暦2000年7月7日8:00~11:00
少しだけカラクリ説明回
朝目が覚めると、夜だった。
「はぁ……」
昨日どれくらいの期間争い合っているのか聞いて於けばよかったと、しみじみ思う。
少なくとも今日から少しの間、昼夜がバラバラな日々を過ごさなければいけないと思うと非常に面倒だ。
昨日まで解決されていなかった辺り、俺は今日からあの2人には会えないのだろうし……。
俺ことレグレス・ツァイトには不思議な体質が宿っている。
時間遡行というべきか、逆行というべきかはわからないのだが、ともかく俺の意識は他の人間と流れが違う。
目が覚めた時を起点として、眠りに就くまでは同じ流れだ。
問題はその後。
眠りに就いてから目が覚めるまでにこの体質は発動し、俺だけが昨日へ行く。
自身のいる場所や持ち物も昨日の最後の時点に変わるので、できるだけいつも同じ宿で寝るようにしているのだが、これがなかなかどうも上手くいかない。
ある時は森の中で、ある時は路地裏で。 屋根の上だった時もあったかな。
昨日の自分(俺から見れば明日の俺)がどういう行動を取るのか。 ある程度は周囲の人間から聞きこめるものの、全てわかるわけじゃない。
だから、昨日や今日のように宿で起きる事が出来た日はとても安心するんだ。
あぁ、明日は安全な日だなって。
不便さはあるものの、未来予知に近い事が出来るという意味では、俺の仕事にかなり役立っている体質だ。
何故なら、俺が今生きている時点で俺は明日死なない。 さらに、俺の意識がある時点で未来で俺が死んでいる事もない。
昨日闇の大精霊サマと無茶な誓約を簡単にしたのは、それが理由だ。
未来が瘴気で溢れかえっているなら、当然俺も巻き込まれているはず。 瘴気は触れた者に侵食し、狂わせて死に至らしめるモノだ。 俺の精神が無事であるはずがない。
つまり、未来の俺はしっかり光の大精霊サマを見つけている、ってな。
まぁこれが俺の生きている内に起こった事なら、俺の記憶にその出来事があるはずなんだが……、生憎と俺はそれを覚えてない。
つまり俺はあと50年以内に死ぬって事なんだろう。
話が矛盾しているって? あぁ、わかってるさ。
でも、こればっかりは確認の使用が無い事だから仕方がない。
俺が分かるのは、レグレス・ツァイトってのが1人だけじゃないって事だろうな。
たまに文献にいるんだよ。 レグレス・ツァイトって名前の奴が。 俺が確認しているだけで3人も。 俺を含めたら4人か?
精霊の監視があるから、同姓同名ってのは絶対にありえないようになってるんだが、しっかり文献に残っている。
これはつまり、レグレス・ツァイトってのが複数人いる事に他ならないと思うんだわ。
自己の定義を否定する見たいで、気持ち悪いんだけどな。 まぁ俺はあんまり気にしない性格だから良かったよ。 気にする性格の奴だったら、くよくよしてただろうからさ。
レグレス・ツァイトに関する文献を読んでいて面白い事は沢山あった。
例えばレグレス・ツァイトが現れるのは、恐らく各町に1人だけだって事。 さっき言った確認した3人ってのはノインの街、フュンフの街、ツェーンの街だった。 んで俺がアハトの街だな。
恐らく未来ではアインスとかツヴァイとかに出てくるんだろう。 各町に1人、レグレス・ツァイトが付いてきます、ってか。
他にも、レグレス・ツァイトってのは基本的に激動の最中にいるらしいって事だろうな。
俺も今か今かと楽しみにしていた感はあるんだが、昼夜バラバラなんて面倒な事だとは思わなかったぜ。 まぁ大精霊同士の喧嘩を仲裁したってのはちょっとかっこいいか?
ノインの街にいたレグレス・ツァイトは400年~600年にかけて行われていた戦争の真っただ中で活躍していた。 なんでも、戦争を終結に導いた立役者の1人だとか。
フュンフの街にいたレグレス・ツァイトは竜退治の功労者。 なんでも山みたいにでっけぇ瘴気を纏った竜を倒したらしい。 かっけぇよなぁ。
ツェーンの街にいたレグレス・ツァイトは上の2人と違ってちょいと地味なんだが、他2人と違って絵があるんだ。 そこに描かれていたのはエルフとドワーフとヒト2人。 あと空に浮いている八つの光。 俺はこれを大精霊サマだと睨んでるね。
そんで、このヒト2人の内の1人の名前がレグレス・ツァイトだった。 昔の絵画に描かれるとか憧れるよホント。
この調子で行けば、後世のレグレス・ツァイトが俺の事指して『光と闇の大精霊の喧嘩を止めた英雄』みたいに解釈するんじゃないかって思うと、ワクワクする。
ただ、1つだけ不思議なことが或るんだ。
それは、どのレグレス・ツァイトも明確に‘死んだ’って記録がない事。
正確に言うと、歴史書の途中でいきなり名前が変わるんだ。
レグレス・ツァイトから別人の名前にな。
ここからは俺の推測っつーか憶測なんだけどな?
レグレス・ツァイトってのはもしかしたら‘乗り移るモノ’なんじゃないかと考えているんだ。
どういう事かってーと、各街の若者1人がランダムに選ばれてレグレス・ツァイトの意識が乗り移る。 その日からレグレス・ツァイトの意識だけが世界を逆行していって、またある日いきなり他の街へ飛んでいく。
周りから見ればいきなり選ばれた若者がレグレス・ツァイトって名乗りだして、ある日パッと戻る感じになるから怪しいと思うんだけど……。 そこはまぁ、大精霊サマの力がなんとかしてるんじゃねーかな。 こう、ババッ! って。
だから、今現在俺は俺の事をレグレス・ツァイトだって確信しているけど、本当は本来の名前があるんじゃないかと思うんだわ。
歴史書を見る限り別人になった奴はその後も普通に生きているみたいだから、俺の意識がどこかの街へ飛んで行った瞬間……いや、昨日から先の未来のどこかで本来の意識に戻るんじゃねーかと考えてるよ。
流石に俺でも‘俺の意識が飛んで行った時の連続性’って奴を考えるのは怖い。
俺の記憶は未来の俺の事なんか覚えてねーからさ、多分途切れちまうんだろうな。
恐ろしいし、考えたくないし、逃げたいとさえ思うけど……どんだけ頑張って意識を保っていても、0時になっちまえば強制的に眠りについちまう。
もしかしたら今日眠りに就いて……そのまま俺の意識が終わるかもしれないってのは、それなりに恐怖だ。
だから出来るだけ無駄な一日は過ごしたくないんだが……。
「はぁ」
昼に成ったり、夜に成ったりする窓の外を見るとなぁ。
アハトの街は砂と鉄の街ゆえに、昼夜によって服装を変えなきゃいけない。
昨日の俺は健康だったから死にはしないんだろうけど、だからって外に出たいかどうかって言ったら話は別だ。
やっぱり今日もギルドの図書館で1日を過ごしますかねー。




