うかもしれんが、なんだろうなぁ。
ゆっくり話し合えば済む事なんじゃないか、って思っちまうよな。
ちなみに俺はフォイアル様の名前をしっかり憶えている。
そもそも鉄の加工技術はフォイアル様から授かった物だ。 確か鉄に関わる職人の中でも棟梁クラスでないとその名前は知らないかもしれないが、しっかりとこの街で受け継がれている名前。 勿論、最大の恩人として。 恩精霊か?
それこそ鉄工所とかの入り口にはフォイアル様を象った意匠が掘られているし、言ってしまえばそこら中に立ち並ぶ鉄塔の基盤部にだってフォイアル様の意匠が入っていたはずだ。
だから、どうして闇の大精霊サマが『この街の人間はフォイアル様の名前を覚えていない』って思ったのか不思議でならないんだが……。
その辺の子供に聞いたりしたんかな。
「おーい、レグレスー。 餅食べるかー?」
「餅? なんでそんなもんが? ってか、もう昼か」
ノックも無しに、扉が開いて短髪の女が顔を出す。
一応、アハトの街のギルドマスターだ。 名前は知らん。
それなりに貢献度の高い俺はギルドマスターと会話する機会も多く、なんだかんだあって仲良くなった。 結構チャラチャラしてる自覚はあるんだが、外見だけで判断しない奴だったって事で。
「なんかツヴァイでモチゴメ? の開発に成功したとかで、ツヴァイから帰った奴がくれたんよ。 で、とりあえず全部ぶち込んでつくってみたらめちゃくちゃ多くてな。 6割は喰ったが、アタシじゃこれ以上食えん。 で、お前の出番なワケ。 わかるな?」
「OK、ギルドマスター。 それは強制かい?」
「当たり前だろ? 昨日お前、アタシに借り作ったばっかじゃねえか。 それチャラにしてやるから食え」
心当たりがありませーん。
それは昨日の俺がやった事でーす。
なんて言っても通じないだろう。
この大食らいが6割食って腹いっぱいと言うことは、1割1割がそれなりにデカいはず。
……喰いきれるかねぇ。
「はーん。 美味ェけど、いいのかよ」
「何がー?」
にっちゃにっちゃもっちもっちと餅を食べながら問いかける。
問いかけられたギルドマスターはテーブルに右頬を付けて、顔を横にしてこっちを見ている。
「コレの事」
そう言って指差すは、窓。 というか窓の外。
明日俺が解決したとはいえ、こう……街長っぽいおっさんと話し合う事があるのではないだろうか。
「明確に助けてほしいって言われてないから大丈夫大丈夫。 なんかフュンフとエラフに断られて、更にフィアにまで拒否されて面白い顔してたぜ」
「ほーん。 美味ェけどコレ、飽きるな。 他の味付けとか無ぇの?」
「モチゴメが開発されてからすぐ持ってきたらしいからなー。 色々試してる途中」
「あー。 じゃあチーズあるか?」
「あるけど」
もしかしたら俺は料理の才に秀でたレグレス・ツァイトなのかもしれない。
この餅にチーズと……あとなんかしょっぱいモンがあれば、美味いのがわかった。
料理か……。 やっぱこう、戦闘系が良いなぁ。
「はい」
「……ブルーチーズか……」
ブルーチーズか……。
ブルーチーズは合わない気がするなぁ……。
ブルーチーズはサラミと一緒に……あと酒をだな。
「まぁ食ってみるか」
「レグレスの食べ合わせに興味は無いけどよー。 もしアハトの街からギルドに依頼があったとして、行くのは確実にお前になるってのは把握してる?」
「何の脈絡も無ぇな。 ま、わかってるよ。 そして俺には解決できる自信がある」
「はーん。 流石。 正式なギルドメンバーでもない癖に、いつも苦労かけてばっかだなー」
「今まさに苦労を被っているんですが」
何も悪いと思ってい無い声色で言われてもなぁ。
あとやっぱブルーチーズは合わねえなぁ。
「この混沌な時期に食糧をタダで提供してやってんだ。 ありがたく思えよ」
「おー、できれば糯米の状態で欲しかったなー」
「モチゴメ持って帰ってきた奴に言え」
このように適当極まりないギルドマスターだが、出身がゼックスで育ちがフュンフという事もあってか異様に強い。 あと頭がいい。
あ、そうだ。
「そいや、ギルドマスター。 フォイアル様って知ってるか?」
「はぁ? 知ってるに決まってるだろうが。 何、アタシを馬鹿にしてんの? チビだからって馬鹿にしてんの?」
「いやぁ……チビなのは馬鹿にしてるけど、フォイアル様を知ってるかどうかが重要だっただけだ。 おぉっと!」
「お前、アタシが年上って忘れてない? もっとケーイを払えケーイを!」
「この量の糯米全部投入して餅作る奴に敬意とか払えませんねー」
残り4割。
そう言われてきた食堂には、丸々1個のでっかい餅が。
ホワイトスライムかと思ったわ。
裏側に周ってみれば、確かに6割ほど削られていた。 全体で見れば、な。
正直馬鹿だと思っている。
「……こんだけ食ってるのになんで大きくなれねぇんだろうなぁ」
「アンタがドワーフだからじゃないですかねぇ。 やーいやーい一生チビっ子ー。 うぉっ!? ちょ、斧は不味いって!」
まぁ、ギルドマスターがフォイアル様を知っているのは当たり前なのかもしれない。
ゼックスはドワーフの街であり、フォイアル様がいる街でもあるのだから。
割と身に危険がある斧を避けながら餅を食べる。
英雄みたいなレグレス・ツァイトと違って、俺の身体能力はそこまで高くないんだけどなぁ。
うわ、掠ったよ。 このギルドマスター殺す気だよコレ。
「餅を喉に詰まらせて死ね!」
「だったら斧必要ないんじゃないですかっ! ねっ!」
「気分だ!」
気分で殺されちゃあ敵わねぇ。
ギルドマスターが呼び出しを受けて――恐らく街長のおっさんに――、餅を食い終わって18:00。 腕時計の文字盤が薄く光りはじめる頃合い……は、通常の日であればのこと。
昼夜逆転が起こり続ける現在のアハトに於いて、文字盤は光ったり消えたりを繰り返していてあまり参考にならない。
さて、俺が現在いる場所はギルド内部の図書館だ。
アハトの街自体の図書館も存在するのだが、正式メンバーではないとはいえギルドメンバーは街の人間に受けが悪い。 余計な喧噪が面倒という反面、外に出る事自体が今は面倒極まりないというのが本音である。 いや、行こうと思えばいけるんだけども。
何をしに図書館へ来たか、といえば。
まぁ精霊の事を調べに来たのだ。
解決は明日できたから気にしていないが、なんとなく……光の大精霊サマが言っていた『時の残滓』って言葉が気になった。
すっげー苦しそうな声だったから他の言葉だった可能性もあるんだが、恐らく『時の残滓』で合っていると思う。
というわけで、時の精霊か何かがいないかと調べに来たのだ。
ほら、俺の特殊体質が精霊サマによるものの可能性も無きにしも非ずだろう?
「えーっと、精霊……精霊」
そこまで蔵書量があるわけでもないギルドの図書館。 これがツヴァイの街なら気の遠くなる程の量があったかもしれないが、こんな小規模の図書館なら目的の物はすぐに見つかる。
「あったあった。 えーと、『えほんでわかる……』違うね。 『図解! 精霊の紋章』……気になるけど後で。 『精霊図鑑』これかなぁ……」
矢張り専門書みたな本は無いか。
まぁ仕方ない。 精霊サマを全部知ってるわけじゃない俺にとっては、ありがたい本だし。
それほど厚い本ではなかった。
というか、数ページしかない冊子のような本。 誰が置いたんだよコレ。 さっきの絵本の方が厚いじゃねーか。
そんな本故というべきか。
パラパラとめくってみても、時の精霊、なんて単語は何処にも出てこなかった。
使えねぇ。
「……絵本……行ってみるか……?」
ほら、絵本とか幼児向けの本の方が真理をついている事もあるし!
そう自分に言い訳をして、絵本を手に取った。
そして、何気なく見た作者名。
「ヴァールハイト=トゥールース……。 あーあ」
あーあ。
見なければ良かった。
つまり、昨日ギルドマスターに貸しを作ったのはコイツだったわけだ。
今日限りかー。
絵本を戻す。
恐怖に怯えて最後の瞬間を迎えるより……楽しかったと、そう言って眠りたい。
「よっし! 遊ぶぞおおおおおお!!」
「静かにしろ! ここは図書館だぞ!!!」
「……へーい」
確実に司書さんの方が声大きいじゃないですか……。
アハトの街編、終了です。




